【保護犬を飼う難しさとうまく暮らすコツ】元保護団体スタッフ、ドッグトレーナーの里見さんに聞きました

【保護犬を飼う難しさとうまく暮らすコツ】元保護団体スタッフ、ドッグトレーナーの里見さんに聞きました

保護犬を家族に迎えることが決まったら

保護犬のトライアル(お試し飼育)が決まり、環境整備を済ませたら(脱走防止など環境整備については「第2回 保護犬を自宅へ迎え入れる前に必要な準備」を参照ください)いよいよ保護犬を自宅に迎え入れることになります。

多くの場合は、自宅まで保護団体のスタッフさんが送り届けてくださいますので、その際にそれぞれの犬に応じたアドバイスを受けてください。その上で、犬も人も快適に過ごすための工夫をドッグトレーナーの里見潤さんに詳しく伺いました。また先住犬がいる場合に気をつけたいポイントについても教えていただきましたので、これから保護犬を家族にと考えている方へ是非参考にしてみて下さい。

保護犬が家にやってきたら保護犬を迎えてから最初にしてあげたい2つのこと

保護犬と暮らす際に気をつけた方が良いことはありますか?

最初は「生活環境を限定」してあげることと「トイレのルール(排泄の場所)」を決めましょう。

まずは、犬がこの場所は安心できると感じられるように生活のルールを決めましょう。私自身も実践していてお勧めできるのは、家に来て当分の間は室内全てを自由にさせるのではなく、サークルやクレートを使って生活環境を限定し、その中で暮らしてもらうことです。サークルの中にクレートを置いて、人目を気にせず眠れるようにすると更に良いでしょう。

なかには初めての環境でも気にせず、リラックスできる犬もいますが、多くの場合は物理的に安心できる場所を設けてあげることが、その家、家族に慣れるための近道にもなります。サークルの中で落ち着いて過ごし、クレートで眠れるようになると、人間も犬を気にせずに過ごす時間を作ることが出来るので、家族にとっても犬にとっても楽で過ごしやすい環境を作るための良い工夫だと思います。

もし扉を閉めると吠えてしまったり、飼い主さんが狭い場所に入れておくのはかわいそうと思うようなら、サークルを連結させるなどしてスペースを広くするのもありです。そしてその犬に必要な運動量を満たしてあげる(たくさん遊んであげる)ことで吠える行動を軽減する助けになります。

次に決めるのは、飼い主さんを悩ませることが多いトイレのルールです。その犬が排泄する場所を屋内のトイレシートの上か、屋外(お庭など)かを決めましょう。
中には屋外でないと排泄できない犬もいますので、必ずしもシートの上に限定する必要はありません。ただシートの上で排泄できると、悪天候の時に排泄のために外へ出なくても済むなどのメリットもあります。場所を決めるためには、保護団体のスタッフさんや一時預かりボランティアさんに、家に来るまでどのように排泄していたのかを聞いた上で、様子をよく観察して決めましょう。

屋内のシートの上で排泄させると決めたら、まずはその犬がいるスペース、先ほど決めたサークルの中を、トイレシートで敷き詰めてください。犬が自由に動けるスペース全てが排泄可能な場所にします。そして、どの場所で排泄しても「上手にできたね、えらいね」と褒めてあげましょう。トイレシートの感触を肉球に覚えさせ、この感触のする場所で排泄すると良いことがある(褒めてもらえる)と関連付けるのです。そしてシートが敷き詰められた環境下では失敗をすることが物理的に無くなりますので、排泄したら叱られるという経験を犬にさせずに済みます。

何日か観察していると、サークルの中でも排泄をする場所が定まってきますので、一番遠くから1枚ずつトイレシートを剥がしていきます。もしシートの外で排泄しても叱ったりせずに、その場所にもシートを敷くようにします。最終的には決まったシートの上で毎回排泄することが出来るようになってきたら、その場所をその犬のトイレに決めます。もし人間にとってその場所が不都合だった場合は、毎日少しずつトイレシートを置く場所を、都合が良い場所に近づけるようにずらしましょう。近道はありませんが、このように教えていけば、トイレの成功率はあがるでしょう。

保護犬が家にやってきたら目指すのは頼られるような関係性

保護犬のバックボーンは様々。先を急がずその子のペースに合わせてその子が安心してお散歩できる関係作りを目指しましょう。

保護犬と言ってもその出自は様々です。つい先日まで飼い主さんに大切に飼われていた犬もいれば、そうではない犬もいます。飼い主さんの入院や施設入所などの理由で泣く泣く手放すケースもあれば、自分が可愛がりたいときだけ可愛がり、転居など人間都合により、安易に手放すケースもあるでしょう。野犬や元繁殖犬、多頭飼育崩壊現場からレスキューされた犬も全て保護犬です。中には散歩を経験した事がない犬もいます。まずは外に出ることに興味を持ってもらいましょう。

屋外に出しても歩けないようであればキャリーバッグやカートに入れて、飼い主さんと一緒に外出することから始めてみましょう。少しずつでも外に興味を示すようになったら成功です。ポイントは、先を急がないこと。

以前、地方で保護された野犬と暮らしている家庭へ出張トレーニングに行った事があります。
臆病な性格だったのですが少しずつ環境にも慣れ、自宅前にある植え込みでは排泄ができるようになっていました。犬の様子を観察していると、まだ不安な気持ちは残っているものの、他の犬の匂いにも興味がある様子が伺えました。植え込みから先には犬が行きたがらないというお話でしたので、車が通る道では飼い主さんに抱っこしてもらい、近所にある大きな公園まで移動し、人の少ない場所で犬を降ろしてもらいました。
すると最初はぎこちない感じもありましたが、草や土の匂いを嗅ぎ始め、自ら歩き出すようになり、その後すぐに散歩できるようになりました。尻尾をふりながら楽しそうな表情を見せて、飼い主さんも散歩ができたと喜んでくださいました。

飼い主さんとの信頼関係が育まれてくれば、犬は初めての場所でも飼い主を頼りに歩けるようになっていきます。保護犬と暮らし始めた方は、まずは散歩ができる関係性作りを目指しましょう!

先住犬がいる場合のコツ 1先住犬と新しい子がうまく家族になるために

先住犬との相性がやはり心配です。仲良くなってもらうために出来ることは?

最初の初顔合わせは自宅でなく外で。まずはお散歩を一緒にするところから始めましょう。保護犬には最初サークルなど安心できる場所を準備してあげましょう。

ファーストコンタクトが非常に重要です。

先住犬のテリトリー内、つまりお家の中で引き合わせることは避けましょう。私が実践しているのは、先住犬をご家族の1人が公園などのお散歩先へ連れ出してもらいます。そして別の方に保護犬を連れて同じ公園内を歩いて貰います。無理に挨拶させたり、お尻の匂いを嗅がせるような必要はありません。飼い主さん同士が並んで一緒に散歩させます。できればいつもより長めに、私の場合は1時間強くらい、犬たちが少し疲れるくらいまで歩かせることがポイントです。その後に家に帰りましょう。その後は先ほどお伝えしたように、保護犬はトイレシートを敷き詰めたサークルの中へ。先住犬はいつも通りに過ごさせます。保護犬だけサークルの中なんてかわいそう、とは思わないこと。それが彼らにとって安心できる環境作りなのです。

特に警戒心が強く、家族への依存が強い性格の先住犬に新しい犬をテリトリー内で合わせると、決して歓迎しないでしょう。咬傷事故が起こるリスクもあります。ただ一緒に疲れるまで歩いた、彼らにとっては共に楽しい経験をした犬に対しては、仲間意識が芽生えています。それに歩き疲れているので、他の犬を気にする余力がさほど残っていないこともポイントです。その後も無理に仲良くさせようとはせず、一緒に出かける散歩中の様子をよく観察してあげてください。

先住犬がいる場合のコツ 2保護犬を迎えても先住犬ファーストを忘れない

人間でもよくある事ですが、「お兄ちゃん(お姉ちゃん)だから我慢しなさい!」と言われると、弟(妹)の存在を疎ましく思うようになってしまいます。犬も同様です。これをやってはいけません。

先住犬を優先して、立ててあげること。ご飯をあげたり、撫でたり、遊んだり、犬が喜ぶことは全て先住犬が先です。先住犬がいる家庭が新しく犬を迎える場合は、これを家族共通のルールにしてください。新しい犬が来るまで、家族全員の愛情と関心を独占していた先住犬の気持ちをまず考えてあげることが、先住犬と後住犬が自然と馴染んでいく助けになるでしょう。

先住犬がいる場合のコツ 3犬同士の相性を判断するために大切なこと

年齢と体格。犬同士との距離感の取り方、好きな遊び方、必要な運動量などが合うかを見てみると良いでしょう。

まずは犬同士での好む距離感や遊び方のタイプ、必要な運動量で判断すると良いでしょう。激しい遊びを好む犬同士、おとなしい犬同士であれば、そこまで大きな問題はおこらないと判断できます。また、家族との距離も気になるところです。家族ベッタリの先住犬にとって、同じようにベッタリとした犬の存在は歓迎できないかもしれません。あまり人に依存しないドライなタイプの新顔なら「そこに居ても良いよ」となりやすいでしょう。

他に参考になるのは年齢と体格です。例えばシニアの先住犬がいる家庭に、若くて元気な犬が来たらどうなるでしょうか。若い犬はシニア犬に構って欲しくて、一緒に遊ぼうと誘うでしょう。それまで穏やかに暮らしてきた先住犬にとってはそれが迷惑になることも。ただ先住犬が大型犬で新顔が小型犬の場合だと、少しくらいのいたずらは受け入れてくれるかもしれません。ただ体格が逆になるとパワーで押されてしまい、先住犬が自分の身を守るために噛んでしまうこともあり得ます。

もちろん一概には言えませんので、犬同士を合わせる際や、関係性が落ち着くまでは犬の行動や心理をしっかり観察できるプロのドッグトレーナーを頼っていただくと安心だと思います。もちろん費用はかかりますが、犬たちが幸せな毎日を送る事ができるようになる下地作りと考えていただければ、決して後悔しない初期投資になるのではないでしょうか。

Dog trainer

里見 潤さん

ドッグトレーナー(日本警察犬協会公認訓練士、ジャパンケネルクラブ公認訓練士)、認定NPO法人キドックス理事。

日本訓練士養成学校を卒業後、出張トレーニング会社に所属。その後、保護団体の専属スタッフとして動物愛護センターからの保護犬の引き出し、一般家庭へ送り出す前の馴化などを担当。2012年にドッグトレーナーとして独立。飼い主と犬の関係性を重視したしつけ指導を行う。自宅で保護犬の一時預かりボランティアも継続している。

里見 潤さん
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