nowa days. 09

生き物にも個性があって
それぞれのまま幸せでいられたらいい
そう気付かせてくれたのがこの子たちです

illustrator

おおがきなこ×ギーちゃん×マルくん

ゆるやかなイラストと人の心の機微を描くスタイルで人気を博している漫画家・おおがきなこさん。数ある作品の中には、愛犬との日々を描いたものもあります。ワンコたちの愛くるしい姿だけでなく、飼い主としての葛藤を赤裸々に綴る内容は考えさせられるものがあり、でも、どこか面白い。現在飼っているギーちゃんは元保護犬で、もう1匹のマルくんも別の飼い主さんから譲り受けた子。先代のオカメちゃんも元保護犬でしたが、おおがさんとワンコたちの生活はどのように始まったのでしょうか。

「ワンコにも個性がある」
そのことに気付かせてくれた愛犬たち

先代のオカメちゃんは、初めて迎えたワンちゃんだったのですか?

人生初めてのワンコでした。夫とやっているメガネ屋さんで、常連さんが迎えた保護犬をたまに預かってたんですね。そのワンコがかわいくて、ぽろっと「私も飼いたくなってきちゃいました」って言ったら、その翌週には里親会に連れていかれて(笑)。

すごいスピード感ですね。

しかも、常連さんが事前に「ワンちゃん飼うのが初めての方で、お店にも連れていくからおとなしい子がいい」って、保護団体の代表の方に伝えてくれていて、里親会に行ったら「お散歩してみますか?」って、ワンコがスタンバイされてたんです。その子がオカメでした。

出会った瞬間に、この子だって感じたんですか?

私がそう感じるより先に、常連さんが「この子しかいないわ!」って(笑)。確かにめちゃくちゃかわいくておとなしい子で、代表の方も「おおがさんの家なら相性がいいだろうし、試すまでもなく大丈夫だと思う」って言ってくださったので、2週間のトライアルをしてみようと。

おとなしいといっても初めてのワンコなので、最初はおろおろしたんですけど、常連さんや保護団体の方がお風呂の入れ方やごはんの選び方を教えてくれたので、苦労は特になかったです。2カ月くらいで、オカメもうちに馴染みました。

保護犬は大変なイメージもありますが、早い段階で馴染んだんですね。

ただ、オカメは悪質な環境で育てられていたそうで、うちに来た時点で4歳だったんですが2.9キロしかなくて、毛もボサボサで、あまり感情が出ない子だったんです。だから、満足なのか不満なのかわからなくて、この生活でいいのかなっていう不安はありましたね。でも、ギーと比べたら全然…(苦笑)。

ギーちゃんも保護犬ですよね。いつ頃迎えたんですか?

2018年かな。オカメが亡くなる1年くらい前で、常連さんが2匹目を迎えたことに触発されて、私も欲しいなって。駅前で募金活動をしていた保護団体さんが連れていた白いチワワがかわいくて、その場で代表の方に声をかけて、後日改めてオカメと一緒に会いに行ったんです。

そしたら、そのチワワが陽キャで明るかったからか、陰キャのオカメが引いちゃって(笑)。その子は難しいかなと思った時に、夫がなでてたのがギーだったんです。「その子にしてみる?」って。

偶然の出会いだったんですね。ギーちゃんが大変だったというのは?

ギーは熊本から来た生粋の野良犬で、人を怖がっていたので、代表の方から「かなり苦労しますよ。ただ、そういう子って懐いたらすっごくかわいいと 思います」って、言われたんです。

実際、トライアルの2週間はごはんも食べない、水も飲まない、トイレも最初の2日間はしてくれなくて、公園に連れていくのもひと苦労。夫は「この子が僕たちに懐くとは思えない」って言ってたけど、私は大丈夫だろうって思ったんです。

懐いてくれそうな感触があったんですか?

ないですね。なかったけど、ギーを見て面白いと感じたんです。“ワンコ=人懐こい”ってひと括りに考えてたけど、生き物には個性があって、懐きたくない人には懐かないよねって気付いたみたいな。

トライアルの2週間で、生き物の心はそんなに簡単に動かない、待ってなくちゃいけないってことをギーが教えてくれて、私の価値観が変わって、感動したんだと思います。そう思わせてくれたギーがかわいくて、我が家に迎えました。

ギーちゃんの心が開いた瞬間はありました?

オカメが亡くなった後、2019年にマルが来てからですね。ギーとマルは相性がよくて、1日目からワンプロしてたんです。空気が読めないマルがぐいぐい懐に入っていったことで、ギーも気持ちがほぐれたのか、その頃から散歩でよく会ってたご近所の人たちに背中を向けて、「なでて」ってやるようになったんです。私が呼んだら戻ってくるようにもなって。

代表の方がおっしゃっていた「懐いたらすっごくかわいい」ですね。

うん、まさにこれかと。想像以上にかわいいっていうか、感動でしたね。

ちなみにマルは、ご高齢の元飼い主さんを引っ張って転ばせちゃうくらい強いシーズーなんです。その飼い主さんから譲り受けたんだけど、13キロあるギーと互角にワンプロできますからね。すっごい怒りんぼで、ギーと私と夫だけが好きな子です(笑)。

自分のマイナスな面を知ることも
ワンコと暮らす楽しみの一つ

保護犬を迎えて、発見や気付きはありましたか?

ワンコにも個々に性格があって、それをしつけでどうこうしようとするのはお門違いだなって思うようになりましたね。人やワンコとあんまり仲良くなれなくても、その子が幸せならいいんじゃないかなって。

特にオカメとギーは成犬になってから迎えてるので、そこから人の理想に合わせて変えようとはならないというか。ナチュラルに一緒にいるって、互いを変えずにそのまま一緒にいることなのかもって、身をもって体験できたのが面白くて。

個々の違いを受け止めて面白がれるのが、おおがさんのすごいところですよね。

もちろん、言葉の通じない生き物と通じ合いたいと思いますよ。そういう時って、じっと待てるやさしい自分も出てくるけど、それ以上にイライラした意地悪な自分が出てくるんですよね。ワンコに「いい加減にしてよ!」って怒鳴る自分がいることを知ったり。

でも、それを知れてよかったなって思います。自分の醜い面を知ってると、またイライラしそうになった時に、自分に対する戸惑いや嫌悪感の具合が違うと思うんです。同じ状況になった時に、醜い部分を出さないためにどうしたらいいかということも考えられるんじゃないかなって。

経験が余裕を育んでいくんでしょうね。そのマイナスの感情は、漫画でもストレートに描かれていますよね。

そこは意識してる部分です。漫画を描く時は「誰にも見せない日記でもこう書くか?」って、自分に聞いてみるんです。マイナスな感情を見せる方が単純に面白いし、そんな自分を知ることも生き物と一緒に暮らす楽しさのひとつかなって。「わーい楽しい」っていう感情ではなくて、発見につながる楽しさを描きたかったから、隠さないようにしてます。

ワンコを通じて自分自身を知る楽しさはありますよね。ところで、絵や漫画はもともと好きだったんですか?

いや、私は中学生の頃から演劇をやってて、大学も演劇学科に進んで俳優を目指してたんです。戯曲を書くのも好きだったんですけど、致命的なことに稽古がキライで(笑)。時間通りに行動するのが苦手だし、ちょっとダメ出しされると挫けちゃう。でも書きたくて、どうしようかなってなった時に、漫画なら全部の要素が入ってるじゃないかと。でも、絵が描けなかったから、棒と丸を描く練習から始めました。

演劇からの漫画だったんですね。漫画家としての将来は想像していましたか?

やるからには仕事になったらいいなとは、漠然と思ってました。いい具合にポジティブだったので、SNSでちょっと評価されると「才能あるじゃん」って(笑)。演劇で大成功して食べていくのと比べると、漫画は努力でどうにかなる面もあるから、やってこれたんだと思います。

亡くなった子を思って悲しむのは
命を引き受けるために必要な工程

おおがさんはオカメちゃんを看取った経験がありますよね。

すっごく変な言い方ですけど、最後まで一緒にいれるのはうれしいし、それも楽しみのひとつです。そう思えるのはオカメのおかげ。オカメの心臓が止まった時、家で1人でオカメを抱っこしてたから亡くなった瞬間がわかって、もちろんいろんな気持ちがあったけど、生き物って素晴らしいなって思ったんです。

愛していたオカメが亡くなった時、自分の中で自分自身の濃さを超えるくらいオカメの存在が濃くなったんですよ。自分以上に愛犬を感じられるってあったかいんだなって。悲しいけど、冷たい気持ちではなくて、人がもっと人になるあったかさがあった。それを感じた時に、生き物って素晴らしいなって思ったんです。

愛犬を亡くして悲しんでいる飼い主さんもいらっしゃいますが、その悲しみにはあったかさを伴っていると思うと、感じ方も変わりそうですね。

そのあったかさは大切にしたいですよね。私は読書が大好きで、心理学の本もよく読むんですけど、ある本に書いてあったんです。傷を癒すには、悲しむというプロセスを踏まないといけないんですって。

ペットロスになっている人は、素直に悲しみを感じて、一生懸命自分を治そうとしてる途中なんですよ。だから、無理に元気を出さなくてもいい。悲しむ時間が3日の人もいれば、10年の人もいるけど、素直に悲しみを受け止めていいと思います。

そして、亡くなった子の命の続きを引き受けられることが、残った者の幸せですよね。その引き取り方が悲しむことなのか、新しい子を迎えることなのか、私のように何かを描くことなのか。その方法は人それぞれあるんだと思うけど、どんな方法でもその子の命を引き受けてる途中だと思えたら、ツラいだけではなくなるかなって。

救いになる言葉だと思います。あったかい悲しみを経て、今はギーちゃん、マルくんがいますが、おおがさんにとってどんな存在ですか?

ギーは、いつまでも待てる存在ですね。今のまま変わらなくてもいいけど、変わっていくかもしれない未来も楽しみだし、その変化をいつまでも待ってるよって感じ。

ギーのことを待てるのは、マルという楽しい子がいるから。マルは自らひざに乗ってくるし、散歩もめちゃくちゃ歩くし、子どもと一緒に遊ぶし、オーソドックスなワンコの飼い方をさせてくれるんですよね。いい感じに空気をポジティブにしてくれる存在で、我が家の潤滑油です。

タイプの違う子たちですが、うまくピースがハマっているような。

そうなのかな。この間、箱根の山奥に旅行に行った時に、ギーが車に乗るのを怖がって脱走したんです。その時も、マルと一緒に探しに行ったらギーが出てきて、マルと遊ぶモードに切り替わったんですよ。だから、無事につかまえられました。

マル、大活躍でしたね。マルがギーの弟になってくれて本当によかったし、その出来事で「みんなが揃ってればいい」って、幸せの基準が下がりました(笑)。

漫画では、ワンコたちとの生活の大変さや難しさ、切なさが描かれています。
しかし、おおがさん本人は底抜けの明るさとサービス精神のかたまりのような人。 元気に駆け回るマルくんと一緒に見送ってくれた笑顔には、ハッピーがあふれていました。

Profile

おおがきなこ

1984年生まれ。漫画家、イラストレーター。SNSを中心にさまざまな漫画を発表し、人物の心の機微や葛藤を描く作品が人気を得ている。座右の銘は「嘘を描くな」。著書は『今日のてんちょと。』『エミ34歳、休職させていただきます。』のほか、愛犬との日々を描いたエッセイ漫画『いとしのオカメ』『いとしのギー』も。

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