singer-songwriter
曽我部恵一×こはるちゃん
自身のバンド、サニーデイ・サービスのほかソロや楽曲提供、プロデュースといった音楽活動を幅広く手掛ける曽我部恵一さん。カフェ兼レコードショップとカレーのお店の2件のオーナーでもありながら、ご家族と7歳になる柴犬の「こはる」ちゃんと暮らしています。コロナ禍の2020年5月に発表された『Sometime In Tokyo City』は「ここで犬が眠ってる」という印象的なフレーズから始まる優しくてあたたかい楽曲です。こはるちゃんとの暮らしは曽我部さんの創作活動にどのように影響しているのでしょうか。
子供たちがペットショップでこはるを見て、一目惚れでした。今から6年ぐらい前。確かその日は吉祥寺でライブだったんですけど、待っている間に子供たちがペットショップに行っていて。「かわいいワンちゃんがいた!」みたいな感じで。うちも一軒家だし、まあいいかな、と。
準備で大変だったことは特に何もないです。ただ、噛まないようにするとか、吠えないようにするとか、しつけは大変でしたね。今は上の娘ふたりが散歩とかはしていますが、最初は世話があまりできなくて、全部自分が連れて行っていたので、僕の方を主人だと思っているかもしれませんね。
こはるちゃんはどんな子ですか? 普段はどのように過ごされていますか?
おとなしい方かな。3歳、4歳ぐらいまでわーって走り回って遊んでいたんですけど、最近はすごく大人しくなりました。自宅に作業部屋があって、家で仕事しているときもこはるは普通に入ってきて寝そべっています。ひとりで留守番をすることもしょっちゅうあって、だいたい寝ています。リビングのテレビ棚の下に空間があって、そこにクッションが置いてあるのでそこで寝ています。
犬というか、動物全般に対する考え方は変わりましたね。動物の感情とかを考えるようになりました。自分の外のものに対しての認識ってどうなんだろうとか。物事の捉え方の視点が増えるというか。
人間の喜怒哀楽とは違う、もうちょっと根本的なところで生きている感じがうらやましというか。見習いたいなというのがありますね。死ぬこととか老いることとかをまったく考えていない。ただご飯を食べて、うろうろして、寝ているという。人間ってこういうことが幸せだろうとかを気にしているけど、犬はそういうことはないのかなあって。ずっと寝ていたら暇じゃないのかなって思うんですけど、そういうのもないんだろうなと。
犬とか動物とか植物の方が感受性というか、感覚はすごいんじゃないですかね。もっとメカニカルというか。こはるもよく匂いを嗅いでいるんですが、匂いにすごく情報があるんだろうなと思って。どういう風に頭の中で捉えられているだろうって。だからこはると暮らし始めてから、動物を見るのが好きになったかもしれない。動物園に行って鳥とか見ていてもハイスペックな生き物だなあと思うようになりましたね。
そんなに大変という感じじゃなかったですね。ライブが中止になったり延期になったりとかはありましたけど、制作活動としては変わらないですね。(曽我部さんがオーナーをしている)お店はなかなか大変でしたけど。家にいることが増えました。集団行動じゃなくなったということだと思うんですけど、個人個人に戻れたのかな、と。それはすごくいいことだなと。犬も含めて、家族に向き合う時間が増えました。ライブの本数も多分戻ってくるんでしょうけど、コロナ前とは確実に何か変わっているとは思います。僕は悲観的にはまったく考えていないです。そうそう、だから緊急事態宣言になって外出しないでください、と言われていた時期に、犬はこの状況をどう思うんだろうな、とか考えていました。
犬は「大丈夫」とか言ってくれないじゃないですか。「大丈夫」とは言ってくれないけど、多分そばにいる。本当は「大丈夫」とか「そんなことないよ」とか「いいことあるよ」とかっていうのは全部うそで、本当はそんなもの何もなくて。そばに誰かがいてくれたら癒されるっていうそれだけなんだけど、人間はそこから「大丈夫だよ」っていう物語を作っていくじゃないですか。だからそういうところから脱して、もっと本質的な表現を探せたらいいなというような学びはあります。動物といると、その「大丈夫だよ、そんなことないよ」っていうことが陳腐に思えるというか、もっと全然その先にいるから。本当はそこまでいって歌とかができたらいいなとは思います。
結局人間が作った文化とか考え方とか生き方が一番いいと思っていたんですけど、動物と暮らすと全然そんなことはないなと。自分たち人間がまだ到達できないような喜びというか、自分たちがいわゆる幸せだなって思うようなこととは違う、エクスタシーみたいのがあるのかなとは思いますけどね。
本当は音楽とか表現文化とかもそっちに行かなきゃいけないんだろうなと思うようにはなったかな。ピカソとか岡本太郎とか、文化としての整合性みたいなものを超えていくためには、破壊していかないと、先には進めないんだろうなって。人間は死ぬことばっかり恐れて、それの準備ができない動物じゃないですか。多分死ぬ直前まで、死ぬ準備ができないっていうか、なのに自由に殺して、他の命を奪うっていう。
音楽とか、人間の文化は寂しいとか愛おしいとかばかりですからね。犬はそれとは違う、もっと崇高なところで生きている気がして。我々が日々振り回されているようなものとは違う。もちろんそれがあるから楽しかったりするんですけど。うらやましいですね。
こはるちゃんと暮らすことで、それまでとは違った視点が増えたという曽我部さん。
こはるちゃんへの憧れが創作活動のインスピレーションにも影響を与えているようです。
1971年8月26日、香川県出身。
1990年代初頭よりサニーデイ・サービスのヴォーカリスト・ギタリストとして活動を始める。1995年に1stアルバム『若者たち』を発表。2001年、シングル『ギター』でソロデビュー。2004年には、自主レーベルROSE RECORDSを設立。以後、サニーデイ・サービス/ソロと並行し、プロデュース・楽曲提供・映画音楽・CM音楽・執筆・俳優など幅広く活動。下北沢でカフェ&レコードショップの「CITY COUNTRY CITY」、2020年オープンの「カレーの店・八月」のオーナーも務める。