大出智恵美さん|ペット災害危機管理士®特任講師“人やペットを救えるのは人”
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nowaスタッフがしつけに詳しい専門家を探していた時に、一般財団法人クリステル・ヴィ・アンサンブルの松原賢さんから紹介していただいたのが飛彈樹里さん。
ドッグマインダーとして、トレーニングからヘルスケア、介護のことに至るまで、幅広くサポートしているワンコのスペシャリストです。
飛彈さんに協力していただいた「相談が最も多い、犬の問題行動の解決策とは? ワンコを「いい子」にする方法。」の記事に感動し、ぜひnowaチームに入っていただきたいと考えていました。
同じ頃、飛彈さんから「『いつも心に犬の十戒をプロジェクト』を広めたい」と連絡をいただき、直接の接点ができたのです。
そこから話はとんとん拍子に進み、nowaチームへの参加が決まりました。
ワンコのスペシャリストになった経緯、飼い主さんに届けたい思いを伺いました。
飛彈さんの肩書であるドッグマインダーとは、どのようなお仕事なのでしょうか?
実は資格としてあるわけではなく、私が創作して使っている肩書なんです。使い始めたきっかけは、イギリス発のチャイルドマインダーという資格にあります。お子さんの食事や運動、遊びなど、生活にまつわるあらゆることをケアするプロフェッショナルを表すものです。
その資格を知って、私はワンコ版チャイルドマインダーになりたいと思ったんです。もともとドッグトレーナーとして活動していましたが、トレーニングに限らず、食事やおうちのケア、介護のことまでサポートしたくて、ドッグマインダーとして活動するようになりました。
“ゆりかごから墓場まで”ですね。
まさにそれを実現したかったんです。ワンコの専門家とのお付き合いって、限られた期間で終わってしまうことが多いんですよね。例えば、トレーナーだと、パピー期のトレーニングが終わると関係が途切れてしまったり。でも、飼い主さんの悩みって、パピー期だけではないですよね。
それに、年代や悩みの種類によって相談先が変わるとなると、ワンちゃんも飼い主さんも労力がかかりますよね。それなら最初から最後まで、一生まるっとサポートできる存在になりたいと思ったんです。
子犬の頃から知っている方だと、飼い主さんも安心ですもんね。トータルサポートの大切さを感じたのは、トレーナーを始めてからだったのですか?
トレーナーとして働き始めたことが気付きにもなりましたし、我が家の愛犬たちを見ていても、感じることでした。当時はミニチュアダックスフンド5頭とゴールデンレトリーバー1頭がいたんですが、生活する上では食事もおうちのケアも大事だと、日々実感していたんです。
ついトレーニングばかりを重視してしまいますが、規則を守るだけでは足りないんですよね。人と同じように、ワンちゃんたちも「おいしい」「楽しい」って喜びを感じられる生活を提供していきたいと、感じるようになったんです。
そして、飼い主さんの身近な存在でもありたいと思っています。ワンコのことを専門家に聞くって、まだまだハードルが高いと感じるんです。「こんな些細なことを聞いていいのかな」って思うかもしれないけど、その“些細なこと”が愛犬にとっては大きなことだったりするので、気になることがあれば話してほしいし、そう思ってもらえる存在でいたいです。
飛彈さんの愛犬の話も出ましたが、もともとワンちゃんがお好きで?
昔から動物が大好きでしたね。祖母の家のワンちゃんネコちゃんによく会いに行ったり、野良猫ちゃんをケアしたり。
たまたま遊びに行った先で保護犬の譲渡会が行われていて、残っていた1頭を連れて帰っちゃったこともあります。親の許可を得ずに(笑)。飼えないことはわかっていたので、無謀にも自分で里親さんを探そうと考えたんですよね。無事に見つかったのでよかったですが、今考えるとすごいことをしたなと(苦笑)。
チャレンジングな子ども時代だったんですね。ワンコをおうちに迎えることはあったのですか?
高校生の時に、初めて迎えました。ヨークシャーテリアとマルチーズのミックスだったんですが、放浪していて事故に遭ったみたいで、当時通っていた整骨院で保護されていたんです。その子を見た瞬間にビビッときて、再び親の許可を得ずに連れて帰っちゃったんです(笑)。怒られたけど、その時は両親も私の気持ちを受け入れてくれて、家で飼うことになりました。
その子は、元気に回復しました?
はい、元気になってくれました。ただ、その数年後、お散歩中にすれ違った大型犬2頭に襲われたことがあって。首をくわえられて、喉に穴が開いてしまったんですけど、なんとか一命を取り留めてくれました。その時、子どもながらに、ワンコの飼い方やマナーの大切さを痛感しましたね。
現在、ワンコの健康と安全を守りながら、人に危害を加えない飼育である「適正飼養」の推進に力を入れているのですが、当時の体験がきっかけの1つになっているのかもしれません。
社会の中で一緒に暮らす上で、大切なことですよね。その頃から、ワンコに関する仕事への関心も高かったのですか?
動物は好きだったけど、職業にするという考えはなかったですね。真剣に考えるようになったのは、愛犬のためにトレーニングを勉強し始めてから。
先ほども話したミニチュアダックスフンド5頭のうち、上2頭の女の子たちが、突然ケンカするようになってしまったんです。獣医師から「2頭が一緒にいるのは難しいかも」と言われるくらいこじれてしまって、すがる思いでトレーナーさんに相談しました。
最終的にはケンカの理由がわかって、関係も落ち着いたんですが、飼い主として「この子たちを手離さずに飼い続けていく」という選択をした以上、知識や技術、経験を増やしていかなければと思って、トレーニングを学び始めたんです。
トレーニングを勉強する中で、きっと同じ思いをしている飼い主さんもいらっしゃるだろうし、自分の経験が誰かの役に立つのであれば力になりたいと思って、トレーナーとしての活動を始めました。
愛犬のケアからスタートして、その思いが広がっていったんですね。
お仕事でワンコと触れ合う際に、大事にしていることは?
そのワンちゃんの気持ちを考えることですね。ワンコと私たちは種も違えば、共通言語も持っていません。そう考えると、人間が問題行動と捉えていることに、ワンコたちのSOSが隠れているのかもしれないと思うんです。
吠える、噛む、うまくトイレできないといった行動から、その理由を導き出し、さらにそのワンちゃんにとってベストなトレーニング法、ケア法を見つけていく。そのサポートをしていきたいと思っています。
いろいろな手法を試しながら、引き出していくということでしょうか?
そうですね。人間にも文系が得意な人や理系が得意な人がいるように、ワンコもそれぞれに得手不得手があります。できないことをフォーカスするのではなく、できることを引き出して、その子の自信や達成感、ご家族の安心感につなげたいですし、それが実現したら私自身もハッピーなんです。
みんながハッピーって、一番の理想ですよね。
そのためにも、ワンコだけでなく飼い主さんのフォローも大切にしています。一度でも接点を持った飼い主さんには、「何かあった時はいつでもいいから連絡して」と、お伝えしているんです。私自身もいち飼い主なので、我が子に愛情をいっぱい注いでいるところは同じだよって気持ちを分かち合いながら、寄り添えたらと思います。
飼い主さんのケアが必要な理由は、ワンちゃんが不安を感じ取ってしまうから。愛犬に関する悩みがあったり、介護が始まったりすると、飼い主さんも不安定になりますよね。その揺らぎを感じると、ワンちゃんも一緒に不安になってしまうんです。
ワンちゃんにとっての安心感は、飼い主さんの笑顔が見られること、当たり前の日常が変わらずに過ぎていくことなんですよね。だから、私たちが飼い主さんの心をケアして、元気になった飼い主さんが愛犬に元気を分ける。そんなエナジーチャージの循環ができるといいなと思います。ワンちゃんが幸せそうだと、お見送りの時を迎えた際に、多少は飼い主さんの悲しみも軽減されるのかなって。
できる限りのことをしてあげられたと思えたら、気持ちもラクになるでしょうね。
「いつも心に犬の十戒をプロジェクト」にご連絡いただいて、ありがとうございました。
素敵な企画ですよね。もともと『犬の十戒』は知っていたのですが、その挿絵をセツサチアキさんが描くと聞いて、すごく興味が湧いたんです。というのも、セツサさんのイラストが大好きなんですよ!
そうだったんですね!
セツサさんの温かいイラストも相まって、読み終わった後に幸せな気持ちでいっぱいになりました。愛犬を迎えた時、愛犬を見送った時、読むタイミングによって感じ方が変わるお話ですよね。どんな場面でも読んでほしいバイブルだと思っています。
『犬の十戒』を読むと、愛犬のことがもっと愛おしくなると思うし、私の活動を通してもそういう瞬間をたくさん生み出していきたいんですよね。最初から最後までトータルでサポートすることで、少しでもワンちゃんとご家族の暮らしの価値が上がっていったらいいなと思います。
また、飼い主さんがワンコを迎える上でのマナーを知ることで、より快適に暮らしやすくなることも知ってほしいんです。マナーに触れるだけでも行動は変化していくので、知ってもらえる機会をもっと作っていきたいですね。我が子を安全に守り、幸せにしてあげることが、すべてのワンコの幸せにつながるのではないかと思うんです。
我が子を愛するって大切な第一歩ですね。
そうですよね。そして、飼い主さんがワンちゃんと過ごす時間を増やせるように、わんこの専門家の輪を広げていきたいんです。獣医師やトレーナー、ケアラーといったプロが一丸となって、輪の中心にいるご家族をサポートできる体制づくりは重要だと思っています。
獣医師とトレーナーが連携していれば、「トレーニング中に咳が出ているから診てほしい」「診察中に噛みグセが出るから相談したい」と情報交換できて、スムーズに対応できますよね。飼い主さんも専門家を探したり、一から自分で説明したりする労力がかかりません。
専門家の横のつながりを広げることで、飼い主さんの不安を解消しやすくして、ワンちゃんとご家族が幸せだと思える瞬間を増やすことが、私の理想です。
飛彈 樹里 さん
イヌマニック代表。ドッグマインダーとして、ドッグトレーニング、食事・ヘルスケア、シッティング、介護・グリーフケアのトータルドッグケアサービスを通して、パピー期からシニア期のライフステージやそれぞれのご家族に合わせたサポートに取り組んでいる。そのほかにも、動物愛護センター登録ボランティアメンバーとしての収容動物のケアトレーニング、行政・財団・動物保護協会運営事務局での活動なども行う。