犬の愛情表現|愛されているか、信頼されているかがわかる犬の愛情表現方法
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かつてワンコnowaスタッフが飼っていたワンコが亡くなり、ペットロスに陥りかけていた時、たまたま見かけたのが、ワンコの行動を研究している増田宏司先生のプレゼンテーション。
見終わった後、「またワンコを家族に迎えたい」と前向きな気持ちになれたことが、会いに行ったきっかけです。
すっと心に落ちる言葉で紡がれるわかりやすい話を聞くだけで、ペットロスから救われる人がたくさんいるのではないか。そう感じたのです。増田先生に話を聞くと、「ワンコは世界を平和に導くモデル動物です」と、教えてくれました。人がワンコから教わるべきこと、ワンコとより深い関係を築く方法、そのヒントをお届けします。
増田先生がワンコの研究を始めたのは、どのような理由からだったのですか?
実は、小さい頃はワンコがキライだったんです(苦笑)。四国の田舎で育ったのですが、隣の家が猟犬としてビーグルを3匹飼っていて、常に吠えていたんですよ。それがイヤでしょうがなかった。当時は動物に関わる仕事をするとは考えていなくて、夢はトラックの運転手でした。港に止まっていたデコトラに憧れていて(笑)。
デコトラですか!? 意外な夢でしたが、なぜそこから動物の世界へ進んだのでしょう?
両親が共働きで、祖父母の家に預けられていた時期があったのですが、酪農が盛んな地域で、すぐ近くに牛がいたんです。毎日見ていたら大好きになって、牛の獣医さんになりたいと思って、獣医学が学べる大学に進みました。卒業論文も牛に関するもので進めて、牛やホルモンの領域で日本で一番有名な教授に教えてもらいたいと思って、東京大学大学院に行ったんです。
大学院の研究室に入って2、3日くらいで、教授から「犬の研究を始めたばかりで、大きなプロジェクトにしようと思ってるから、手伝ってほしい」って、言われたんですよ。単に卒業までの時間が一番長いという理由で、選ばれました。
「牛の研究をしたかったのに…」といった葛藤があったのでは?
小さい頃から、生じた出来事に疑問や不満を抱かないタイプの子だったので、その時も「はい、わかりました」って感じでした(笑)。新しい世界に入る際に、あまり慎重に考えたりしないんですよね。ただ、一度踏み込んだら、最後まで諦めないところはあるのだと思います。両親や学校の先生たちの教えがよかったのでしょうね。
いざ犬の研究を始めて、現在も続けているのは、その諦めない姿勢によるものですか?
それともう1つ、理由があります。犬という動物って、飽きないんですよ。研究を進めるほど、わからない部分が出てくるんです。同時に、具体的に何がわからないのかがわかってきて、そこを研究で解明していく。ピースを1つずつはめていく感覚が好きですね。
そして、研究を続けるほどに、ワンコは“平和”のモデル動物だと感じるのです。ワンコたちは、人間を含めた他種動物と仲良くできる動物なんですよね。また、ワンコ同士では注目した相手を威嚇して、威嚇された相手は服従するという流れで、ケンカを回避することができます。平和主義の動物なのです。
そのノウハウを知ることができれば、SDGsの17個目の目標「パートナーシップで目標を達成しよう」が可能になると思っています。世界中で「みんなで協力しましょう」と言っているのに、実際にできていないということは、人だけではできない可能性が高い。だとすれば、仲良くする術を知っている動物をお手本にするのも、1つの方法じゃないかと思うのです。
お手本となるようなノウハウは、見えてきているのですか?
今はまだ解明しようとしているところです。ワンコは、なぜケンカを避ける表現をするのか。なぜ人にも愛情をもって接してくれるのか。その理由や動機を解明できたら、と考えています。
例えば、ワンコの行動は「遺伝的背景」と「育った環境」が影響して、形成されるといわれているんですね。2つの要素の比率だけでもわかれば、なにかしらのヒントになるのではないかと思います。
ワンコの行動の理由を解明する「動物行動学」は、どのように研究を進めていくものなのでしょう?
動物の行動がどのような仕組みで、何のために、いつから始まって、どうなっていくのか、という4つの観点から考える学問です。例えば、オスのワンコが脚を上げて排尿するのはなぜか。さまざまな行動を観察して、去勢したワンコは脚を上げる頻度が減ることがわかったら、ホルモンが影響していると推測できて、マーキングのためにしているのかもしれないという結論が出せます。このように観察を繰り返していくものです。
研究を進めるにあたって、大切にしていることはどのようなことですか?
ワンコの行動の意味を言葉にして、飼い主さんに伝えるというスタンスは、ずっと守っているつもりです。それが動物行動学者の役目だと考えています。
その前提として飼い主さんに寄り添うことを大切にしていますが、その「寄り添う」とはどういう行為なのか、考えるようにしています。飼い主さんの気持ちに共感することなのか、先導することなのか、一緒に協力することなのか、きっと時代によって変わってくると思います。今は他人を受け入れにくい時代なので、踏み込み方には気をつけていますね。
あと、飼い主さんごとに、その人しか持っていない良さや魅力があるので、その人に合ったワンコとのふれあい方をアドバイスできるように意識しています。
ワンコと飼い主の両方が幸せになる方法も、家庭によって変わってくるのでしょうか?
そう思います。ただ、どの飼い主さんにも常に考えていてほしいのは、ワンコを褒めること。褒めるタイミングは、人が考える“いい時”ではありません。ものを噛んだり壊したりしている“悪い時”以外は、常に“いい時”なんです。
ごはんを食べている、静かに寝ている、それだけで偉いじゃないですか。そっと寄り添ってくれているだけで飼い主さんが癒されているなら、それも褒めてあげるタイミング。興奮させすぎない程度に「偉いね」と、声をかけてあげてください。寝ている時だって、きっとワンコには聞こえていますから。
ワンちゃんにとっても、肯定することって大事なことなんですね。
そうですね。人だって、上司が「この資料、ダメじゃないか」としか言わない人だったら、職場に行きたくなくなりますよね。「この資料、すごいじゃん」と褒めてくれる上司なら、やる気が湧くもので、ワンコも同じなんです。褒められると安心します。
そして、褒めるところばっかりのワンコが寄り添ってくれるあなた自身もステキな人なんだって、飼い主さん自身を肯定することにもつながると思います。
とても幸せな循環ですね。すごく心が温かくなります。
ハッピーになるヒントを伝えている増田先生が、今抱いている夢は?
デコトラを持ちたい。…っていう個人的な夢があります(笑)。
動物行動学者としての夢は、SDGsの達成に貢献すること。ただ、ワンコから得たヒントだけで、SDGsを達成できるとは考えていません。あくまでヒントですし、僕は「パン作りすぎちゃったから、食べる?」くらいのお裾分けスタンスが好きなんです。研究したことが少しでも役に立ったらいいな、という気持ちです。
そして、僕がしているお裾分けは、ワンコ達が1万年以上かけて人に与えてくれたお裾分けを見える形にしただけのものだと思います。これからも見える形にして、人に伝える表現者でありたいです。
たくさんお裾分けをしていって、いろいろな人を幸せにできたかもしれない、と思えるような人生を歩みたいですね。
最後に、増田先生が広げていきたい「wa」を教えてください。
現実的な話ですが、動物の業界はまだまだ課題が山ほどあります。
例えば、動物の殺処分数は2000年代あたりからようやく少しずつ減り始め、保護犬の殺処分ゼロを達成している地域も増え始めました。ただし、保護犬の新しい飼い主を探すにはボランティアの労力が大きすぎたり、悪質なブリーダーが絶えなかったり、いろいろな課題があるのです。
一筋縄ではいかない課題を解決するには、さまざまな道のプロに参画してもらう必要があると考えています。そのためにも、参画の方法が多様化していることを伝えていくことが重要。直接関わることが難しければ、ドネーション(寄付)でもいいのです。
そして、ワンコにまつわる課題への協力の仕方も、いろいろな動物と仲良くなれるワンコから学べるのではないかと思っています。いいところを真似して、問題解決につながるコミュニティを広げていけたらいいですね。
増田 宏司 教授
東京農業大学 農学部 動物科学科 教授。東京大学大学院を修了後、同大学院で学術研究支援員を務め、2006年から東京農業大学で研究と学生への指導を行う。ワンコの行動の解明に留まらず、飼い主向けのカウンセリングやワンコのしつけに使えるグッズの開発など、ワンコと飼い主が幸せに暮らせる社会を築くため、幅広く取り組んでいる。