この記事はワンコnowa編集部が監修・執筆を行っています。
本来、療法食は獣医の指示ありきで不調がある犬が食べるものです。しかし、ペットショップやインターネットでも販売されていて、獣医の判断がなくても、どなたでも購入することができる現状です。
結果、誤った認識で、独自判断で療法食を愛犬に与えてしまい、健康を害してしまうトラブルが後を絶ちません。今回は、飼い主として正しく知っておきたい、「療法食」について一緒に学んでいきましょう。
某フードメーカーが療法食を簡単に買えないようにした経緯

先日、とある大手フードメーカーが、療法食の取り扱いルールを厳しくするという発表をしました。ざっくりいうと、今のように、誰でもそのメーカーの療法食を簡単に買える状況ではなくなるという内容です。
現時点で市場に出ているものはそのまま売り切り、今後は獣医を介しての購入、もしくはネット購入の場合は、メーカーが公認している正しい管理ができる卸業者からしか購入できないということになりました。
メーカーとしても、これにより販売シェアが狭くなるにもかかわらず、なぜその決定をしたのでしょう?それにはしかるべき理由があります。
それは、最初に少し触れましたが、「療法食」の意味を知らないで購入・給餌してしまう飼い主さんが多く、その結果、健康で療法食を食べる必要がなかった犬に与え続けて、健康を害してしまうトラブルが起きてしまっていたからなんです。
そのメーカーは、手広く市販に卸すのはやめて卸す先を管理することにより、「本来食べるべきではない犬には、食べさせることのないようにしたい」と、対応策としてこのような判断をしました。
間違えた認識で犬に与えて、取り返しのつかない状態になる前に、そもそも簡単に流通させないようにするということですね。
そもそも「療法食」の定義とは?
そもそも療法食とは、字のごとく、疾患・症状を改善するために、治療を目的として食べるごはんのことで、食事療法として与えるフードのことを指します。
何らかの成分(栄養)の過多・欠落などから、症状の原因、悪化や病気につながることがあるため、体内に取り込む成分をコントロールすることで、症状を軽減させるのが療法食の役割です。
簡単に言うと、食べることでお薬のような働きをするもの(薬ではありません)で、獣医の管理・指示のもと与えるものであって、自己判断で気軽に手を出すべきものではありません。
実際に、療法食のパッケージには「獣医の指示に従って与えるよう」などの注意書きがあります。(記載がないものもあります)

人間も専門的なお薬をもらうには、病院に行って医師に診てもらった上で、処方箋をもらって、薬剤師さんから説明を受けて服用しますよね?それと同じ感覚です。
なお、療法食を名乗るには、
“「療法食」とは、ペットフードの中で、特定の疾病又は健康状態にあるペットの栄養学的サポートを目的に、獣医療において獣医師の指導のもとで食事管理(いわゆる食事療法)に使用されることを意図したものです。 その栄養特性は一般的な健康維持食(総合栄養食)とは異なるため、長期間の不適切な使用は健康を脅かすリスクもあり、公正競争規約では、獣医師の指導に基づいて給与するべきものである旨の注意書きをするよう定めています。
また、療法食である旨を表示するにあたっては、その商品名、対象となる犬または猫の疾病または健康状態、根拠となるデータの所在を公正取引協議会に届け出ることとしています。“
引用元:ペットフード公正取引協議会
とのルールがあり、それなりの根拠や証明をもって、療法食である旨を記載することになっています。
一般的に「ドッグフード」と呼ばれているのは「総合栄養食」
療法食の話を進める前に、基礎知識として「ドッグフード」の定義についても考えてみましょう。それを正しく理解してこそ、療法食が手軽に買えることの危険性に気づけると思います。
まず、みなさんが一般的に「ドッグフード」と呼ぶものは、犬がメインで食べるごはん・主食のことを意味していると思いますが、本来の「ドッグフード」の定義は、犬が口にするもの(食べるもの)全体のことを指します。
ドッグフードという言葉は、犬が食べるものを総合した名称にすぎません。
具体的には、ドッグフードと呼ばれるものは、ペットフード公正取引協議会にて、3つに細分化して表示することが決められています。
- 総合栄養食(主食のこと)
- 間食(おやつ、トリーツ、スナックなど)
- その他の目的食(一般食、サプリメント、療法食など)
それぞれ与える目的・用途が違うものとして認識するということです。(表記のないもの・表現・表記が違うものもあることもあります。)
このような区分は、パッケージのどこかに記載があるので、みなさんもチェックしてみてくださいね。

中でも、総合栄養食という表記になっているものは、それと水さえあれば、犬が健康に生きていける栄養が取れるものという定義があります。それこそが、まさにみなさんがイメージする「犬の主食=ドッグフード」に該当するものです。
逆にいうと、その他の2つ(間食、その他の目的食)は、それだけでは理想的な栄養は確保できません。その定義がある上で、総合栄養食を名乗るにはそれなりの確証が必要で、しかるべき試験・検査を受けて、犬が健康に生きていける栄養成分があることを証明し、認定されている必要があります。
「総合栄養食」と表示をするためには、各事業者が自らの責任において定められた試験を行わなければなりません。
1つは、製品の分析試験の結果を施行規則の栄養基準と比較し、栄養成分の基準に合致しているかを証明する「分析試験」。もう1つは、実際に給与試験を行って総合栄養食であると証明する「給与試験」。この2つの試験により証明されています。
引用元:一般社団法人ペットフード協会
さらに踏み込むと、試験の栄養基準値となるのが、日本がペットフードの基準として採用しているアメリカのペットフード基準・AAFCOです。これをもとに、日本のペットフード安全法は整備されています。
ペットフード安全法で規定されてる犬の理想的な栄養バランス
AAFCOに記載されている犬に必要な栄養についてもご紹介しておきます。これをクリアしていたら、総合栄養食としてみなされるという目安ということであって、覚える必要はありません。
「こんなルールのもと、総合栄養食は作られているんだ」という情報としてご参照ください。
成犬 | パピー | |
たんぱく質 | 18.0%以上 | 22.5%以上 |
脂質 | 5.5%以上 | 8.5%以上 |
粗繊維 | 4%以下 | 4%以下 |
灰分 | ー | ー |
水分 | 10%以下 | 10%以下 |
- 灰分(ミネラル分)は、理想比率やキロ単価でのパーセンテージが、数値で示されているわけではありません。

この数値を絶対にクリアしていないといけないわけではなく、総合的に見て、この基準相当と判断されるものも、総合栄養食という扱いになっていることもあります。
なお、ウェットフードの場合は、完全に水分がない状態にして、上記の数値をクリアしていたら総合栄養食として合格です。
こういった成分表が、フードのパッケージのどこかに記載されていますので、チェックしてみてくださいね。
「療法食」と「総合栄養食」の決定的な違いはこれ!

「療法食」と「総合栄養食」の決定的な違いは、療法食は健康な子が食べるものではないということです。
これまでの説明を踏まえた上で、療法食とは、治療目的に成分や原材料を意図的に調整してある食べ物ということもあり、健康な犬のためのフード(=総合栄養食)のように、必ずしもAAFCOの規定をクリアしている必要はありません。
たとえば、腎臓疾患の子はリンやカリウム、ナトリウムの摂取を抑えたいので、腎臓疾患用の療法食は、そういった悪化の原因になる成分を意図的にセーブして作られています。
しかし、健康な犬にとっては、リン・カリウム・ナトリウムを過度にセーブする必要はありませんし、むしろ、ある程度は必要な成分でもあるわけです。
そのため、誤った認識で健康な犬が療養食を食べていたら、栄養分の欠落につながり、別の病気や不調の引き金になることがあります。
このように、扱いが難しいフードであり、症状がどうなっているのかを見極めながら与えていくものだからこそ、獣医の管理・指示・検査ありきで、治療の一環として食べるものなのです。
「療法食」と「総合栄養食」の成分の差を確認してみよう!
実在するフードで、療法食がどれほど総合栄養食からかけ離れた栄養バランスになっているのか、確認してみましょう。
細かい灰分や水分量は挙げていくときりがないので、今回は体を作る主要成分でもある、たんぱく質と脂質、それに加えて、粗繊維量のみ、また、成犬という条件で比較してみます。
総合栄養食 (AAFCO基準) |
療法食A | 療法食B | |
たんぱく質 | 18.0%以上 | 15.2%以上 | 10.5%以上 |
脂質 | 5.5%以上 | 22.4%以上 | 16.0%以上 |
粗繊維 | 4%以下 | 1.6以上 | 3.4%以下 |
いかがでしょう?
照らし合わせてみると、療法食は標準の総合栄養食とは、かけ離れた成分になっているのがわかります。
療法食AもBも健康な犬に必要なたんぱく質量には足りていませんし、脂質もかなり高めです。AにいたってはAAFCOの基準範囲にはなっているとはいえ、繊維が少なすぎるため、うんちが硬くなってしまうこともあるかもしれません。
このように、療法食は必要な犬にとってはいいものであっても、健康な犬にとっては栄養が足りていないことがわかります。
だからこそ、獣医がしっかり診察・検査をして、病気・疾患(もしくはその予備軍)と判断した場合に与えるフードということなんですね!
なぜ「療法食」が出回っているのか?
なぜ止められない?

療法食が出回っている最大の原因・それを止められない原因は大きく3つあります。(これだけとは限りませんが)
- ペットに関する日本のルールがモノ扱いなので規制できない
- 療法食に関する正しい知識がない
- 販売している側に正しい説明をする義務はいない
それぞれ考えてみましょう。
原因 1ペットに関する日本のルールがモノ扱いなので規制できない
ペットに関するルールが日本ではまだモノ扱いということが、最大の原因かもしれません。結果、誰でもが気軽に手にできる環境ができあがっていますから。
療法食はあくまで「たべもの」であって、医薬品ではないため、転売などを規制する条例はありませんし、たとえ、メーカーが転売禁止と記載していても、日本のペット用の療法食の取り扱いが法的に変わらない限り、転売品は減ることはないでしょう。
療法食は当たり前に販売できるのが現状ですから、市販(転売を含む)されていることをとがめるというのも違います。
実際に、動物病院などでも療法食のサンプルを「ご自由にお持ちください」とばらまいているケースがあったり、インターネットのショッピングサイトでも獣医の診断なしに買えたりしていますよね?
サンプルで配るくらいの少量を一度食べるだけであれば、特に健康被害も出ないでしょうし、そもそも別に違反ではないからOKなんです。誰でも普通に買えるのですから、自分の判断で購入して与えて良いものと思ってもおかしくありません。
原因 2療法食に関する正しい知識がない
当たり前のように、獣医の指導・指示がなくても買えてしまう状態ですから、別に悪いものではないだろうと、療法食に関する正しい知識がないまま、独自判断で買えてしまいます。特に、
- ペット保険に入っていないので、動物病院にかかる費用が厳しい・・・
- すぐ動物病院に行けないけど、とりあえず療法食でケアを・・・
というように、動物病院に行けない場合には、市販ですぐ買えて治せそうな療法食があればありがたいかもしれません。
また、たとえ、以前に同じ症状で獣医に処方されたことのある療法食だったとしても、「今回も同じ症状だから、またこの療法食を与えてたらいいだろう」と独自判断で与えるのは危険です。もしかしたら、前回とは違う疾患が原因ということも考えられます。
その見当違いな療養食を食べている間に、本来の原因である病気や不調が進行しているかもしれません。
中には、「この犬種は〇〇(病気)になりやすいから、ケアのためにこの療法食を与えている」「〇〇ケアに良いフードって書いてあるから、よさそう!」という具合に、別に病気ではない犬に、「健康管理に良いものなのだろう」と受け取ってしまう方もいます。
こういった間違いは、飼い主さんが正しい知識をつけていれば防げることもありますので、このように啓発していくしかないのかもしれません。
原因 3販売している側に正しい説明をする義務はない
ペットショップやインターネットショップには、療法食であることを伝えて販売する義務はありません。第三者のことなので、説明を強制できない現状なのです。
実際に、今回某メーカーが療法食の販売を規制した途端、「これの代替はこちら」というように別の、規制をしていない療法食を推奨しているショップもありました。
せっかくメーカーが規制をして、正しい療法食の管理をしようとしているのに、これがダメならあれ・・・というような販売方法をするショップがある以上、間違えた療法食の給餌によるトラブルはなくなりません。
このような状態が続いていては、本末転倒です。
なぜそのフードが取り扱えなくなったのかを、ショップ側が正しく飼い主さんに説明していれば、このようなことは減らせる可能性もあるのですが・・・。
販売する側に、「与える場合は獣医に必ず相談してください」という声掛けをするようにと、説明をするよう推奨してる団体もありますが、現状では強制はできません。
反面、飼い主さん(消費者側)
- 買えなくなるならどこで買えば?
- ネット買える療法食のメーカーは?
- 療法食の代替え
などと調べて、買えるところを探しているケースもあります。これではいくらメーカーが規制をしても、間違った療法食の取り扱いはなくなりません。
「療法食(療養食)」を与える・与えたい時のポイントとは?

お伝えしてきたように、療法食は健康な犬用の食べ物ではないので、与えなくて済むに越したことはありません。
療法食を与えるのであれば、原則は獣医の指示があって食べるというのが基本です。そのうえで、
- ただよさそうだからという理由で与えるのは危険
- 医の治療の一部でもあるので、独自判断でやめたり与えたりしない
- 食べる以上、定期的に獣医のチェックを受ける
ということは、気を付けておきましょう。
まれに、獣医に相談しないで、勝手に療法食をやめてしまう方がいます。総合栄養食と栄養がかけ離れているので、早くみんなと同じ普通のフードにしたい気持ちはわかりますが、それでも勝手にやめるのはよくありません。
また、療法食は獣医の指示に従い、正しく使うことで有効に働くものですから、しっかり獣医に診てもらいながら与えるようにしましょう。
犬の療法食はネットやショップで買って与えないように!
インターネットやペットショップ、ホームセンターなどで、当たり前のように取り扱われているため、誰でも買える状態になっていますが、だからといって、誰でも与えて良いという認識は間違いです。
与える場合は、かかりつけ獣医に相談してから、もしくは、事後報告でもいいので、「こういうことがあったから、この療法食を与えている」ということを獣医に伝えてください。
療法食のことを正しく学んで、愛犬の健やかな暮らしに役立てていけるようにしておきましょう!
Advisor
Yuka Torikai
愛犬に涙やけと皮膚のフケが出たことをきっかけに、犬の食べ物や栄養学を学び始めました。
- 犬の管理栄養士
- 犬の管理栄養士アドバンス
- 犬の行動生活アドバイザー
の資格を取得しており、生活と食事、運動の関係を大事にしています。今後は東洋医学・薬膳についても学んでいこうもくろみ中です!
現在、各ご家庭やわんちゃんに合わせたドッグフード選びのアドバイスもしており(https://dog-food-advisor-295.com/)、少しでもドッグフード選びにお困りの飼い主さんのお力になれたらと思っています。

Writers
ワンコnowa 編集部
愛犬飼育管理士/ペットセーバー/犬の管理栄養士の資格を有し、自らもワンコと暮らすワンコnowa編集部ライターチームが執筆を行なっています。
チワワのような小型犬からゴールデンレトリーバーのような大型犬まで、幅広い犬種と暮らす編集部スタッフたちが、それぞれの得意分野を生かし飼い主視点でわかりやすい記事を目指しています。
