本記事は獣医師やペット栄養管理士が執筆・監修を行っております。
愛犬の食物アレルギーによる不調や、食わず嫌い(フードジプシー)に悩んでいる飼い主さんは、案外多いものです。
元気に健康に生きていくために、食事は欠かせないものですから、そんな大事な食事が原因で不調が出たり、食べてくれなかったりすると心配になりますよね。
でも、そんな心配な状態でも、みなさんは正しく対処できているでしょうか?
愛犬が口にするものの知識・対処法を知っておくことで、ご家庭で管理していけることもあります。クイズ形式でご紹介していますので、一緒に考えてみてくださいね。
クイズ1 フードの選り好みをしてすぐ飽きるのは、フードが愛犬にあっていないから?
可能性はゼロではありませんが、答えは限りなくノーです。
たしかに、体質に合っていない・香りがどうしても嫌い・粒の形が食べづらいなどで食べないこともありますが、それが原因で選り好みするケースはそこまで多くありません。
それ以外で考えられるとすると、体に不調があるから。ただし、不調と選り好みして飽きるのは直接的な関係はありません。ほかの原因は…と考えると、
- フードの保管方法がよくない
- フードの品質や嗜好性が好ましくない
- わがままをしてもっとおいしいものを出してくれるのを期待している
のどれかの可能性が高いです。特に3つ目、要注意
フードは開封して空気に触れると酸化して、香りも鮮度も落ちていきます。
そのため開封から2カ月も3カ月も経っているフードや、高温多湿を避けたところで保管せず日に当たっていたり、密閉できおらず湿気を吸ったりしていたら、犬からしても魅力的には感じるフードではなくなっていっているのも当然です。
また、原材料が犬にとって魅力的に感じないもの(肉や魚が配合されていないなど)だと、食べたいと思えません。
そして一番の原因は、食べないことを心配するあまり、フードをとっかえひっかえしたり、食べるものばかり与えていたり、おやつなどの嗜好性の高いものを与えているなど、飼い主さんに原因があるケースもあります。
「こうやって食べ渋っていたら、もっとおいしい好きなもの出してくれるんだよね!」とワンコも学んでいるので、偏食がエスカレートしてしまうのです。
食べないと心配ですし、食べるもので食べてほしいをいう気持ちは十分わかりますが、その思いから、愛犬の偏食を加速させないように注意しましょう。

クイズ2 これまでは問題なく食べられていたものに、突然アレルギー反応が出ることはある?
答えはイエスです。人間でも、大好物だからと食べ過ぎてしまった結果、アレルギーになって食べられなくなったなんてことがありますよね?
これは体質によって異なるので、同量を食べていたとしてもアレルギーになる人・ならない人がいるものですが、実はそれは犬も同じです。
これまでチキンが大好きでよく食べていて、何事もなかったという子でも、急にアレルギーが出だすこともあります。
そのため、絶対ではないものの、「これまで大丈夫だったから問題ない」というわけでもないということは、頭の片隅に置いておくといいですね!

クイズ3 食物アレルギーの症状にはどんなものがある?
食物アレルギーからみられる症状には、
- 涙やけ、耳垂れなどの炎症
- お腹の不調(下痢、軟便など)
- 被毛の劣化(脱毛や、毛艶の低下など)
- 皮膚炎(カイカイ、腫れ、赤みなど)
- 呼吸器系の不調(くしゃみや咳など)
など幅広く、比較的、皮膚に出やすい傾向はあるものの、どの症状が出るのかは、本当に個体差があります。
フードを替えた時や初めて食べるものなどの場合は、口にしてからしばらく後になって症状が出てくることもあるので、より注意しておくとよいでしょう。
ただし、上記の症状=確実にアレルギーということではありません。「アレルギーなだけ」と決めつけず、心配な場合はしっかり獣医師に相談するようにしてくださいね。

クイズ4 食べようとしない時でも、食べないのは良くないので工夫して食べさせた方が良い?
もちろん、適度に工夫をして食べるように仕向けるのは絶対にNGということではないのですが、ワンコはワンコなりに食べない理由があり、たとえば、
- お腹が空いていない(食べ過ぎや給餌量オーバー、給餌サイクルが合っていない、代謝の低下など)
- 消化器官など、体に不調がある
- 歯周病や歯が抜けた(折れた)など、口腔内のトラブルで食べたいのに痛くて食べられない
- わがままをしてもっと好きなものを出してくれるのを待っている
- ストレス
など、ワンコなりのサインとも考えられますよね。
ごはんは生きるのに必要なことだからと、飼い主さんとしては食べてほしいあまり、あの手この手を試して食べさせたい気持ちになったとしても、まず、食べない理由を考えてあげてみてくださいね。

クイズ5 食べてくれない時やフードジプシーな子には、手作りフードが1番いい?
これも答えはノー。
心配なあまり、食いつきが良いと評判のフードをあれこれ与えてみたり、食べるものを食べさせようとしてみたり、どんどん嗜好性の高いものに替えていき、それでも食べなくなっていく愛犬に、「もう、手作りフードしかない…」と思う飼い主さんは多いものです。
それも愛情表現のひとつかもしれませんが、手作りフードはできれば、
- たまのご褒美
- 胃腸を休めたい時
- シニアになって本当にもう市販のものでは対応が難しくなってきた時
- 食物アレルギーはひどく、市販のものでは対処できない時
など、特別な時のための最終手段として残しておくことをおすすめします。
手作りフードで食いつきがよくなることはあるでしょう。でも、とうとう手作りフードにもワンコが飽きてしまったら?・・・もう打つ手がありません。
栄養管理も手作りフードではかなりの知識も必要ですし、飼い主さんの負担になることもあるでしょう。
何より一番心配なのが、万一、不調が出て獣医から療法食を食べるように指示された場合です。
療法食は治療のためのフードですので、手作りフードと比べると嗜好性は断然劣ります。そうなってしまうと、治療のために必要なフードですら食べなくなってしまう危険があり、ひとつの治療の選択肢をワンコから奪うことになるのです。
そんなことになる前に、まずはドライフードだけで生活できるように仕向けていきましょう。食べない愛犬を見ていると心配で、根気比べになるでしょうが、飼い主さんもワンコの今の目先の心配を解決することだけではなく、この先も健康でいられるために、グッとこらえることも愛情ではないでしょうか。

クイズ6 犬が食わず嫌いをして同じフードしか食べないは危険?
簡潔にいうと、「総合栄養食」という表示があるものさえ食べていたら、同じフードしか食べていなくても問題ありません。
そもそも総合栄養食とは、それと水さえ適正量を摂取していれば安全に生きていけるもののことを指します。「総合栄養食」と表記ができるのは、ペットフード安全法が規定するペットに必要な栄養をまかなえているからで、逆にいえば、その条件をクリアしているからこそ、「総合栄養食」ということなのです。
人間の場合、お肉もお魚も、野菜もしっかりバランスよく食べるのが健康の基本ですので、その考えから「うちの子、このフードしか食べない」ということを心配する方も多いのですが、そのせいで健康を害するということはありません。(総合栄養食ではないものしか食べないのは問題ですが)
ただし、フードローテーション(いくつ違うフードをローテーションで与える)をして、色んな主原料のフードを食べるということもメリットはあります。しかし、ローテーションにもデメリットもありますし、今回の解釈では伝えきれませんので割愛しますが、いずれにしてもひとつの同じフードしか食べないことは、絶対だめ・危険なんてことはないので安心してくださいね。

クイズ7 血液検査でアレルギー検査を受けておけば、愛犬のアレルギー対策は可能?
検査を受けることで、体質を知る目安にはなりますが、完全に体質を把握することは難しいと思っておきましょう。
アレルギーの検査は血液検査以外にも、食べ物を使った「除去食検査」や「パッチテスト(皮膚での検査)」などもあります。
また、症状・病院によって、受けられないところもありますし、その病院の獣医師の考え方によっては、「アレルギー検査は無駄」と最初から言い切ってしまうケースもあるようです。
獣医の考え方によっては食物アレルギーへの対応も異なるケースも多いので、検査でなにもわからなかったとしても、真摯に愛犬のアレルギー症状に向き合ってくれる獣医さんを選ぶというのも良いと思いますよ。

クイズ8 ヤギミルクはアレルギーが起こることはないので安心?
答えはノーです。ヤギミルクでアレルギーが出る子もいます。
たしかに、ヤギミルクの成犬は犬の母乳に近い成分でできているため、アレルギーは出づらく、与えやすくはあります。牛乳とは違って犬にも与えやすいというのは間違いないのですが、その考えがひとり歩きをして、ヤギミルクでアレルギーが出ることはないと思っている方もいるようです。
実際に、乳製品全般にアレルギーが出る子もいます。また、ヤギミルクはカロリーも高く、日常的に与えていたら肥満リスクも否めません。与えてもいいとはいえ、
- 特別な時のご褒美として与える
- おいしそうに飲むからといって与え過ぎず、様子を見ながら少量ずつあたえる
など、注意しておくようにしましょう。

クイズ9 アレルギー症状がある場合には、主原料が異なるフードに替えることが効果的?
答えはイエスです!実はアレルギーが出るメカニズムは、具体的にはなにがどうなってという詳細まではわかっていないのですが、その中でも、食べ物に含まれているたんぱく質に反応して起きていることがわかってきています。
つまり、フードに主原料(=そのフードの中で一番多く配合されている食材)が違うものになると、たんぱく源が変わるということなので、アレルギー症状を軽減できる可能性が高いのです。
たとえば、今ビーフ系のフードを食べているのであれば、チキンのフードやサーモンのフードに替えてみるというように、主成分を見直します。すぐに改善するとは限りませんが、やってみて損はありません。
このように、ドッグフードを選ぶときは、パッケージにある問題やクチコミ人気などではなく、原材料がどういうものなのかにフォーカスしてみると良いですよ。

クイズ10 アトピー性皮膚炎はアレルギー症状なので、食事で改善することができる?
答えはノーです。幾分は軽減できたとしても、アトピー性皮膚炎を根治することにはなりません。
というのも、食物アレルギーとアトピー性皮膚炎は、同じようなかゆみを伴う症状が出るとはいえ、それぞれ原因が異なるからです。
食物アレルギーは言葉のとおり、食べ物に反応して起こります。
かたや、アトピー性皮膚炎は環境(草に触れる、ハウスダストなど)に反応し、要は食事ではないものに原因があります。
アトピー性皮膚炎の場合、敏感になっているおともあり、食物アレルギーを併発してしまうことも少なくありません。
ただし、食事で根本的に治すことではないとはいえ、抗炎症作用の期待できる食べ物を食べたり、食事療法でアレルギーリスクのないものを与えたりすることで、症状を軽減できる可能性はあります。
根気よく向き合っていきましょう。

最後に
ご紹介したものは、あくまで「こういったことも考えられる」という内容もあり、ワンコの状況・体質によっても異なることもあります。
また、なにかあったときにも、知っておいた方が良い知識ではありますが、明らかな不調がある時は、獣医師に相談するのが優先です。食べ物のせいに違いないという思い込みで、重大な不調を見落としてしまっては元も子もありませんしね。
とはいえ、食べ物ひとつ・飼い主さんの給餌の仕方ひとつで、改善できることもあるので、ワンコのことを日々しっかり観察して、ワンコのことを知って、健康な日々を過ごさせてあげられるようにしましょう!