本記事は獣医師やペット栄養管理士が執筆・監修を行っております。
愛犬の体を作り上げる基本となる、ドッグフード。
ごはんって毎日のことで、当たり前のことになっているでしょうが、健やかに暮らす活力を養う源でもあり、食べるもの・与え方ひとつで健康を害してしまう危険もあります。
しかも、犬があれ食べたい、これ食べたいと自分で選んで買って食べるわけでもありませんし、ワンコの食べ物はほぼ100%飼い主さんの管理下にあり、飼い主さんの与えるものや接し方、ワンコの食べ物に関する知識にかかっているといっても過言ではありません。
今回は、犬の食事(ドッグフード)について、一緒に考えていきましょう!
クイズ1 市販のドッグフードより手作りフードの方が栄養がある?
答えはノーです。「手作りフード(手作りごはん)が絶対的に1番良いもの」という、誤った認識が定着している面もありますが、実際は、そうとは限りません。
むしろ、長期的に与えることで、栄養成分が欠落してしまう危険があるので、与え方には注意が必要です。
たしかに、大事なワンコのために手作りをするというのは、飼い主からしても愛情をかけてあげる気持ちになりますし、手作りフードの方が嗜好性が高いので、ワンコの食いつきも上がることでしょう。ただし、加熱して作ることにより、食材の栄養価は幾分落ちますし、微量ミネラルやビタミンなどのバランスを補うことは非常に難しく、サプリメントなどを使わないとトータルバランスは崩れてしまいます。
あるいは、相当な栄養学の知識を有していないと簡単にできることではありません。
一方、市販のドッグフード(総合栄養食)は販売基準の栄養価をクリアしていますので、そのように何かの栄養成分が欠けてしまう心配は無用です。
手作りフードは体調やライフステージなどに合わせて、上手に取り入れるのは良いのですが、絶対的に手作りフードが一番というわけではないことを頭の片隅に置いておいてくださいね。

クイズ2 ウェットフードの方がドライフードよりも栄養価が高い?
答えはノーです。一見、ウェットフードって見た目も「肉にくしい食べ物!」という印象がありますし、香りもしっかりしていて、ワンコの食いつきもよくとても栄養価が高いように見えます。
反面、ドライフードは茶色いただの粒で、人間からしたら「こんなのがおいしいのかしら?」と思うような見た目で、大した栄養のものに見えないかもしれません。
しかし、実際はウェットフードは水分含有量が多く、ドライフードよりも栄養価も低いんです。
具体的に実在するAのウェットフードと、Bのドライフードで栄養成分を比較してみましょう。
(※A、Bともに同メーカーの同一主原料のフードで、ウェットかドライかだけが違うものです)
100gの栄養成分 含有量 |
ウェットA | ウェットB |
---|---|---|
たんぱく質 | 6.0%以上 | 24.0%以上 |
脂質 | 5.0%以上 | 15.0%以上 |
粗繊維 | 0.7%以下 | 4.0%以下 |
灰分 | 3.5%以下 | 10.5%以下 |
水分 | 83.0%以下 | 10.0%以下 |
カロリー/100g | 100kcal | 365kcal |
ドライフードBの方が、圧倒的に栄養価が高いことがおわかりいただけると思います。
Bを100g食べただけで摂取できる栄養を、ウェットAで賄おうとすると300gは食べないといけないことになるということです。
比べてみたら、一目瞭然でしたよね。ウェットフードの方が栄養が豊富で体にいいと思っていた方は、この機会に、正しい知識にアップデートしておいてくださいね。

クイズ3 ふやかしたドッグフードは、健康な成犬には与えない方が良い?
ふやかしたフードは、健康な犬であろうが、成犬であろうが、与えても問題はありません。
ドライフードをふやかして与えるのは、
- 歯が生えそろう前や、胃腸がまだ丈夫になっていないパピー期
- 噛む力が落ちてきたり、消化器官が弱ってきたシニア期
- 不調がある時(ライフステージ問わず)
- 長毛種の場合、口周りが汚れてしまう
などのイメージが強いという方もいると思います。しかし、そういった状態じゃなければ、与えない方が良いというわけではありません。
フードをふやかして与えるメリットは、
- 消化の負担を軽減できる(早食い癖がある子は特に)
- 粒が膨張することにより、満腹感を得られる(ダイエット中にもおすすめ)
- 香りが立ちやすくなり、食欲をそそる
などがあります。
反面、デメリットは、
- 歯に詰まりやすくなる(歯石がたまりやすい)
- ふやかす手間がかかる
- ふやかしたら、菌が繁殖しないように早めに食べきらせないといけない
- 噛む力が衰えてしまう
などがありますが、歯磨きをしていれば特に大きな問題ではありません。本来は歯みがきは毎日するのが理想ですから、歯みがきをしているワンコであれば、さほどデメリットになるわけでもないということです。
また、あごの力が落ちる・噛む力が落ちるというのは、おやつやおもちゃなどで、硬いものを噛む習慣があれば問題はありません。
ドライフードを安心して食べられるワンコであれば、積極的に毎日ふやかして与える必要はありませんが、胃腸を少し休ませるためにも、たまにはふやかして与えるのもありですよ。

クイズ4 高たんぱくなドッグフードの方が体に良い?
答えはノーです。高たんぱくなフードは、スポーツドッグや運動が多い使役犬など、食べる子を選びます。フードのそのもののカロリー数にもよりますが、どんなワンコにとっても良いとは限りません。
最近、「高たんぱく」というフレーズを売りにしたドッグフードをよく見かけることがあります。
感覚ですが、30%~35%以上のたんぱく質含有量のものを高たんぱくと呼ぶ傾向があり、アクティブな飼い方をする国のフードに多いですね。
(※パーセンテージは、ドッグフードのパッケージにある成分表に記載されています)
しかし、以下のようなワンコにはたんぱく質30%以上などの高たんぱくフードはおすすめしません。
- シニア犬(筋肉に負担をかけてしまう)
- 心臓や腎臓に不調がある(臓器に負担になってしまいます)
- あまり運動量がない、肥満気味(筋肉で消費されなかったたんぱく質は、脂肪へと変わり、太りやすくなる)
- アレルギー体質(アレルギーはたんぱく質によって起こることが多いため)
高たんぱくなフードのメリットは、筋力アップのほか、食いつきアップなどもあるのですが、そもそも、日本の一般的な暮らし方(飼い方)をしているワンコにとっては、たんぱく質は25%程度でOKと言われていますし、AAFCO(日本が採用している、犬の栄養基準)では、
- パピー期にはたんぱく質は22.5%以上のもの
- 成犬期からは18.0%以上のもの
が理想とされています。
これらの数値をベースにして、運動量や体格、ライフステージ、どういったおやつを与えるのかなどで、トータルバランスを見て愛犬に合うものを選ぶのがよいでしょう。
「高たんぱく=良いもの」という感じがするワードですが、しっかり成分の働きを理解して、愛犬の生活に合う栄養成分のフードを選べるとなおよしですね。

クイズ5 ドライドッグフードは開封後、どのくらいの期間で食べきるのが理想?
フードの製造方法・水分含有量にもよりますが、原則は開封後1カ月~1.5カ月を目安に食べきることが理想です。
一度開封してしまうと鮮度が落ちる一途で、フードが空気に触れることで香りが飛んだり、酸化して腐食しやすい状態になります。結果、食いつきが悪くなってしまったり、最悪の場合、お腹を壊してしまったりする危険もあるのです。
特に日本は高温多湿な気候ですから、保管方法も注意が必要で、直射日光を避け、湿気の少ないところで管理しておくようにしましょう。
昨今、フードの値上げも続き、コスパの良い大容量パックのフードを買いたくなるのですが(容量が増えるとキロ単価が安くなる傾向があるため)、そのせいで不調をきたしては意味がありませんものね。
容量を購入してコスパをよくしたいなら、購入後に小分けにして真空保存するという手もありますが、手間ですし、真空にしたからといって長期的に保管しておけるということでもなく、早めに食べきる方がいいにはいいのですが。
なお、余談ですが、セミモイストフードやウェットフードは水分含有量が多く、日持ちしませんので、開封後は早めに食べきるようにしましょう。

クイズ6 ドッグフードはしっかり噛んで食べた方が良い?
答えはノー。犬の骨格は、食べ物を咀嚼して食べるような形状にはなっていません。
また、人間の場合、咀嚼して唾液が出ることで消化酵素(アミラーゼ:デンプンを分解して消化を助ける酵:)が出るので、口に食べ物を入れて、咀嚼する時点で消化がスタートしているのですが、犬の唾液にはアミラーゼがほぼありません。そのため、犬の場合、消化は胃からスタートします。
上記2点から、そもそも噛む習慣・必要性がないのです。そのため、フードを噛まずに丸飲みしてしまう子は多く、それ自体は大した問題ではありません。
それに、フードも基本的には胃の中で消化されていくように作られていますしね。
ただし、フードの粒の口のサイズや形状(キブル)が合っていないのは危険です。フードを丸飲みしてしまったり、早食いしてしまったりすると、誤嚥や消化不良などの危険があります。
小型犬に大きめのキブルを与えるのも危険ですし、大型犬に小さすぎるキブルのフードを与えると、一気に丸飲みしてしまう危険もあるので、愛犬の食べ方に合わせたキブルのフードを選べると良いですね!

クイズ7 原産国が「国産」「日本」となっていれば、原材料も日本のものということ?
答えはノーです。ドッグフードの原産国に関する表記は、「ペットフード公正取引協議会」において定められており、ペットフード加工において、フードそのものに変化・変更をもたらす最終加工をした場所が、そのフードの原産国となります。
たとえば、
- 日本のメーカーのフードであったとしても、海外の工場で作っているなら、そのフードの原産国として国産ということはできません。たとえ日本の食材を使っていてできてたとしてもです。
- 日本の工場で、海外産の食材を使用して作ったフードは国産です。
ちなみに、フードを製造する工場の衛生条件は、国によって異なります。
ヨーロッパであれば、ペットフードの工場でも人間が口にする食べ物レベルのトレーサビリティ体系(HACCAPやISO22000)で管理している傾向がありますが、日本においては、昔よりはよくなっているとはいえ、ワンコが口にするものに対してヨーロッパほど衛生基準は高くありません。
とはいえ、国産フードでも独自でしっかり衛生基準を上げてチェックしているメーカーもありますし、「どの国は絶対こう」ということではないのですが、「〇〇産」という言葉だけで判断しないようにできるとなおよしですね!

クイズ8 ドッグフードにはトッピングをして与えた方が良い?
答えはノー、与えた方が良いということはありません。
毎日与えているとトッピングアイテムの嗜好性の高さゆえに、好き嫌いをして偏食になってしまう危険もあるので注意してください。
(例:トッピングだけ食べて肝心なフードは残す、より嗜好性の高いものにしないと食べない、好きなものしか食べないなど)
- トッピングした方が彩りもよくなって、おいしそうに見える(犬は視覚で食べ物を選んでいません・・・)
- トッピングアイテムの香りの強さゆえに、食いつきもよくなっておいしそうに食べてくれる
- 香りのバリエーションが増えて、犬自身が食に興味を持っていられる
- 茹でた野菜やお肉の場合は、愛犬と一緒のものを食べられる
など、愛犬も飼い主さんにもうれしいこともあるのですが、正しい栄養知識・分量・頻度を徹底できないとかえって愛犬の健康を害してしまいかねません。
「愛犬がウルウルの瞳で食べたそうに見つめてくる…」「ワンコも食べていい食材ならトッピングしてあげよう」と、かわいい愛犬がうれしそうに食べる姿を見るのも飼い主冥利に尽きる瞬間でもあり、一時的な幸せはあるでしょうが、過剰にならないように、正しく管理してあげられるようにしましょう。

クイズ9 トッピングをしたり、おやつを与えたりするのは、犬への愛情表現としてふさわしい?
かわいい愛犬においしいものを食べさせてあげたい、喜ぶことをしてあげたいと、愛情表現としてトッピングやおやつを与えているのであれば、その認識は正しくはありません。
おやつは、愛犬とのコミュニケーションで有効に使うのは良いのですが本来は、総合栄養食さえ食べていれば、おやつもトッピングも不要です。(総合栄養食はそれと水さえ摂取していたら、犬が健康に生きていけるものという定義があるため)
おいしそうに食べる姿を見たいあまり、過剰に与えて肥満になってしまったり、食生活が乱れ、健康にも影響が出る危険があります。
おやつやトッピングとして与えていい分量は、1日に必要な総熱量(総カロリー)の10~20%に抑えるのが理想的で、できれば10%までにとどめておきたいところです。
例)1日に500kcal摂取する必要がある子の場合は、フードが450kcal(全体の90%分)・おやつやトッピングは50kcal(全体の10%分)
フードはフード、おやつはおやつ、トッピングはトッピング…とわけて考えてしまうと、栄養過多になる傾向があるので、フードもおやつもトッピングも、トータルして考えて、愛犬に健康的な食生活を送らせてあげるようにしましょう。

クイズ10 トッピングは少量であればカロリーや栄養に影響はない?
無論、影響はありますので、少量なら大丈夫という考えはおすすめしません。特に、不調がある時はトッピングアイテムには注意が必要です。
そもそも、「総合栄養食」を食べていれば、基本的な犬に必要な栄養が整っているので、トッピングをすることで、そのフードのトータルの栄養バランスが崩れてしまいます。
与えているドッグフードでは、愛犬に摂取させたい成分が十分に取れないのであれば、サプリやふりかけのようなものでプラスするのはいいのですが、たとえ犬が食べても良いと言われている食材であっても、ヘルシーだといわれている食材であっても、原則は率先して与える必要はありません。
- 毎日はトッピングしない
- 少量をたまに与える程度の適正量は厳守する
- トータルの栄養摂取、カロリー摂取量を加味して与える
など徹底して、「ちょっとくらい大丈夫」という認識のまま、それが当たり前になってしまったり、度を越してしまわないよう、飼い主さん自身が自制できるようにしておくことが重要です。

最後に
かわいい愛犬がうれしそうに食べていると、思わず飼い主さんも「もって喜ばせてあげたい、喜ぶ姿が見たい」と節度なく与えてしまうこともありますし、また、愛犬もそのように接してくれる飼い主さんに、「もっともっと」と要求してしまうこともあります。
今は問題なさそうだったとしても、そういった食生活で日々を過ごしていると、年齢を重ねてから不調が出てくる危険もあるので、日々の管理は欠かせません。
厳しいことをいうと、それは飼い主さんの責任であって、飼い主の管理次第で調整できるはずのことです。
- ちょっとくらい大丈夫
- 喜んでいるから
など、間違えた愛情表現から、愛犬の健康を損ねてしまう食生活を送らせてしまわぬよう、正しい知識で接していけると良いですね!