本記事は獣医師が執筆・監修を行っております。
人間は音ともに臭いのするおならをすることが多いです。
犬もおならをすることをご存知ですか?
排出される空気の量も違うため、おならの音で気付かずに、突然臭いにおいがしてきて驚いた経験のある飼い主さんもいるのではないでしょうか。
普段は無臭で音もしないことが多い犬のおならですが、普段と違うおならは愛犬が発するSOSの可能性もあります。
犬のおならに関するQ&A
Q&A 1犬がおならをする原因は?どうして臭いの?
腸内にたまったガスが腸運動で肛門に押し出されておならとなります。
吸い込んだ空気が腸管の運動によって押し出されたものであれば無臭であることが多いです。発生した空気の状態によって悪臭がする場合もあります。
消化不良などで消化吸収が不充分な場合や、腸運動が不充分なために食べたものが腐敗して産生されたガスが溜まっている場合などは便臭や腐敗したようなにおいがする場合が多いです。
普段から腸運動が活発な子の場合、消化吸収が不充分な状態で下痢などの消化器症状はなくても臭いおならをすることもあります。
Q&A 2犬のおならはどんな音?
無音で気付かない場合もありますが、たまった空気の量や押し出される空気の量によって大きな音がする場合もあります。
音がする場合は、少ない量であれば「すー」というガスが漏れるような音のこともありますが、大きな音であれば「ぷっ」という人間のおならのようなこともあります。
自分のおならの音に驚く愛犬の様子を見たことがある飼い主さんもいるかもしれません。
Q&A 3犬はおならをした自覚がある?
犬は人間のようにおならをしたくてするというよりも、興奮や腸の動きによって腸内のガスが自然に押し出されるというイメージに近いです。
そのため、無意識におならをしているため、普段は自覚があまりない場合が多いです。しかし、大きな音などがしたときに、自分のおならで発した音と気付かずに驚く場合があります。
腸管にたまっているガスの量によってはお腹が張って苦しい、おなかが痛いなどの違和感を感じている場合もあります。
その場合お腹をしたという自覚とは少し異なりますが、体勢をとりづらそうにしたりそわそわしていたことがおならをした後に安心したように落ち着くということもあります。
その場合、おならをしたくてそわそわしていたように見える場合もあるでしょう。
Q&A 4おならをしやすい犬種は?
犬種による大きな差はありませんが、空気をよく吸い込む個体は消化管にガスが溜まりがちです。
フレンチブルドッグやパグ、ブルドッグなどの短頭種と呼ばれる犬種たちは鼻腔の狭さやマズルの短さからブヒブヒという特徴的な呼吸をしがちです。
空気をたくさん吸い込むと、胃や腸にたまった空気は腸の動きとともにおならとして排出されます。
大量の空気や腸の動きが亢進している状態でなければ少しずつ排出されるため、大きな音もしない場合があります。
消化管に問題が無ければ、臭いにおいなどはあまりないことが多いため、気づかない飼い主さんも多いかもしれません。
犬種差は関係なく、興奮しやすい性格の犬なども空気をたくさん吸い込むため、おならとして吸い込んだ空気が排出される傾向があります。
犬のおならに関係する病気や病院に連れていくべき症状
病名・症状 1消化不良
消化不良を起こすことで消化管内での消化吸収が不充分になります。消化や吸収の不充分さは悪臭の原因になります。
また腸管の運動能が低下をして長時間内容物がその場所に存在していたり、腸管内の細菌叢が乱れて腐敗が起こったりすると悪臭のするガスが溜まる場合があります。
あわせて下痢や嘔吐などの症状が見られる場合もありますが、初期症状として悪臭のするおならで気付く飼い主さんもいます。
お腹を触ると普段よりも固く張っているなどの変化にも気付く場合もありますが、家庭で確認することは難しいため、普段よりもおならが頻繁で悪臭であることに気づいたら、かかりつけの動物病院へ受診することをおすすめします。
病名・症状 2異常呼吸
呼吸のしづらさなどで空気をたくさん吸い込み、消化管内にガスを多く取り込んでしまった場合もおならが普段よりも頻繁にでるばあいがあります。
痛みや苦しさでハアハアと呼吸数が増えたり、肺などの呼吸器の機能が低下すると、息苦しさから空気をたくさん吸い込む傾向があります。
そのせいで胃や腸などの消化管が空気で充満して、おなかがパンパンに張ってしまうため、より息苦しさを感じます。
普段よりも浅く速い呼吸や、腹部膨満により伏せなどの一定の姿勢をとることができないなどの変化も併せて見られることもあり、消化管内にたまったガスが腸管の運動とともに押し出されておならとして出ます。
腸管内の便の有無などによってにおいの有無も変わるでしょう。
気付いた場合、異常な呼吸の原因を探る必要があります。レントゲン検査や心電図などの検査も必要な可能性が高く、循環器トラブルや呼吸器のトラブルによる異常呼吸の場合、経過によっては死に至る危険性もあるため、出来るだけ急いで受診が必要です。
病名・症状 3便秘
便秘が起こっている場合も悪臭のあるおならが出る場合があります。
便秘の起こる原因は、腸運動の機能低下や脱水、便の状態など様々です。長い間便が腸管内にとどまることで、腐敗しガスが発生する場合があります。
便量の減少や、食欲不振、悪臭を伴うおならやおなかのハリなどで気付くケースが多いです。
腸運動の機能低下は特に高齢犬に見られることが多く、今までは便秘などを起こさなかった犬も、加齢とともに腸運動の機能低下が起こる可能性があるため注意が必要です。
若齢の頃から、消化機能や腸運動の機能が不安定で食べ物や環境、全身状態などによって停滞しがちな個体もいます。
腸運動の機能低下が見られやすい場合、普段から食物繊維が多く含まれる消化器のトラブルが多い個体用の療法食などを選択した与えることをおすすめします。
ただし、程度がひどい場合、治療の一環として療法食を与えることになるため、飼い主さんの自己判断ではなくきちんとかかりつけの先生に相談をして処方してもらってください。
また、腸運動の問題だけでなく、腎臓のトラブルなどで脱水が起こっている場合、便が固くなり便秘に陥る場合があります。その場合背景となるトラブルの解決が必要です。
病名・症状 4慢性的な腸炎
腸管内の細菌叢の不安定さやアレルギー、寄生虫などの原因による感染など様々な原因で慢性的な腸炎を引き起こすことがあります。
その場合、消化吸収が充分に行われず、排出される便の状態も不安定になるため、悪臭を伴うおならを良くすることがあるので注意が必要です。
腸炎というと致命的な疾患に結びつきづらいですが、慢性的で長期間にわたって炎症を起こし続けると腸粘膜が正常に機能せず、消化吸収が充分に行われなくなり栄養失調や電解質異常などにつながる危険性があり、最終的に死に至る危険性もあります。
悪臭を伴うおならや、便の状態の不安定さ、食欲不振なども併せて見られる場合や治りが悪い、程度が悪化するなどの場合は速やかな受診が必要です。
原因を特定したうえで、原因に応じた投薬が必要となります。また、消化器の状態やアレルギーなど原因によって、適した療法食が処方される場合もあります。
注意が必要なのは、寄生虫などの感染性の疾患による腸炎の場合です。一緒に暮らしている犬や飼い主さんにも感染する可能性のある寄生虫やウイルスなども存在します。
感染性であることがわかった場合は、衛生面で感染の拡大を予防するための環境の見直しなどもしましょう。
病名・症状 5消化管内異物
犬は好奇心旺盛な動物です。おいしそうなにおいやおもしろそうなものに誘われて、消化をできないような食べてはいけないものを口にしてしまうケースが多く見られます。
異物による腸閉塞には完全閉塞と不完全閉塞があり、完全閉塞の場合は排便が無くなり、閉塞により激しい嘔吐が見られるため気付きやすいですが、異物の大きさによっては完全に腸管が塞がらず内容物の通過が起こる不完全閉塞というものもあり、その場合は排便も見られるため気付きにくいケースも多いです。
気づくきっかけとなる症状として食べている量に対して便の排出量が少ないこと、内容物の通過は不完全なため停滞がちになるため、腐敗して悪臭のするガスが産生されおならとして出る、食欲不振や嘔吐などが挙げられます。
留守番中の飼い主さんも気付かない場での盗み食いや、消化され通過するであろうと考えていたものが消化や通過ができず不完全閉塞につながる場合があります。
愛犬が食べてはいけないものは手の届かない場所に保管すること、留守番中も盗み食いに気付けるよう留守番用のカメラを配置するなどの対策も有意義です。
おならや食欲不振、嘔吐などが続く場合はもしかしたら見ていない所で何かを食べてしまって不完全閉塞を起こしてしまっているかもしれません。その場合は早めに受診することをおすすめします。
まとめ
愛犬がおならをしている様子を見たら、微笑ましくてつい笑ってしまうかもしれません。
しかし、実は体に起こっている異変を知らせるSOSである場合もあります。
悪臭がする場合や頻繁におならをする場合、併せて食欲や排泄の変化に気づいたらかかりつけの先生に相談してみましょう。
おならは私たち人間が普段からするものであるため、重大なことととらえず様子を見がちですが、原因によっては致命的なダメージにつながる危険性もあります。
小さな変化に気付けるよう、普段から愛情をもって愛犬の様子を観察してあげられると安心です。
Supervisor
葛野 莉奈 かどの りな
麻布大学獣医学部獣医学科を卒業後、横浜市内動物病院や会員制電話相談動物病院、ペットショップ付属動物病院にて小動物臨床に携わらせていただいた後、自身の動物病院を開院させていただきました。
現在、院長として臨床の現場で従事する傍ら、わんちゃんや猫ちゃんに関するコラムを執筆させていただいています。
プライベートでも、病院で一緒に生活する猫たち3匹と家庭でも愛犬たち10頭とともに生活しています。