本記事は獣医師が執筆・監修を行っております。
私たち人間は、退屈な時や眠い時などにあくびをします。犬たちもあくびをする様子を見たことのある飼い主さんも多いでしょう。
愛犬があくびをしている様子はリラックスをしているように見えて微笑ましいものに感じがちですが、実はいろいろな意味が隠されていることがあります。
犬のあくびにはどんな意味が隠されているのでしょうか。
犬があくびをする理由と対処方法
理由 1眠かったりリラックスしているから
人間と同じで犬もリラックスをしていたり眠くなるとあくびをします。
食後や家族団らんの場などでのあくびであればリラックスをしている証拠でしょう。
つい帰宅をして一緒に過ごしていると、ちょっかいを出したり遊びたくなってしまいますが、あくびをしていたらゆっくりと休めるように眠るモードにしてあげましょう。
触れ合う場合もそっと撫でたり、優しく声をかける、ただ隣にいるようにするなどすることで次第に眠りだす場合もあります。
理由 2緊張している自分を落ち着かせるため
カーミングシグナルとも呼ばれます。緊張している際に自分を落ち着けようとする仕草をカーミングシグナルと呼びます。
他にもしきりに足などをなめる、首や耳のあたりを掻くなどもカーミングシグナルの一つです。
緊張をするような環境である場合、落ち着かせてあげられるような声掛けをしてあげるとよいでしょう。
頻繁に緊張によるあくびをしていたり、長時間緊張によるあくびをしている場合、精神的な負担になってしまうかもしれません。
緊張の原因などを探ってみることも大切です。普段から家庭でも緊張によるカーミングシグナルをしているのであれば、落ち着けるような環境づくりへの見直しが必要かもしれません。
しっかりと安心して体を休められる環境を作ることは健康的に過ごすために欠かせません。
理由 3飼い主さんのあくびをまねしたため
人間では「あくびがうつる」という表現をしますが、人間同士の場合あくびを見ていることで共感をしたり、真似をしようという意識が働いて同じようにあくびをしてしまうという現象が起こります。
精神的な要素からあくびが移るという説があり、犬の場合、全く人間と同じようなメカニズムであくびが移る可能性は低いです。
しかし、飼い主さんのことが大好きな犬や深い信頼関係が築けている犬の場合、飼い主さんをずっと見ていて、仕草や表情を真似しようという行動が見られる場合があると言われています。
あくびも同様にまねをして行っている場合もあります。もしその場合、愛犬との信頼関係が深いことになり、とても喜ばしいことだと言えるでしょう。
理由 4気持ちを入れ替えてリフレッシュするため
あくびは大きく呼吸をすることで肺に酸素を取り入れ、換気を促進していたり、顔面の筋肉を動かすことでリフレッシュをする意味も持つという説があります。
ぼーっとしていたり、長時間待たされていたりする時に人間が伸びをしたりストレッチをするような感覚でしているのかもしれません。
長時間飼い主さんの用事に付き合わせてしまっていたり、同じコマンドで長時間そのまま待たせてしまっていたりしませんか?
愛犬がそんなシチュエーションであくびをするのであれば、声掛けをしてあげたり、気分転換に違う場所へ連れ出してあげても良いでしょう。
理由 5気持ち悪いなど体調変化を感じているため
人間と同じで生理的なあくびであれば病的な意味は持たないため、大きな問題はありません。
しかし、体調変化による不安や気持ち悪さ、倦怠感などを感じる場合もあくびをする場合があります。
生理的なあくびと病的なあくびの違いは前後で起こる神経的な発作の有無や、食欲不振、元気消失、下痢嘔吐などの消化器症状の有無などを合わせて評価する必要があるでしょう。
普段からどのようなシチュエーションであくびをすることが多いか、どのくらいの頻度であくびをしているかということも観察しておくと、普段との小さな変化に気づきやすいです。
疑わしい場合、あくびを頻繁にしていていつもと様子が違うなと感じたら動画で撮影するなどしておくと、診察の際に評価する材料となることがあります。
病院に連れていくべき、病気が疑われる症状は?
病名・症状 1てんかんなどの神経発作
てんかんなどの神経発作というと四肢をぴんと伸ばした状態で起こる強直や意識の消失などをイメージする飼い主さんも多いかもしれません。
しかし、重度になるとそのような変化を繰り返し起こすこともありますが、初期や軽度の場合違った変化が見られます。
気付きづらいですが、口をもぐもぐとさせるようなしぐさや、四肢のもつれなどが実は初期や軽度のてんかんの症状である場合が考えられます。
体に起こっている変化に気づいてそわそわしたり、自分を落ち着かせようとするような仕草が前兆となる場合もあり、急にそのような行動変化が見られた場合はてんかんなどの神経発作の前兆かもしれません。
クッションを掘り出したり、うろうろする、生あくびを繰り返すなども前兆の行動変化として挙げられます。
てんかんは短時間に発作を繰り返す重積とよばれる症状が起こると死につながる危険性があり注意が必要です。
疑わしい兆候が見られた場合は、動画などに様子を撮影し、早めにかかりつけの先生に相談することをおすすめします。
病名・症状 2車酔い
人間でも車が苦手で、乗るたびに酔ってしまうという人もいます。
犬も車が苦手で乗るたびに酔って嘔吐をしたり元気消失などが見られる子もいます。
車の動きが苦手な子、車の中の空間が緊張や恐怖などを感じて苦手な子など様々です。
家庭によってよく車での移動をする家庭やまったく車に乗らない家庭など、車に乗る頻度は異なるでしょう。
動物病院や定期的な帰省などで車での移動が必要な場合、若齢の頃から徐々に車に乗る時間を増やし、乗る距離を長くしていくことで徐々に慣らすことができることもあります。
しかし車への適応も個体差があり、どうしても苦手で車での移動が必要な場合は酔い止めの薬などもあるため、処方してもらうことを検討しても良いでしょう。
病名・症状 3消化不良などの消化器トラブル
消化不良や胃腸炎などで気持ち悪さや倦怠感を感じている場合、何度も生あくびをすることがあります。
生あくびと併せて、食欲不振や下痢嘔吐などの消化器症状が見られたら、消化器トラブルがあるのかもしれません。
消化器症状の程度があまりひどくなくても、生あくびを繰り返しているのであれば、気持ち悪さや違和感を感じている可能性もあります。
愛犬の負担を軽減してあげるために、早めに受診することをおすすめします。
病名・症状 4貧血
様々な原因により貧血が起こると、倦怠感などを感じて生あくびを頻繁にする場合があります。
貧血というと外傷などによる出血によるものをイメージしがちですが、それだけではありません。
たとえば免疫介在性貧血と呼ばれる自身の免疫システムの不調により、自分自身の赤血球を壊してしまうことによって起こる疾患もあります。
他にも、体内の腫瘍が自壊することによって出血をし、止まらない状態であるため貧血に至る場合や、造血ホルモンを分泌する腎臓の機能低下によって貧血に至る場合もあります。
貧血を確定するためには血液検査が必要ですが、元気消失や食欲不振、可視粘膜の蒼白などの変化も気付きやすい兆候の一つとして挙げられるでしょう。
程度が悪化すると致命的な状態に陥る危険性もあります。
病名・症状 5低血糖
人間も犬も生きるためのエネルギーとして糖が必要不可欠です。
エネルギー源となる血糖と呼ばれる血液中の糖が不足することで、低血糖と呼ばれる状態に陥ります。
成長などでエネルギーが必要な若齢の個体や、栄養吸収が充分に行われなくなる高齢犬、持病で糖代謝が上手くできなくなっている個体などで起こりやすい傾向があります。
エネルギー不足に陥ることで倦怠感を感じたり、元気消失、意識がもうろうとするなどの変化が見られる場合があり、程度が悪化すると死に至る危険性もあり注意が必要です。
倦怠感から生あくびが見られる場合があり、あわせて普段よりもぼーっとしているように感じたり、元気がないなどの変化に気づいた場合、かかりつけの先生への受診を検討しましょう。
まとめ
愛犬と過ごす日常の中でよく見るかわいらしいあくびですが、実は愛犬がたくさんのサインを発していることもあります。
愛犬からの愛情のサインである場合もあれば、緊張や不安のSOSサインである場合もあります。
あくびの意味を知ることで、言葉を話せない愛犬が普段どんなことを考えているのか少し距離が縮まるのではないでしょうか。また、言葉を話せない愛犬の体調不良に気付く大切なサインとなり得ます。
体調不良の場合、早期発見および早期治療は愛犬の負担を減らし、長生きしてもらうために必要不可欠です。そして小さな変化や愛犬の示すサインをいかに読み取れるかが体調不良の早期発見につながります。
普段から小さな変化に気付けるよう、愛情をもって愛犬のことを見守ってあげられると良いですね。
Supervisor
葛野 莉奈 かどの りな
麻布大学獣医学部獣医学科を卒業後、横浜市内動物病院や会員制電話相談動物病院、ペットショップ付属動物病院にて小動物臨床に携わらせていただいた後、自身の動物病院を開院させていただきました。
現在、院長として臨床の現場で従事する傍ら、わんちゃんや猫ちゃんに関するコラムを執筆させていただいています。
プライベートでも、病院で一緒に生活する猫たち3匹と家庭でも愛犬たち10頭とともに生活しています。