本記事は獣医師が執筆・監修を行っております。
INDEX
- 犬が震える理由と対処方法
- 理由1「寒さが原因の震え」
- 理由2「ストレスや恐怖、不安からの震え」
- 理由3「興奮による震え」
- 理由4「加齢による筋力低下からの震え」
- 理由5「飼い主さんにかまってほしくて震える」
- 理由6「病気① 脳障害による震え」
- 理由7「病気② 代謝や排泄をする臓器の機能障害による震え」
- 理由8「病気③ 中毒や低血糖による震え」
- 理由9「病気④ ホルモンバランスの崩れによる震え」
- 理由10「病気⑤ 痛みによる震え」
- 病院に連れていくべき症状は?
- 症状1 震えに加え、元気や食欲の低下、嘔吐や下痢などその他の症状が見られる
- 症状2 震えが痙攣に進行したり、震えているときに呼びかけても聞こえていない様子が見られる
- 症状3 体を動かしたがらなかったり、抱き上げとキャンと鳴く
犬も人と同様に、寒さで震えることはもちろんですが、それ以外にもさまざまな原因で震えることがあります。
犬に震えが見られると、飼い主さんはそのまま様子を見てもいいのか、動物病院を受診した方がいいのか、迷ってしまいますよね?
この記事では、犬が震える原因や対処法、動物病院に連れて行くべき震えについて解説しますので、是非参考にしてください。
「震え」と「痙攣」の違い
犬の体の動きは、脳から発信される電気信号によってコントロールされています。この電気信号が何らかの原因により異常に発信されてしまうことにより、犬自身の意思とは関係なく、筋肉の反復的な収縮が起こるのが痙攣です。
震えと痙攣の違いは、体を動かせるかどうかと、意識がはっきりしているかで判断できます。震えは歩いたりお座りしたりなど体を動かせる状態で、意識もはっきりしていますが、一方、痙攣は筋肉がこわばるため、体を動かすことができせません。また、痙攣では意識がはっきりしておらず、周囲のことも分からなくなります。
犬が震える理由と対処方法
理由1「寒さが原因の震え」
犬も人間と同じで、寒い時にはブルブルと小刻みに体の震えが起きます。
これは「シバリング」という全身の筋肉を細かく動かすことにより熱を発生させ、低体温にならないよう体温を維持しようとする生理的な現象です。
特に、体温調節が苦手な子犬や高齢犬、チワワやトイプードルなどといった超小型犬でよく見られます。
対処方法
寒さが原因の震えに対しては、室内ではエアコンなどで室温を暖かく保つようにしましょう。また、お散歩などの外出の際には、洋服を着せてあげるなどの防寒対策が大切です。
理由2「ストレスや恐怖、不安からの震え」
犬も人間同様、不安や恐怖、ストレスを感じると、自律神経系のバランスが崩れて震えが起きることがあります。
例えば、雷や花火、車のクラクションなど日常で聞くことのない大きな音がした場合や、病院など苦手な場所に行く場合などです。
対処方法
恐怖心や警戒心、ストレスによる震えに対しては、その原因を取り除くことで気持ちが落ち着き震えが治る場合があります。しかし、元気や食欲がなくなったり、嘔吐や下痢のような震え以外の症状が出てくる場合には、早目に動物病院を受診しましょう。
予防としては、飼い主がその原因を避ける(お散歩コースを変更するなど)よう心がけたり、原因に慣れさせるトレーニングをすることが効果的です。
理由3「興奮による震え」
犬では恐怖や不安などのネガティブな感情の時だけではなく、嬉しいや楽しいなどのポジティブな感情の時にも震えが起きる場合があります。
例えば、飼い主さんが家に帰宅すると、犬が尻尾を振りながら興奮して吠えたり、身震いする様子が見られますよね?これは、ポジティブな感情が高まって興奮することにより、自律神経が乱れることが原因による震えです。
対処方法
興奮による震えに対しては、気持ちが落ち着くとほぼ治まるため、様子を見ても問題ありません。
理由4「加齢による筋力低下からの震え」
犬も年齢を重ねると、徐々に筋肉が落ちていき、その影響で踏ん張りがきかなくなり、小刻みに震えるようになります。
高齢犬が運動によって再びしっかりした筋肉を付けるのは難しいため、加齢による筋力低下による震えは仕方がないと理解しましょう。
対処方法
加齢による筋力低下からの震えはほとんど問題はありません。ただ、場合によってはケガをしないよう、排便時などの力む時には身体を支えるなどの介助が必要になることもあります。
理由5「飼い主さんにかまってほしくて震える」
非常にまれではありますが、飼い主さんの注目を浴びたかったり、かまってほしくて震える仕草をする犬もなかにはいるのです。
特に、学習能力の高い犬では、以前震えた時に飼い主さんが心配して、かまってくれた嬉しい経験を覚えており、「震えているとかまってもらえる」と学習することがあります。そのため、飼い主さんから注目を浴びたい時やかまってほしい時に、震える仕草をして飼い主さんの気をひこうとするのです。
対処方法
飼い主さんにかまってほしくて震えている場合は、犬が意識的にやっているため、飼い主さんが見ていないと思うと震えは止まります。
理由6「病気① 脳障害による震え」
てんかんや脳炎、脳腫瘍、水頭症のような脳自体に異常がある病気では、その軽い症状として、あるいは痙攣の前兆として、震えが見られることがあります。
対処方法
脳障害による震えに対しては、震えに続いて痙攣が起こる可能性があるため、犬が体をぶつけてケガをしないように、周囲をクッションのようなやわらかいもので囲ってあげるようにしましょう。そして、痙攣が落ち着いたら、速やかに動物病院を受診することが大切です。
理由7「病気② 代謝や排泄をする臓器の機能障害による震え」
体の中の老廃物を代謝・排泄する、肝臓や腎臓などの臓器がきちんと機能できなくなると、体に毒素が蓄積して、痙攣などの神経症状が起きます。震えは、そういった痙攣などの神経症状の前兆として見られることがあるのです。
代表的な病気としては、肝硬変や慢性腎臓病などが挙げられます。
対処方法
代謝や排泄をする臓器の機能障害による震えの場合には、早急に動物病院を受診するようにしましょう。
理由8「病気③ 中毒や低血糖による震え」
犬は、中毒や低血糖によっても震えが見られます。低血糖になる病気は、副腎皮質機能低下症や肝臓腫瘍、重度感染症、インスリノーマなどです。ただ、体の小さい子犬では、食欲不振や嘔吐、下痢が続いただけでも低血糖症を起こすおそれがあるため注意が必要です。また、成犬では、糖尿病で血糖値をコントロールするために、自宅でのインスリン注射を行っている場合に、インスリンの過剰投与などによって低血糖状態に陥るケースもあります。
対処方法
中毒による震えに対しては、家庭で対処できないため、一刻も早く動物病院を受診するようにしましょう。
低血糖が疑われる場合には、砂糖水を飲ませるなど、できるだけ早く糖分を与えるようにします。ただ、震えがある場合はうまく飲み込めないため、誤嚥してしまうおそれがあるので、歯茎に擦り込むなど工夫が必要です。家庭での応急処置が難しければ、無理に行わず、すぐに動物病院を受診するようにしましょう。
また、家庭での応急処置で震えが落ち着いたとしても、またすぐに低血糖状態に陥いる恐れがあります。そのため、震えが落ち着いても、必ず動物病院を受診することが重要です。
理由9「病気④ ホルモンバランスの崩れによる震え」
前述したように、高齢犬では筋肉量の減少による震えが見られることがありますが、ホルモンのバランスの崩れにより、甲状腺機能低下症、クッシング症候群(副腎皮質機能亢進症)といった病気になりやすく、これらの病気でも震えが症状として起こることがあります。
対処方法
ホルモンの病気からの震えであれば、薬で改善するかもしれません。そのため、高齢犬の震えでは、「年齢による筋肉量の低下だろう」と自己判断せずに、かかりつけの獣医師さんに一度相談するようにしましょう。
理由10「病気⑤ 痛みによる震え」
犬が痛みを感じていると、小刻みに震えることがあります。痛みが原因の場合は、動きたがらない、抱き上げようとするとキャンと鳴くといった症状が合わせて見られることが多い傾向です。
対処方法
痛みによって震えていると、どこが痛いのかを調べたくなるかもしれませんが、むやみに触ると防御反応から、飼い主さんであってもかみ付いてしまうおそれがあります。そのため、犬の体にあまり触れずに、キャリーに入れて動物病院を早目に受診をするようにしましょう。
病院に連れていくべき症状は?
症状1震えに加え、元気や食欲の低下、嘔吐や下痢などその他の症状が見られる
震えに加え、元気や食欲がなくなる、下痢や嘔吐など、犬に何らかの体調不良を示す症状がある場合には、病的な震えの可能性が高いため、早めに動物病院を受診したほうがいいでしょう。
また、最初に挙げた、「寒さ」、「恐怖心や警戒心、ストレス」、「加齢による筋力低下」、「飼い主さんに構ってほしいため」による震えは生理的な行動であり、ほぼ心配ありません。しかし、「恐怖心や警戒心、ストレス」による震えは、元気や食欲がなくなったり、嘔吐や下痢などの症状が現れることが時にあるため、そのような場合には動物病院を受診するようにしましょう。
症状2 震えが痙攣に進行したり、震えているときに呼びかけても聞こえていない様子が見られる
震えが痙攣に進行したり、震えているときに呼びかけても聞こえていない様子が見られる場合は、病気が原因になっていると強く疑われます。そのような場合には、早目に動物病院を受診するようにしましょう。
症状3体を動かしたがらなかったり、抱き上げとキャンと鳴く
このような症状がある場合には、体のどこかに痛みを感じて震えている可能性が高いです。また、痛みが強いと震えだけでなく、犬自身が体を動かさなくなります。そのような場合にも早目に動物病院を受診しましょう。
まとめ
犬が震えていたら、飼い主さんは気温が適切か、何か怖いことはないかなどを確認し、思い当たる場合は対処しましょう。
呼びかけたり、遊びに誘ったりした際に震えがピタッと止まり、再度起こらないようならばほとんど心配はありません。
震えには多くの原因があるため、気になることがあれば、震えている様子を動画で撮影し、かかりつけの獣医師に相談してみるといいでしょう。
Supervisor
西岡 優子 にしおか ゆうこ
獣医師。北里大学獣医学科卒業後、香川県の動物病院に就職。結婚を機に、都内の獣医師専門書籍出版社にて勤務。現在は、パート獣医として働く傍ら、犬・猫・小動物系のライターとして活動。ペット栄養管理士としても活躍中。