本記事は獣医師が執筆・監修を行っております。
羊肉の歴史は非常に古く、紀元前8000年頃にはすでに中東で羊の家畜化が始まり、羊肉は主要な食料として利用されていました。また、古代エジプトやメソポタミアでは羊肉は神聖な動物とされ、儀式や祭りで重要な役割を果たしていたということがわかっています。さらにローマ帝国時代や中世ヨーロッパでは羊肉は高級食材として扱われ、貴族や富裕層の間でとても人気があり、羊肉を使用した様々なレシピが生まれたともいわれています。
ラムは生後1年未満の子羊の肉、マトンは生後1年以上の成羊の肉となります。
ANSWER 羊肉は犬に食べさせても大丈夫です。
羊肉を使用した犬用のドックフードやジャーキーなどといった様々な商品が多数販売されていることからも、羊肉は犬に与えても大丈夫な食べ物となります。
ただ、基本的にはラムの方がマトンと比較すると、独特の臭みが少なく、肉自体の質も非常に良いといわれていることから、マトンよりもラムをメインに使用しているメーカーがほとんどとなるでしょう。

羊肉の主な成分や栄養素
タンパク質
臓器や血液、被毛、皮膚などといった体そのものになるだけではなく、酵素やホルモンなど体の機能を調節する役割を果たしているタンパク質ですが、ラムは必須アミノ酸がバランスよく配合された良質なタンパク源となります。
ビタミンB12
牛肉や豚肉に比べて羊肉には水溶性ビタミンであるビタミンB12の含有量が多くなっています。ビタミンB12には葉酸と協力して赤血球中のヘモグロビン生成を助けたり脳からの指令を伝える神経を正常に保ったりする役割もあり、認知症の予防効果が期待できるともいわれています。
カルニチン
脂肪を燃焼させることでダイエットに効果的、かつ心臓の病気を持っている犬や疲れやすい高齢犬のエネルギー源として補える効果があるカルニチンですが、ラムよりマトンの方が多く含んでおり、その含有量はマトンはラムの倍以上といわれています。また、他の肉類と比較すると牛肉の約3倍、豚肉の約9倍ものカルニチンを含んでいることから、ダイエット食材として注目を集めています。
鉄分
羊肉には牛肉の約2倍、豚肉の約2.9倍もの鉄分が含まれています。さらに羊肉に含まれる鉄分は「ヘム鉄」と呼ばれ、体内での吸収率が高いのが特徴のため貧血予防などの改善に役立つとされています。
羊肉を犬が食べた際の犬への効果・影響
羊肉は必須アミノ酸がバランス良く含まれている良質な動物性タンパク源であり、また犬の消化吸収にも適した食材のため消化器官に負担をかけにくいと考えられています。さらに他の肉類と比較してラム肉に含まれる脂肪は消化吸収がはじまる温度が40°Cと高いため、体に脂肪が吸収されにくいということができるでしょう。
犬に与えてよい羊肉の量は?
小型犬の場合 |
主食の材料の1つとして与えるならば150gまで おやつやトッピングとして与えるならば30gまで |
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中型犬の場合 |
主食の材料の1つとして与えるならば250gまで おやつやトッピングとして与えるならば50gまで |
大型犬の場合 |
主食の材料の1つとして与えるならば500gまで おやつやトッピングとして与えるならば100gまで |
子犬の場合 | ごく少量ずつ与える |
老犬の場合 | ごく少量ずつ与える |
犬に羊肉を与える際の注意点
羊肉のおすすめの与え方

生のまま与えることは避けるようにしましょう。
羊肉は他の肉類と比べて寄生虫や細菌の数が少ないといわれていますが、100%いないといい切ることはできません。また、健康な成犬ならば問題がなくても免疫力が弱い子犬や老犬の場合は、体調不良を引き起こす危険性があります。よって、生食は絶対にやめるようにしましょう。
アレルギー反応に要注意
羊肉は、最近まで犬に与える機会がなかったことからアレルゲンにはなりにくいと考えられてきました。しかしながら、最近ではドッグフードやおやつにも多く含まれているため、鶏肉や牛肉と同様に犬のアレルゲンになりやすいともいわれています。よって羊肉を初めて与えるときは飼い主さんが愛犬の様子をよく観察することができて、かつ動物病院が診療している時間帯を選ぶことをおすすめします。
また、初めてでなくても羊肉を与えた後に下痢や嘔吐、目の充血や皮膚をかくといった症状が見られた場合は与えるのをやめてすぐに動物病院を受診するようにしましょう。
骨付きのラムチョップは与えないようにしましょう。
生後12ヶ月未満の子羊の骨付きのロース肉を骨ごとにカットしたものをラムチョップといいますが、習性として多くの犬はあまり噛まずに飲み込む傾向が強いため、骨ごと与えてしまうと、喉につまらせたり腸閉塞を起こしたりする危険性があります。また、歯が弱い子犬や老犬の場合は骨を噛むことで歯が砕けたり折れたりしてしまうリスクも高いため、必ず肉を骨から外してから与えるようにしましょう。
与えすぎないように注意しましょう
栄養が豊富な羊肉ですが総合栄養食のドックフードとは異なり、羊肉のみで全ての必要な栄養素を摂り入れることはできません。しかし、羊肉は肉類の中でも犬の嗜好性がとても高いため、与えすぎてしまうとドックフードを食べなくなってしまう危険性があります。おやつやトッピングとして与える場合は特に必要カロリー量の10%程度にとどめるようにしましょう。
こんな時は犬に羊肉を食べさせないこと
鶏肉や牛肉と同様に羊肉も犬のアレルゲンになりやすいといわれているため、アレルギーを起こしやすい犬種の場合は与えないほうが安心でしょう。また、持病によっては羊肉に含まれている成分が悪化させてしまうリスクもあることから、何かしらの疾患がある犬の場合は、与える前に必ず獣医師に相談してください。

まとめ
羊肉は肉類の中でも良質なタンパク質源であり、また脂肪も吸収されにくくダイエット効果も期待できることから、愛犬が肥満でお悩みの場合は羊肉をメインとしているフードへの切り替えを検討してみても良いでしょう。
しかし与えすぎたりしてしまうと体調に悪影響を及ぼしてしまう場合もあるため、ぜひ今回紹介した与え方や注意点などを参考にしてくださいね。
Supervisor
松本 千聖 Chisato Matsumoto
岐阜大学応用生物科学部獣医学課程を卒業後、3年ほど獣医師として動物愛護団体付属動物病院やペットショップ付属動物病院にて主に一次診療業務、ペット保険会社では保険金査定業務などに従事しました。
現在は、製薬関係の業務に携わり、プライベートでは個人で保護猫活動並びに保護猫達の健康管理を行っています。
