犬の歯の種類と役割
犬は人と比べ、引き裂きや噛み砕きに適した、尖った形状の歯をしています。犬の歯には4種類あり、それぞれ役割があるのです。
ここでは、それぞれの特徴と役割について見ていきましょう。
01.犬歯
犬歯は、人の前歯にあたる切歯の隣に位置し、肉食の動物では特によく発達しています。
その役割は、食べ物に食いついて切り裂いたり、物をしっかりくわえたりなどで、形状は刃のように尖っているのが特徴です。
02.前臼歯(ぜんきゅうし)
臼歯は、人でいう「奥歯」のことを指し、前臼歯(小臼歯)と後臼歯(大臼歯)とに分けられます。
前臼歯はややせまい間隔で、でこぼこした列になっおり、このでこぼこが食べ物をしっかり噛み切る、切り取る役割をしています。
03.後臼歯(こうきゅうし)
後臼歯は、一番奥の部分に位置し、食べ物をすり潰し細かくして胃で消化しやすいようにする役割をしています。
後臼歯の形状は、臼状で平たい形をしているのが特徴です。
しかし、草食動物ほどは発達していません。
個体差もありますが、多くの犬はあまり咀嚼することなく、食べ物を丸呑みしているからです。
04.切歯(せっし)
切歯は、人でいう「前歯」のことを指し、食べ物を口に入れる前に噛み切る役割もありますが、物をかじったり、毛づくろいをするときにも使います。シャベルのような形をしているのが、切歯の特徴です。
犬の歯は何本?
子犬の場合(乳歯) | 上顎・下顎ともに切歯6本、犬歯2本、前臼6本、計28本 |
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成犬の場合(永久歯) | 切歯6本、犬歯2本、前臼歯8本、後臼歯4本、下顎は後臼歯が6本で、計42本 |
犬の歯が生え揃うまでの期間や生えてくる順番
犬も人と同様に、歯が乳歯から永久歯へと生え変わります。
生後間もない子犬にはまだ歯は生えておらず、だいたい生後3週目頃から徐々に乳歯が生え始め、しっかりと生えそろうのは生後2~3ヶ月頃です。この乳歯が生えそろう頃は、いろいろなモノに興味を持ち、何でもかんでも口に入れ、かじってみたくなり、甘噛みが多くなります。
そして、犬種や体格によって個体差はありますが、通常は生後3~4ケ月頃から乳歯から永久歯に生え変わり始め、生後6~7ヶ月頃にはすべての永久歯が生えそろうのです。
犬の歯が生える順番は乳歯、永久歯ともに同じで、下顎の切歯 、上顎の切歯 、下顎の前・後臼歯 、上顎の前・後臼歯 、下顎の犬歯 ⇒ 上顎の犬歯の順となっています。
犬の歯並びの正常な状態とは?
犬の歯並びが正常な状態かどうかは、犬種によって異なります。犬種によって正しい噛み合わせというものがあるのです。
シザーバイトとは?
シザーバイトとは鋏状咬合(はさみじょうこうごう)とも呼ばれる、犬で正常な噛み合わせです。
上歯の切歯の裏面に下額の切歯の表面がわずかに接し、下顎の犬歯の裏側に上顎の犬歯の表面が上手く組み合わさっています。
また、前後の臼歯も刃がギザギ剤なタイプのハサミのように、上下の凹凸がピッタリとはまっている状態です。
クロスバイトとは?
クロスバイトは、一部の歯並びに異常がある状態です。
クロスバイトには、下顎の切歯が前方に突き出る前方クロスバイトや、下顎の臼歯が舌側に傾く後方クロスバイト、下顎の犬歯が上顎の犬歯側に傾く犬歯クロスバイトといったタイプがあります。
オーバーレイ(オーバーショット)とは?
上顎の切歯が下顎の切歯より前に出すぎて触れ合わない噛み合わせのことです。人で例えると、いわゆる出歯(でっぱ)のような状態になっています。
アンダーバイト(オーバーショット)とは?
下の切歯が上の切歯より前に出すぎて触れ合わない噛み合わせの状態で、人で例えると、しゃくれている状態に似ています。パグやシーズーでは、この噛み合わせが一般的です。
ライバイトとは?
ライバイトとは、左右の歯のバランスが悪いまま成長した状態で、左と右でかみ合わせの高さが異なるため、顎が曲がって見えてしまいます。
小型犬に多い乳歯遺残(にゅうしいざん)とは?その場合の治療や必要なケアは?
乳歯遺残は、残った乳歯が邪魔をして、永久歯が正常な位置や向きに生えることができなくなり、不正咬合が起こります。
また、異常な生え方をした永久歯によって、歯と歯がぶつり摩耗してしまったり、歯肉や口唇に当たり痛みや炎症を引き起こしてしまう可能性もあるのです。
さらに、乳歯遺残では、歯が重なり合って生えているため、その部分に汚れが溜まりやすく、歯垢や歯石が付着しやすくなり、歯周病の原因となります。
そのため、乳歯遺残が認められた場合には全身麻酔下で、残った乳歯の抜歯を行います。
永久歯への生え変わりの完了時期が生後6~7ヶ月頃のため、避妊や去勢手術の際に一緒に抜歯をすることがオススメです。
デンタルケアをするときに歯の生え変わり具合を一緒にチェックすることができるよう、乳歯である子犬の頃からデンタルケアを習慣付けましょう。
欠損歯・埋伏歯とは?その場合の治療や必要なケアは?
欠歯とは、一部の歯が生えてこない、または早期に失われる状態です。欠歯の場合には、治療は通常必要ありません。
埋伏歯とは、歯が十分なスペースを確保できない場合や何らかの異常により、歯が歯肉の下に隠れてしまっている状態です。気づかない場合が多く、主にX線検査で発見されます。発見された場合、必要に応じて歯肉を切除したり埋伏歯を抜歯する処置が必要になることがあるのです。
犬の歯並びは遺伝?
乳歯から永久歯に生え変わる際に、一部の歯が異常な方向に生えてしまったり、上下の顎の長さが異なったりすると、歯並びが悪くなります。
この歯並びが悪い状態は不正咬合といい、遺伝もその原因の一つです。
遺伝による不正咬合の犬種には、ブルドッグやボクサーなどがいます。
このような犬種は、人の品種改良により不正咬合が生み出されたもので、不正咬合を持っているのが通常です。
犬の歯並びが悪い原因は?
歯並びが悪い(不正咬合の)原因は、遺伝だけでなく、前述した乳歯遺残や、外傷などがあります。
子犬の頃に、外傷により顎の骨折や脱臼などが起きると、左右の歯がバランス悪く生えてしまうことがあるのです。
犬の歯並びが悪いと健康にどんな影響があるの?寿命に影響するの?
歯並びが悪いと、口内炎や歯周病などの口腔内のトラブルを引き起こすリスクが高くなります。
特に、
そして、歯周病が進行すると、歯を支えている顎の骨がどんどん溶けてしまい、歯が抜け落ちたり、ひどい時には下顎が骨折する可能性もあります。
また、口腔内の細菌が血管に入り込み、他の臓器に運ばれることにより、心臓病や腎臓病の引き金になることもあるため、歯並びが悪いと寿命に影響すると考えられるのです。
犬は虫歯よりも歯周病になりやすい?
人は虫歯になりやすいですが、犬は虫歯にはなりにくく、歯周病になりやすいという特徴があります。
これは、人の口の中は弱酸性~中性(pH6.8〜7)なのに対し、犬の口はアルカリ性(pH8〜8.5)と大きな違いがあるからです。
この口の中の性質の違いにより、繫殖しやすい細菌が異なるため、酸性の人では虫歯菌が増殖しやすく、アルカリ性の犬では歯周病菌が増殖しやすくなっています。
加えて、この性質の違いは、歯周病の原因となる歯石が形成されるまでの速度にも大きく関わっており、歯に付着した歯垢が歯石になるまでの日数は、人で約25日間、犬で約3日間と8倍も違うのです。
また、犬の唾液には人の唾液に含まれている、アミラーゼというデンプンを糖に分解する酵素がほとんど含まれていません。このアミラーゼが含まれていないということは、虫歯菌の餌となる糖が口内に蓄積しにくいということです。
さらに、犬は人と比較すると、歯の形状が鋭利に尖っているため、虫歯菌が留まりにくいという特徴があります。これらの理由から、人は虫歯になりやすいのに対し、犬は歯周病になりやすいと言えるのです。
犬の口腔ケアのポイント
口腔ケアの最大のポイントは、歯垢や歯石を付着させないことです。
歯垢や歯石の付着を予防する効果を持つフードや、おやつ、おもちゃなどもありますが、歯ブラシを使った歯磨きが最も効果が高いため、毎日歯を磨いてあげるようにしましょう。
以下のステップで、子犬の頃から口腔ケアをし、嫌がらずに歯磨きをさせてくれるように習慣付けることが大切です。
ステップ 1
まずは、口の周りを触ることに慣れさせましょう。触られても嫌がらないように毎日少しずつ時間を増やして徐々に慣れさせていきましょう。
口の周りを触られることに慣れてきたら、時々唇に触れます。
そして、犬が安心して触らせてくれるようなら唇をめくって、切歯や犬歯にそっと触れます。
ステップ 2
ステップ1がクリアできたら、指ブラシ(もしくは指にデンタルガーゼを巻いたもの)に歯磨きペーストを少量付けて、味見をさせてあげましょう。
ステップ 3
指ブラシに慣れてきたら、切歯や犬歯に触れ、嫌がる様子がなければ、ほっぺたに沿って少しずつ奥の方まで指を入れてみます。
口の中に指を入れても嫌がらなくなったら、小さいサイズの犬用の歯ブラシを使ってみましょう。
ステップ 4
歯ブラシに慣れたら、本格的に歯磨きをしてみましょう。まずは、切歯と犬歯から歯と歯肉をマッサージするように磨き、奥歯、歯の裏と進めていきましょう。
嫌がっているのに無理やり歯磨きをしてしまうと、歯ブラシを見ると逃げてしまったり、歯を触らせてくれなくなってしまうこともあります。
ですので、その子その子に合わせて、根気強くゆっくりと慣れさせていきましょう。