東京農業大学教授の増田先生と一緒にお届けする、ワンコともっと良い関係を築くためのヒント。ワンコから見えるモノゴト、ワンコの考え方、感じ方など、ワンコたちに見えている世界を私たちにも見せてくれる増田先生シリーズ「ワンコno世界」。
犬の吠えは時に飼い主さんの頭を悩ませる問題行動にも繋がりますが、犬にとっては大切な感情表現の一つです。ほとんどの犬は何か理由があって吠えていますが、それは一体どんな理由でどんな気持ちなのでしょうか?今回はそんな犬の吠えについて増田先生に伺ってみました。愛犬が吠える理由を理解して愛犬との生活をよりよいものにしていきましょう。
Advisor
増田 宏司教授
東京農業大学 農学部 動物科学科 教授。東京大学大学院を修了後、同大学院で学術研究支援員を務め、2006年から東京農業大学で研究と学生への指導を行う。研究だけでなく、飼い主向けのカウンセリングやワンコのしつけに使えるグッズの開発など、ワンコと飼い主が幸せに暮らせる社会を築くため、幅広く取り組んでいる。
子犬の夜泣きは無視したほうがいいとよく聞きます。かわいそうだと感じてしまいますが、どうしたらいいのでしょうか?昼間は大人しかったのに、どうして夜になると鳴いてしまうのでしょうか?
子犬が夜に吠えてしまう理由はたくさんあります。例えば、昼寝が長すぎたため眠くない、寝床が気に入らない、お腹がすいた、運動不足、ストレス、寂しい、かまってほしいなどです。また、不審者がいる、いつもと様子が違うなど、その他の理由でも夜に犬は吠えますし、健康上の不具合が理由で吠えることもあります。
このうち、子犬が夜に吠えることへの対処として、無視することが有効に働くのは、犬が「構ってほしい/寂しい」時だけ、とお考えになったほうが良いようです。
子犬の夜泣きを何とかする、というよりも、むしろこの時期は、まったりと過ごすことの練習を、昼間から夜にかけて実践する時期、と考えてみてはいかがでしょうか。
方法は、使い古した飼い主さんの服などで安心できる寝床を作り、暗くした部屋でやさしく見守る、夜には出来るだけ昼間と同じ状況にするために、テレビやラジオなどを小さい音で流しっぱなしにするなど、さまざまです。
おもちゃで遊んでいる時に低い声でウーと唸り出すことがあります。楽しそうに遊んでいるのに怒っているのでしょうか?
これはズバリ、興奮している状況です。おもちゃを咥えて、ぶんぶん振り回している時や、ロープ状のおもちゃで引っ張りっこをしている時に、気持ちがついついエスカレートしすぎてしまって唸っていることが多いのではないでしょうか。
いわゆる「血が騒ぐ」状況で、動く獲物に噛みつきたい気分なのでしょう。ここで気をつけるべきは、例えば引っ張りっこの最中に犬が唸った瞬間に、飼い主さんがおもちゃを犬に譲歩しない(取られない)ことですが、むしろ、そうなる(犬が唸る)前の段階で、いったん遊びをやめる/オモチャとは違うもの(オヤツなど)に注意をそらしてスワレ・マテ等の命令を出す、などでクールダウンして、落ち着かせてから遊びを再開する、を繰り返すことが重要です。
そうすれば、楽しいことのきっかけは飼い主さんのタイミングで起きることを犬が学んでくれることが期待できます。またこの時のコツは、犬が飽きる前に遊びをやめることです。
玄関のインターフォンや通りすがりの人、バイクや救急車など、特定の物や人に吠えます。いつも同じ物に吠えるのには理由があるのでしょうか?
よくある光景ですね。通りすがりの人たちにとっては、ただ家の前を通っているだけ、用事が済んだら次の場所に行くだけ、なのですが、犬にとっては「我が家に突然やってくる脅威」以外の何者でもないのでしょう。
それらに対して、最初は確かに、不安や警戒から吠えていたのでしょう。しかしながらそれを繰り返すうちに、「どうやらアイツらに吠えれば、追い返すことが出来るぞ!スゴイ俺!怖いものなし!!」と、自分の強さに気づいてしまった「気」になっているのでしょう。
この、警戒/無駄吠えへの対処は、犬が見ている目の前でインターフォンを鳴らして、何も起きないことを再学習させる、インターフォンの音に続いて大好きな飼い主さんや顔なじみの人が穏やかに家の中に入ってくることを経験させる、などですが、一度覚えて定着してしまったクセを取り除くのは、なかなかに時間がかかりますので、気長に、諦めずに続けていただきたいと思います。
老犬になると吠えなくなるのは何故ですか?
老犬期に吠えなくなる理由として一般的に言われていることは、聴力や身体機能の衰えなど、さまざまな症状によって、吠える対象や状況に気づけなくなっている、気づいたとしても、思うように反応できなくなっている、周囲に対する興味や関心が薄れていて反応する意欲がない、などとされています。
なんだか寂しくなる理由ばかりですが、私はこれらの他にも吠えなくなった理由はあると思います。
その理由とは「あなたとあなたの愛犬が築き上げてきた歴史が、吠えなくても済む日常を作りあげた」です。きっと、長い時間をかけて、あなたが愛犬のために「吠えなくても済む居心地」を用意してくれたから、あなたの愛犬は「もう吠えなくても大丈夫」と安心していられるのでしょう。
若い頃のように愛犬が吠えないからと言って、それは決して、物足りないでもない、寂しいでもない、むしろ愛に満ち溢れた、ゆっくりとした時間が流れている状況に違いないのです。