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先日、「『犬の十戒』の冊子を院内に置いて、ワンコを飼い始めた方に読んでいただきたい」という連絡をいただきました。
その連絡をくれたのが、千葉県船橋市にある坪井どうぶつ病院だったのです。
動物病院から『犬の十戒』に関する問い合わせをいただいたのは初めてだったので、興味が湧き、さっそく院長の芝田守孝先生とお話ししました。
そこで知ったのは、先生が保護犬を迎えたこと。
そして、リハビリ専門医として、ワンコや飼い主さんの支えになっていること。
リハビリをメインに活動されている獣医師さんだからこその知識や経験をたくさんお持ちであろうと感じ、nowaチームへの参加を依頼しました。
「ぜひ」と受けてくださった芝田先生に、獣医師として大切にしていることを伺いました。
芝田先生が獣医師を目指し始めたのは、いつ頃からですか?
父が動物好きな人で、柴犬を飼っていたり、インコや昆虫が家にいたりして、ずっと動物に囲まれて育ったんです。だからか、いずれは獣医師になるんだ、なれるものだと思っていました。
幼い頃から、獣医師ひと筋だったんですね。
ペットショップなどの選択肢もあったと思うのですが、獣医師になるもんだと思ってました。とはいっても、大学はなかなか受からなかったんですけどね(笑)
大学で動物の勉強をしている間に、大動物と小動物、どちらを専門にするか考えたんですが、やはりワンコに関わりたいと思って、小動物にしました。当時は外科を専攻していて、寝ずに手術するようなこともあったり。
もともとは外科がメインだったのですね。
そうなんです。大学を卒業して最初に勤めた動物病院はほとんど手術がなかったんですが、2つ目の動物病院は年間1500件くらい手術があって、そのほとんどを私が担当していました。1日5~6件は入っていたと思います。
手術がメインだったところから、リハビリ専門医になるに至ったのは、なぜなのでしょう?
当時診ていた近所のワンちゃんが椎間板ヘルニアで、歩けなくなってしまったんです。最初の手術の後は3~4カ月歩けたんですが、椎間板ヘルニアが再発して、二度目の手術の後は歩けなくて。毎日のように通院してもらっているのに進展がないどころか、筋肉が落ちていってしまう中で、手術以外にできることはないかなって考えて、たどりついたのが鍼やマッサージ、カイロプラクティックなどでのリハビリでした。
手術って、執刀医の自分だけでなく、麻酔をかける先生や助手の看護師さんがいないとできないんですよね。もし、私が1人になったら何ができるだろうと考えた時に、手術はほかの先生に任せて、リハビリをしようと思ったのもきっかけのひとつでした。
ただ、当時はペットの鍼治療やマッサージを教えてくれる先生がいなかったので、人間の鍼灸の学校の授業に入れてもらったんです。
人間の学校で学ばれたのですね。もともと東洋医学は身近なものだったのですか?
私自身、風邪をひいた時に、薬を飲むよりも葛根湯などを飲んだほうが効いたんです。その経験から、漢方って面白いなという認識はありました。
東洋医学に触れていたんですね。ちなみに、きっかけとなった椎間板ヘルニアの子は改善しましたか?
鍼で治ることはなかったですが、ある程度は良くなっていきましたね。その経験で、手術以外にもできることがあるという自信がついたので、ほかのワンコに対しても鍼やマッサージという選択肢を提案できるようになりました。
ただ、当時勤めていた病院は手術が中心だったので、「鍼治療よりも手術をして」という雰囲気があったんです。だから、東京の多摩市で東洋医学を取り入れている病院に移りました。そこで自然療法のホメオパシーやホモトキシコロジーの勉強も始めて、選択肢を広げていったんです。
多摩市とは、縁があったのですか?
いや、多摩市に行ったのは偶然ですね。そこの病院の院長が東洋医学を取り入れていたので、私も入らせてもらって、後に院長を継いでしばらく働いていました。実は、nowaチームの向後亜希先生も、その病院で一緒に働いていたんですよ。
つながりがあったとは、知りませんでした!?
そうなんです。多摩市の病院で働いた後、私は地元の船橋で今の病院を開業しました。
思いがけない接点に驚きました。話は戻りますが、東洋医学で治療したワンコの中で、特に印象に残っている子はいますか?
多摩の病院にいる頃、盲導犬を引退したラブラドールレトリーバーを診ていたんです。その子は椎間板ヘルニアで歩けなくなっていて、いつもリヤカーに乗って通院していました。鍼治療をしても2回目までは変化がなかったのですが、3回目の治療の1週間後に病院に来た時に、よちよち歩いていたんです。『高齢だから歩くのは難しいかもね』なんて話していたので、びっくりしました。
ほかの子たちの飼い主さんからも、『鍼をしてから、みるみるうちに歩けるようになった』という話はよく聞くので、鍼にはワンコを治す力があるんだって、私の励みにもなっています。
ワンコを診療する際に、大切にしていることはありますか?
その子にとって何が大切か、考えています。例えば、薬を飲むのを嫌がるワンコがいたとして、治療のためとはいえ、何錠も薬を処方するのはいいことなのか。その子が苦しまない方法で、最善の治療ができたらいいなと思います。
だから、さまざまな選択肢を提案し、ワンコができること、飼い主さんも無理せずに続けられることを見つけていきたいです。ちゃんと検査、手術をしたいということであれば、ほかの動物病院を紹介しますし、リハビリが必要になったら戻ってきてもらうこともあります。
ワンコのことを第一に考えて、柔軟に対応されているのですね。その選択肢のひとつに、東洋医学があると。
私は西洋医学と東洋医学の融和を目指していて、手術で治るならそれが一番だと思っています。ただ、手術をしても改善しない子や、年齢や体調によって手術ができない子もいるので、別の方法で何かできないかと思い、東洋医学を取り入れました。人間にも病院とは別に整骨院があるように、ペットにとっての整骨院のような存在になるのもいいのかなと思っています。
最期の瞬間は避けられるものではないからこそ、入院して点滴につながれるのではなく、できるだけ元気に動ける状態で生き、おうちで看取る手助けをしていきたいと思って活動しています。
獣医師さんにそこまで考えていただけると、安心感があります。坪井どうぶつ病院では、保護犬の取り組みもされていると伺いましたが。
保護犬活動をしている動物愛護団体に少しばかりの支援をしたり、産まれた仔猫の譲渡先を探したりしています。病院で飼っているミニチュアダックスフンドのすいちゃんも、動物愛護団体から譲渡していただいた子なんですよ。
スタッフの女性がもともと飼っていたワンコが椎間板ヘルニアで、鍼治療をして、亡くなるまで歩いていたんです。その子が亡くなった時に、「次は保護犬を迎えよう」という話になり、探して出会ったのがすいちゃんでした。この子も椎間板ヘルニアで、迎えた頃はしっぽが持ち上がらなかったんですが、鍼治療をして、今はしっぽをぶんぶん上げるようになりました。
最初から元気だったわけではないのですね。
なくなった筋肉は戻せないので、今も後ろ脚は力が入らないんですけどね。でも、ワンコってリハビリの間も愚痴を吐かず、前向きでめげない子が多いので、お手伝いしてあげたいって気持ちになるんですよ。できることなら治してあげたいから、この子たちのために何ができるのか、今も模索しているところです。
nowaチームに入っていただくきっかけとなった『犬の十戒』は、どのような経緯で病院に置くことになったのでしょう?
先ほど話した女性スタッフが初めて愛犬を連れていった動物病院に、『犬の十戒』が掲示されていたそうなんです。ワンコを迎えたばかりの彼女は、涙が出てきたと話していました。
最近『犬の十戒』が話題になったことで、当時のことを思い出し、「病院にも置きたい」と申し出てくれたんです。私も多くの飼い主さんに知ってもらいたい内容だと感じたので、冊子のようなものがないかと探したところ、「ワンコnowa」を見つけて、ご連絡しました。病院にはこれからワンコを迎える飼い主さんも来るので、そういう方にも見ていただきたいですね。
そう言っていただけると、私たちも冊子を作って良かったと感じます。最後になりますが、今後広げていきたい輪はありますか?
まだ東洋医学はマイナーな分野だと思われていて、獣医師が必ず勉強する学問ではありません。だからこそ、まずは獣医師の方々に効果を知ってもらい、理解を深めてもらいたい。そうなることで、手術をしても改善しないという時に、『東洋医学を用いているリハビリ専門の病院に相談してみましょう』と、連携を取れると思うんです。
私は獣医師同士の輪を作りたいので、ほかの先生からリハビリの専門医として紹介していただいた際には、リハビリに徹し、ワクチン接種などはもともとの先生にお願いするようにしています。獣医師同士の信頼がなければ、ネットワークは作れないと思うので。
それぞれの担当分野を明確にすることで、獣医師同士が支え合えるということですね。
そうですね。連携先が増えていくと、互いに手術やリハビリをお願いしやすくなりますし、助けられるワンコや飼い主さんが増えると思います。だから、獣医師同士の輪を強くしていきたいですね。
芝田守孝 院長
坪井どうぶつ病院院長、獣医師。日本大学生物資源科学部獣医学科卒業後、獣医師として働く中で、動物が本来持つ自然治癒力を活性化させることで負荷を軽くしながら治癒できないかと考え、2006年頃から東洋医学やリハビリを専門的に学び、実践。特に鍼治療に関しては、多い時で年間約600〜700件近くの治療実績を持つ。