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「人やペットを救えるのは人」
防災は特別なことではなく、今日からできることなんです

大出さんとnowa

nowaチームの平端弘美さんが「興味深い活動をされている方がいるんですよ」と、紹介してくれたのが大出智恵美さんでした。
大出さんは「ペット災害危機管理士®」という資格を持ち、日々さまざまな場所に出向いて、“ペット防災”をテーマに講演やセミナーを行っています。
毎年のように地震や水害といった大規模災害が起こる日本において、人だけでなくペットの避難や防災も重要な課題。
そんな状況を危惧していたnowa編集部としても、ぜひ一緒に情報を発信していきたいと思い、ご連絡したところ、快くnowaチームへの参加を受けてくださいました。
実際にお会いしてみると、ポジティブな雰囲気を放つ方で、一緒にいるだけで元気をもらえるようでした。

Interview

#01ペット防災のこと

まずは、大出さんが取得している「ペット災害危機管理士®」について、教えていただけますか?

ペット災害危機管理士®は、災害に関する基礎知識やペットを災害から守る方法、一緒に避難する際のマナーなどを学び、避難や避難所での生活をサポートできる人材を育成するための資格で、環境省が策定した「人とペットの災害対策ガイドライン」に沿って構築されています。
阪神大震災、東日本大震災といった大きな災害の経験を踏まえて、2015年2月に創設された資格なんです。SAE(一般社団法人 全日本動物専門教育協会)の理事が東日本大震災の後、地域の防災について調べたところ、ペットに関する災害対策が決まっていないことに驚いたそうです。理事のご家庭にもワンちゃんがいて、飼い主がペットを守らなければいけないと感じたことがきっかけで、この資格をつくったと聞いています。

災害のことだけでなく、マナーも学んでいくのですね。

避難時のマナーも重要ですが、平時から排泄物を処理する、ワクチン接種をするといったペットを飼ううえでのマナーを守ることこそが大切なんです。ペットと一緒に避難できたとしても、避難所にはペットを飼っていない方、動物が苦手な方もいるので、マナーを守っていないと受け入れてもらいにくいんですよね。

普段からの心がけが重要なんですね。お話を聞いていると、災害対応のプロを養成する資格ではなく、飼い主としての知識と意欲を高める資格という印象です。

その通りです。4級から1級まであって、2級、1級になると講師として活動する道も出てくるのですが、基本的にはペットを守る飼い主力を育む資格です。
防災に関して、「自助・共助・公助」という言葉を聞いたことがあるかもしれませんが、ペットに関しては「自助」で守ってほしいのです。災害時にワンちゃんやネコちゃんを直接守れるのは、獣医師さんでも自治体でもなく、飼い主さんしかいないので、災害に関する知識を身に付けておくと安心だと思います。

誰かが守ってくれるわけではないですもんね。ちなみに、大出さんは「防災士」の資格も持っているそうですね。

はい、防災士は人の防災に関する資格です。ペットだけに特化すると、人の防災がおろそかになってしまう気がしたので、防災士の資格も取って、飼い主さんの支援という視点も持つようにしました。
私自身が災害時に現場に赴いて救助活動をできるわけではないので、防災士やペット災害危機管理士®のネットワークを使い、被災地にペットフードや必要なグッズを送るといった支援などを行っています。平時は、一般の飼い主さんや行政・自治体の方々、獣医師をはじめとしたペットにかかわる仕事の方々に、防災の知識などを伝えています。

#02きっかけ

ワンちゃんやネコちゃんとの関わりは、いつ頃からあったのですか?

幼い頃から近所にワンちゃんがいましたし、実家でもずっとワンちゃんを飼っていましたね。自分の意思で初めてペットを迎えたのは、小学3年生の時。その時に迎えたネコちゃんは、結局親に世話をしてもらっていたのですが、きちんと自分で飼い始めたのは20代の頃ですね。
当時は動物に関する知識がなかったので、病気になった際にどうしたらいいかわからず、動物病院に連れていった夜に亡くなってしまったことがあって。その時に、もっと知識があれば助けられたかもしれないと思って、愛玩動物飼養管理士という資格を取りました。

そこから、ペット災害危機管理士®の資格を取るに至ったきっかけは?

やはり東日本大震災が大きいですね。私は千葉にいたのですが、家が大きく揺れた際に、飼っていたワンちゃんネコちゃんをどう守ったらいいんだろうと思ったんです。また、自然災害が増えていく中で、「ペットを連れて避難所に行ったけど、断られた」という話を頻繁に聞くようになって、何かできることはないかと思った時に、ペット災害危機管理士®を知ったんです。
4級から順に取得していって、1級の講座で気仙沼を訪ねた後の2016年10月に鳥取中部地震が発生しました。私は被災状況を知るために現地に赴いたのですが、そのタイミングでペットイベントが開催されていたんです。イベント担当の県庁の方にペット災害危機管理士®の話をしたら、私が登壇することになって。

飛び入りだったんですか!?

そうなんです(笑)。私も驚きましたが、気仙沼で感じたことや4級、3級の講座で学んだことをお話したら、聞いてくださった飼い主さんや獣医師さん、県庁の方が「わかりやすいお話で、勉強になりました」とおっしゃってくださいました。この鳥取での経験を機に、知識やノウハウを伝えていく活動を始めたんです。
今は千葉県の防災士連絡会に所属してペット部会長を務めたり、ワンコと散歩しながら防犯・防災の観点で街を見守る「ワンワンパトロール」を行ったり、ペットと防災に関するさまざまな活動を進めています。

すごいバイタリティですよね。早くからペット防災の活動を始められて、世の中の意識も変わってきたと感じますか?

ペット災害危機管理士®の資格を取った頃は、「ペット防災って何?」と言われていましたが、最近はさまざまな団体や企業がペット防災に力を入れ始めていますね。東日本大震災の時は「ペットを家に置いて避難してください」と言われていましたが、今は環境省が「ペットも避難所まで一緒に連れていってください」と伝えています。
防災に答えはないので、どの対応が正解ともいえませんが、少しずつペットも守れる社会になってきているのではないかと感じています。

#03飼い主さんに伝えたいこと

愛犬を災害から守るため、飼い主さんが日頃からできることはありますか?

避難所に連れていくためには、平時からどのように過ごしたらいいか、考えてみてほしいと思います。例えば、ワンちゃんであればワクチン接種や寄生虫の駆除をしておくことで、避難所で受け入れてもらいやすくなります。
いざ避難しようとしても、キャリーケース(中型犬以上の場合はクレート等)に入ってくれないとなると難しいですよね。そうならないためにも、日頃からキャリーケースやクレートに入れるトレーニングをしておくといいでしょう。入れたら好きなおやつをあげたり、楽しい場所に連れていってあげたり、ワンちゃんが楽しめる工夫をするとトレーニングしやすくなります。

防災といっても、普段の生活の延長のようなイメージでいいんですね。

おっしゃる通りです。散歩をする時も、近所の避難所まで行ってみる。その途中にある電柱や木造の家が倒壊したら道が塞がれると感じたら、別のルートも通ってみるなど、日常のついでに考えてみると、防災が身近になると思います。
ほかにも、かかりつけの動物病院が被災してしまうことを想定して、別の動物病院を探しておいたり、愛犬と一緒に撮った写真をスマートフォンなどに入れておいて、はぐれてしまった場合に飼い主であることを証明できるようにしておいたり、できることはたくさんあります。

なるほど、災害時を想定すると、準備しておくことはたくさん出てきそうですね。ペットフードなども備蓄もしておいた方がいいですか?

ワンちゃんが普段食べているフードや飲み水の備蓄は大切です。1カ月分くらいの備えがあると安心。避難所に行っても、ペットフードの用意はないと考えておいた方がいいでしょう。ペット用の避難ジャケットなどのグッズも、玄関や取り出しやすい場所に備えておきましょう。
自治体が発行しているハザードマップを確認し、災害の危険性や避難所の場所を家族で共有しておくことも大切です。ワンちゃんを多頭飼いしている家庭では、家族の誰がどの子を避難所に連れていくか役割分担しておくと、緊急時にスムーズに動けるでしょう。

今日からできることばかりですね。

そうなんです。防災は特別なことではなく、今すぐできることなので、いざという時のために備えてほしいですね。
また、地域のコミュニティを形成することも、ペット防災においては大切。散歩の時に隣近所の方に挨拶するだけでも、「あの家はワンちゃんを飼ってるんだ」と知ってもらうことができて、ワンちゃんが留守番している間に災害が発生した際にレスキューを呼んでもらえるかもしれません。人やペットを救うのは、人なんですよね。

地域のつながりがあると、緊急時にも連携が取れて、安心感が生まれそうですよね。

#04これからのこと

これからしていきたいことはありますか?

私自身は呼ばれたら全国どこにでも赴いて、防災やペットのことでできることがあれば協力したいと思っています。そして、同じようにペット災害危機管理士®、防災士の資格を取得した方には、自分自身やペットを守るだけでなく、すぐ近くにいる方にその知識を伝えてほしいです。
一人ずつ伝えていくだけでも輪が広がり、住んでいる地域、ひいては日本全国どこにいても安心できる体制が整えられていくと思っています。和気あいあいとした体制ができて、連携が取れていけば、特別な避難所を設けなくても人やペットを守れるんじゃないかなって。

人と人がつながり、知識が共有されていけば、ペットを受け入れる環境も整っていきそうですよね。

そうなんですよ。飼い主さん一人では難しくても、地域の方や自治体の方、獣医師さん、ボランティアさんがいて、手と手をつないでいけば難しいことではないと思うんですよね。
そのためには、さまざまな災害での教訓を伝えていくことも、忘れてはいけないと感じています。平和になると過去のことを忘れてしまうものなので、経験や教訓を伝えて思い出してもらう活動を続けていかないとなって。

大出さんは、まさに“伝えていく”活動を行われていますよね。

情報収集に熱心な方には届いている実感があるのですが、まだ多くの飼い主さんには届いていないと思うので、どう伝えていくかが今の課題ですね。
それこそ私一人では限界があるので、ペット災害危機管理士®会や防災士連絡会、行政、自治体の方々に協力してもらい、多くの方の意見を参考にしながら、伝え方を模索していけたらと思っています。

Profile

大出 智恵美 さん

ペット災害危機管理士会 東日本支部長、愛玩動物救命士、防災士。幼い頃から動物と触れ合って育ち、2011年の東日本大震災を機に「ペットを守るために、飼い主さんに防災の知識を広めたい」という思いを抱く。現在は自治体や動物病院の獣医師・スタッフと協力し、防災グッズから日頃のしつけ、地域との交流などの具体的な対策を中心に、全国各地で人とペット防災について講演を行っている。福島大学さすけなぶるファシリテーターとして、避難所運営、防災教育も行っている。

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