セツサチアキ(犬と暮らすイラストレーター)|ワンコが私に与えてくれた喜びや人との接点、大切な経験をこれからもつないでいきたい
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「ドッグトレーナーと呼ばれる人の中で、僕が自信を持って紹介できるのは彼だけですね」
こう話してくれたワンコnowaチームの藤間友樹先生が紹介してくれたのが、西岡裕記さんでした。
nowa編集部が初めて西岡さんにお会いしたのは、記事の撮影のお手伝いをしていただいた時。
ドッグトレーナーというから厳しい人かと思いきや、遠くから大勢のワンコを連れてくる姿はとても楽しそうで、スタッフ一同「ワンコが大好きな方なんだな」と悟りました。
同時に、西岡さんのようにワンコたちと自然体で触れ合える飼い主でいたいと思ったのです。
そのヒントを教えてもらいたい!そう感じさせてくれる出会いでした。
西岡さんは、ドッグトレーナーになられてどのくらいですか?
20歳で動物の専門学校を卒業して、トレーナーとして働き始めてから、20年くらいが経ちます。間にトリマーやペット用品のショップの運営などもしながら、続けてきました。
20年前というと、ドッグトレーナーは少なかったのでは?
メジャーな仕事ではなかったし、当時は訓練士という呼び方が主流だったと思います。僕は高校生の頃から動物に携わる仕事がしたくて、職業本で調べてみると、獣医やトリマー、動物看護士に並んで訓練士・ドッグトレーナーがあったんです。
我が家では、僕が物心つく前からワンコを飼っていて、一緒に散歩に行ったり外で遊んだりすることが普通だったんですね。そのなかで、名前を呼んだら戻ってくるとか、ごはんの時にお座りさせるとか、生活する上で大切なことを日頃からワンコに教えていて、これが仕事にできたらいいなと思ってドッグトレーナーを目指し始めました。
物心つく前からということは、ご両親もワンちゃん好きだったのですか?
そうですね。特に父は、どんなワンコとも触れ合える人なんですよ。ちょっと凶暴で近寄りがたい大型犬も、父なら触れたり。テクニックではなくて、ワンコを安心させるオーラがあるんです。僕は引き継いでなさそうですけど(笑)。
お父さんの姿を見て、影響された部分もありそうですよね。
どんなワンコとも触れ合えるようになりたい、という思いはあったかもしれないです。実家で飼っていた歴代のワンコたちの影響も大きいです。ゴールデンレトリーバーが病気がちだったことで、病気について調べるようになったし、シェットランドシープドッグは僕のいうことを聞いてくれる頭のいい子で、トレーナーという将来を真剣に考えるきっかけになりました。
小学生の頃に飼っていたスピッツは、フィラリアに感染して危険な状態だったんです。ある日、僕が小学校から帰ってきた時は元気だったんですが、少し目を離した数分の間に息を引き取ってしまって、母が「裕記を待っとってくれたんやね」って言ってくれたことを覚えています。ワンコが自分より先に死んでしまうことも、自然と受け入れるようになりました。
子どもの頃の経験が、今の西岡さんを形成しているんですね。
西岡さんのトレーニングは、どのようなスタイルですか?
若い頃は「ドッグトレーナーはこうあるべき」って考えが強かったんですが、最近は「なんでもいい」ってなってきています。ワンコと飼い主さんが互いにストレスなく幸せに暮らせているなら、お手ができなくてもいいんじゃないかなと。周りに迷惑をかけないという最低限のことを守れていたら、多少やんちゃでもいいと思うんです。
いろいろなトレーニング法を経験してきたことで、ワンコや飼い主さんによって合う方法が異なることを知りました。だから、僕自身にこだわりはないんです。飼い主さんの考えに沿いながら、ワンコの個性に合うトレーニングを提案していきたいと思っています。
ワンコも飼い主さんも、好みや考え方は違いますよね。
そうなんです。ただ、1つだけ言えることは、自然の中で遊びまわってるワンコは大抵いい子。仕事で忙しくてワンコを留守番させることが多く、散歩もなかなか行けない家庭ほど、ワンコの問題行動が深刻化しているケースが多いといえます。ワンコの遊びたい欲求を満たせていないんですよね。
小型犬でも、運動量が多い子はたくさんいます。好きなだけ散歩させたり、ドッグランに連れていったりする時間を作ってあげると、ワンコも落ち着いてくるはずです。僕も飼い主さんとワンコたちと一緒に駒沢公園を歩いたり、海に行って遊んだりするイベントを開催しています。今後も、皆さんが参加しやすい企画を届けていきたいですね。
イベントで経験すると、普段の生活にも取り入れやすくなりそうですよね。普段から飼い主さんに伝えていることはありますか?
ワンコも感情がある生き物なので、なるべく感情を理解してあげてほしい、ということですね。例えば、ワンコが吠えていたら、なぜか考えてみる。心理的なストレスが原因かもしれないし、病気の前兆の可能性もあります。ワンコは話せないので、飼い主さんが寄り添ってあげてほしいです。
気持ちに寄り添うことで、関係性も良好になっていくということでしょうか?
そうですね。ワンコが何を必要としているか理解することで、満たしてあげることができます。その結果、問題行動は減り、穏やかに過ごせるんです。忙しくて散歩に連れていってあげられないなら、ペットシッターやドッグウォーカーを頼るのも1つの方法ですよ。
ドッグトレーナーの役割は、どこにあると考えていますか?
ワンコの気持ちを理解して、飼い主さんに伝えることだと考えています。また、ワンコとの関係で深刻な悩みを抱えている飼い主さんもいるので、互いにストレスのない生活の進め方を提案し、助けや支えになれる存在でもありたいと思っています。
ワンコだけでなく、飼い主さんとのコミュニケーションも重要になりそうですね。
トレーナーを始めてわかったことですが、ワンコの幸せを考えるうえで、飼い主さんとの接し方は重要なんですよね。ワンコと同じで、人も頭ごなしに叱るのではなく、考えを聞いて歩み寄ることが大事。問題や悩みを乗り越えると飼い主さんは笑顔になるし、ワンコも表情が変わるんです。その姿を見るのが、この仕事の醍醐味です。
その変化はうれしいですよね。西岡さんがホームページで書いている「普通の愛犬家に近いトレーナーでいたい」という思いも、影響していそうですね。
飼い主は親バカであるべきだと思ってるし、僕もそうなんですよね。「ドッグトレーナーは厳しい」と思っている人もいますが、僕もいち飼い主として「うちの子が一番」って話をして、同じなんだなって感じてもらいたいです。
今日一緒に来てくれたマルくん、ウナギくんは自慢の子なんですね。
はい!トレーニングのためにうちでワンコを預かることも多いんですが、マルやウナギがやんちゃな子のいたずらを止めてくれたりするんですよ。
マルとウナギには苦労をさせている分、週1回は必ずドッグランや海に連れていって、思いっきり遊ばせています。楽しく幸せに過ごしてほしいので。仕事終わりに庭でビールを飲みながらこの子たちとまったりする時間は、僕にとってのご褒美ですね。
ドッグトレーナーとして、今抱いている目標は?
飼い主さんと一緒にイキイキしているワンコの姿を見ていきたいな、と思っています。この間、イベントで海に行った時に、参加してくれたトイプードルがびしょびしょになりながら遊んでたんです。その姿を見た飼い主さんが「うちの子、こんなに楽しそうに遊べるんだ」って感動してて。そういう瞬間を、多く生み出していきたいですね。
あと、ライフワークのような感じで続けている保護犬のトレーニングなどのボランティアも、継続していこうと考えています。保護犬の存在を広めて、ワンコを迎える時の選択肢の1つとして捉えてもらいたいです。
すべてのワンコがイキイキと暮らせる世界になってほしいですよね。最後になりますが、西岡さんが広げていきたい「wa」は?
ワンコも飼い主さんも自然の中で楽しみながら、ハッピーな絆を深めてもらえるといいですよね。
そのためには、「あれはダメ」「これもダメ」と抑えつけるばかりではなく、いい部分を認めて伸ばしていくことが大事だと思っています。ワンコも飼い主さんも無理せずに、それぞれの気持ちを大切にしていってほしいです。
西岡 裕記 さん
ドッグトレーナー。高校卒業後、地元の三重県から上京し、青山ケンネルカレッジで動物について学ぶ。警察犬訓練所やトリマー、ショップの店舗管理などを経験し、フリーのドッグトレーナーとして独立。“ゆる~く楽しくHAPPYに!”をモットーに、ワンコのトレーニング法を伝えている。