犬の去勢手術とは?
オス犬の去勢手術は全身麻酔をして精巣を切除する手術です。手術前には絶食などが必要ですが、手術そのものは30分〜1時間以内に完了し、問題がなければその日のうちにおうちに帰ることができます。
去勢手術には望まない繁殖を防ぐだけでなく、愛犬の病気予防やストレス軽減、行動改善といったメリットもあるため、手術をされる方も多くいます。
ただし、デメリットもあることから、去勢手術にはさまざまな見解があり、もし去勢手術をしようかどうか迷われている場合はまずかかりつけ動物病院の獣医師さんに相談しながら、愛犬にとって飼い主が良いと思う選択をしましょう。
犬の去勢手術の時期は?最適なタイミングは?
生殖機能が備わることを性成熟と呼びます。犬のオスは、生後1年以内には生殖機能が備わり、性成熟期を迎えます。小型犬では8~10ヶ月齢、大型犬だと少しだけ遅く10~12ヶ月齢が一般的です。生後6か月〜1歳の間の時期での去勢手術を推奨されることが多いですが、去勢手術をする場合は体重などの個体差やその犬の健康状態などもありますので、かかりつけ動物病院の獣医師さんと相談しながら決めましょう。
もし、愛犬にマーキング(かけション)をさせたくないという方は、成犬になってマーキングの癖がついてから去勢手術をしてもマーケング癖がそのまま残る可能性が高いので、やはり生後6か月〜1歳までの間での去勢手術がおすすめです。
また、「去勢手術の時期が遅いとどうなるのでしょうか?」という声もよくいただきますが、成犬でも去勢手術はできます。ただ高齢になるほど犬にかかる手術や麻酔の負担が大きくなるため、成犬でも手術をするなら早めが良いでしょう。
犬の去勢手術の費用は?
去勢手術の費用は各動物病院によって異なります。犬の大きさ(小型犬〜大型犬)によっても手術費用は異なりますが、大体2万円〜3万円が平均的な去勢手術の費用になります。手術前検査や抜糸費用などは別の場合もありますので、気になる方は最初に全体でかかる費用を確認するようにしましょう。
また、去勢手術は治療ではなく予防になるためペット保険の補償対象外となります。
犬の去勢手術のメリットとデメリット
犬の去勢のメリット
犬の去勢手術をするメリットはいくつかありますが、代表的なものを下記でご紹介します。
望まない繁殖を防げる
メス犬と多頭飼いをされている場合や、ドッグラン などのお出かけ先で、避妊手術をしていないメスと交尾をして妊娠させてしまうといった万が一のトラブルを去勢をすることで防ぐことができます。
オス犬がかかりやすい病気の予防に有効
去勢手術の中でも愛犬と飼い主さんにとって最も重要なメリットがこの病気の予防です。前立腺肥大や精巣腫瘍、会陰ヘルニアなどオス犬特有の生殖器関連疾患を予防する効果が期待できます。
かけション・マーキングの改善
生後6か月〜1歳までの間に去勢手術をすることで、かけションやマーキング行動を改善させることが期待できます。マーキングはオス犬が男性ホルモンの影響で本能的に行っている行動のため、その男性ホルモンが出される器官である精巣を摘出する去勢手術を行うことで、マーキング行動が改善されることが多いです。
マウンティングの減少
家族や犬や物などに対してオス犬が抱きつき腰を振るマウンティング行動を減らす効果も期待できます。去勢手術をしても全くしなくなるわけではありませんが、マウンティングする頻度は減ることがあります。
ストレスや攻撃性の軽減
去勢をしていない場合、おでかけ先で発情したメス犬を追いかけ回したり、メス犬をめぐって他のオス犬に攻撃的になったりします。このような本能的な行動を飼い主さんは静止しますが、それが犬のストレスに繋がることもあるのです。去勢をすることでそういった犬の行動やストレスを減らすことができます。
犬の去勢のデメリット
次に犬の去勢手術をするデメリットをご紹介します。
去勢手術(全身麻酔)のリスクや負担
去勢手術は高度な手術ではないですし、動物病院で手術前検査をしてから行うのでリスクが低い手術ではありますが、全身麻酔が必要になる手術です。全身麻酔による体への負担が多少なりともあること、副反応が全くないわけではないことも理解しておきましょう。
食欲が増して太りやすくなる
去勢手術をした飼い主さんの中にはこれを実感した飼い主さんも多いのではないでしょうか?
去勢したオス犬は太りやすくなります。これは去勢により生殖器で消費するはずだったエネルギー量が減ること、そして食欲を抑制する働きをする男性ホルモンが減少することなどが原因です。そのため、去勢前と同じ量のフードを食べていると太りやすくなるので、そこを理解し飼い主さんがしっかりとフード量や運動量を管理してあげるようにしましょう。
犬の去勢後、気をつけることは?食事は?トイレは?
去勢の術後は愛犬が傷口を舐めたり噛んだりしないように病院で去勢後用の傷口が隠れるウェアやエリザベスカラーをつけてくれるので、抜糸まではウェアやカラーを外さないようにしましょう。
もし、愛犬が傷口を爪で引っ掻いたり、噛んだりしてしまった場合はかかりつけ動物病院の獣医師さんに相談しましょう。
去勢手術では、術後は普段通りに食事を食べても問題ありません。手術のストレスなどで一時的に食欲がなくなる場合もありますが、食べないことが長く続く場合は病院に相談しましょう。
また、術後はお腹の痛みからウンチをしないことがよくあります。通常は術後1日以降に自然としますが、もし2〜3日してもウンチをしない場合は病院に相談してみましょう。
犬の去勢後、お散歩はいつからしていいの?
去勢手術後、傷口の経過が良好であれば1週間~10日程度で抜糸ができるようになります。できればこの抜糸が済むまでお散歩は控えましょう。犬同士のワンプロやドッグランでの激しい運動、旅行なども、抜糸まではしない方がよいでしょう。
どうしても外に出たがる場合は、ウェアやエリザベスカラーをつけたまま抱っこして外を歩く抱っこ散歩をおすすめします。外でないと排泄ができない場合は、傷口が汚れたりしないような足元の良い場所を選んで、短い距離を歩かせるようにしてください。
また、傷口が痛み抱っこを嫌がる場合は無理に抱っこするのは控えましょう。横向きの抱っこや仰向けにしての抱っこは傷口が痛んだり開いたりする場合もあるので、必ず抱っこする際はお腹を下向きにして患部を触らないように気をつけて抱っこしてあげるようにしましょう。
犬の去勢後の性格の変化
- 去勢したら逆に凶暴になった
- 去勢後におとなしい性格になった
- 驚くくらい甘えん坊になって、そばを離れない
- 去勢後にこれまでしなかったのに無駄吠えが増えた
愛犬の去勢を経験した飼い主さんからはさまざまな犬の去勢後の性格の変化を耳にすることがあります。そんな飼い主さんたちの話を聞いて「うちの子も去勢手術で性格が変わってしまうの?」と心配に思う飼い主さんもいらっしゃるかもしれません。
犬種やその子の性格にもよりますが、去勢をすることで男性ホルモンの一種「テストステロン」の分泌が抑制される影響でマウンティングが抑えられる他、元々攻撃性が高いオスの攻撃性が減少する傾向にあると言われています。
しかし、実は去勢で犬の性格が変化するという調査結果などのエビデンスはなく、あくまで、これまで様々な犬の去勢症例を見てきた知見者の中での傾向になります。
少なからずこの男性ホルモンのバランスの影響で、去勢後に多少なりとも性格や行動などの変化を経験した飼い主さんが多くいるということは事実です。
もし愛犬の去勢を検討されている方は、今回ご紹介した去勢のメリット・デメリットも理解した上で、かかりつけ動物病院の獣医師さんとよく相談してみてください。愛犬と飼い主さんにとって最適な選択をする参考になれば幸いです。
Supervisor
西岡 優子 にしおか ゆうこ
獣医師。北里大学獣医学科卒業後、香川県の動物病院に就職。結婚を機に、都内の獣医師専門書籍出版社にて勤務。現在は、パート獣医として働く傍ら、犬・猫・小動物系のライターとして活動。ペット栄養管理士としても活躍中。