東京農業大学教授の増田先生と一緒にお届けする、ワンコともっと良い関係を築くためのヒント。ワンコから見えるモノゴト、ワンコの考え方、感じ方など、ワンコたちに見えている世界を私たちにも見せてくれる増田先生シリーズ「ワンコno世界」。
今回は愛犬家の私たちが気になる「愛犬の性格について」です。お散歩をしているとワンコと飼い主さんの雰囲気が全く一緒で驚くことがあります。「犬が飼い主に似る」とよく言いますが、これは本当にあることなのでしょうか?気になっていることを増田先生に聞いてみました!
Advisor
増田 宏司教授
東京農業大学 農学部 動物科学科 教授。東京大学大学院を修了後、同大学院で学術研究支援員を務め、2006年から東京農業大学で研究と学生への指導を行う。研究だけでなく、飼い主向けのカウンセリングやワンコのしつけに使えるグッズの開発など、ワンコと飼い主が幸せに暮らせる社会を築くため、幅広く取り組んでいる。
犬の性格は何で決まるのですか?先天的な遺伝が大きいのでしょうか?
「氏も育ちも(Nature and Nurture)」といって、性格は遺伝的要因(氏)と、環境から影響を受ける要因(育ち)の両方によって形づくられます。遺伝的な特徴としては、犬種の特徴を示すことや、親の性格を受け継いでいることなどがあります。一方で環境の要因(育ち)は育てられ方や様々なものへの接触経験など多くのものを含むため、性格形成への影響は、経験の種類や程度によって個々に異なります。また12週齢までの期間は社会化に敏感な時期で、犬の性格形成にはとても重要とされています。最新の研究(2022年)で、犬種(すなわち遺伝)は犬の行動の違いを9%程度説明することが報告されています。9%が大きいのか小さいのかは判断がつきませんが、指示や命令に対する反応性については遺伝性が高く、恐怖や不快な刺激に対する反応のしやすさについては遺伝性が低いようです。いずれにせよ、犬の性格形成への飼い主さん(育ち)の影響は大きいと言えるでしょう。
穏やかな子に育てたいのですが、犬の性格は育て方で変わったりしますか?
穏やか、とは、静かでのどか、生活が乱されるようなことがない様子、などの意味があるようですが、これを犬に当てはめると、「落ち着いていて、物事に激しく動揺せず、かつ温和な犬」になるでしょうか。育て方は犬の性格に大きく影響します。気をつけていただきたいのは、「穏やかな犬に育てる(育てたい)」意識よりも、より具体的に「犬が穏やかに過ごせる生活を作る」という意識で愛犬に接すること。つまり、落ち着いた環境で安心できる状況や接し方、そして適度な刺激を、飼い主として犬に提供し、「ご主人と一緒で、安心できるこの場所があるなら、多少のことが起きても大丈夫」という態度を犬が取れるようにすることが重要だと私は思います。そのための基本は、慌てる状況を出来るだけ避ける/作らないことと、様々なものを犬と一緒に経験することですが、その時にあなたが慌てず、落ち着いてそれらに対峙することも同じくらい重要です。
去勢・避妊をした後に、愛犬の性格が凶暴になってしまいました。原因は何が考えられるでしょうか?
去勢・避妊による犬の性格への影響といえば、性格が丸くなるなどの特徴が思い浮かびますが、2018年に行われた調査によると、少なくとも一部の攻撃性(親しい人、見知らぬ人、他の犬への攻撃性)について、それらを抑える効果は見られないようです。去勢・避妊よりも、攻撃性に大きく影響を与える要素はあるようで、人間や犬との関わりかた、人側の犬に対する接しかた、犬自身の経験などから身に付けた性格の傾向など、多くのものが関与していると考えたほうが良いでしょう。去勢・避妊後に狂暴になってしまった場合、原因として考えられることは、手術の経験によって物事に対して過敏になり、怖がりになった結果、攻撃性が上がった、手術後の縫い傷の違和感が短期間とはいえ続き、イライラした、などでしょうか。攻撃行動は原因によって15種類以上に分類されており、対処法は原因を特定することで初めて決まりますので、専門家に相談されても良いかもしれません。
周りから顔も性格も愛犬とそっくりと言われます。愛犬が飼い主に似るというのは本当なのでしょうか?
主に2000年代くらいから、飼い主と犬の顔や性格の類似性を調査した研究結果が公表され始めていますが、その真偽は未だ定かではありません。これらの結果から今のところ言えることは、「犬と飼い主が、生活を共に送っていくうちに似てくる」のではなく、「飼い主が、自身に似ている犬を選んでいる」と考えられる、ということです。人間は馴染みのものを好むため、結果的に見た目の近しい犬を選ぶ、という説が、現在のところ有力なようです。ちなみに、見た目について、似ていると判断する決め手は「目」だそうです。ただ、これらの研究はまだまだ検証の余地がある段階で、長く共に生活を送ることで両者が似てくることを否定しきれていません。個人的には、犬は物事をよく観察でき、真似ることが得意な動物ですので、少なくとも性格あるいは行動については、飼い主と犬のそれが似てくる可能性は十分にあるのではないかと考えています。