蝶が羽根を開いたような耳の形をしているパピヨン(Papillon フランス語で蝶)は、エレガントで気品さえ漂う高貴なイメージがあり、古くからヨーロッパの王侯貴族たちに寵愛されてきました。また、特徴的な立ち耳だけではなく、豪華な胸毛や歩くたびに揺れる優雅で華麗な尻尾など、一度見たら忘れられないような類稀な美貌で人気が高い犬種です。
パピヨンの性格は活発でフレンドリーなため、初心者の方でも飼いやすい犬種といえるでしょう。今回は、そんなパピヨンの特徴や飼い方、お迎えする方法などについて紹介します。
パピヨンの基本データ
原産国 | フランス / ベルギー |
---|---|
サイズ | 小型犬 |
犬種グループ | 愛玩犬グループ(家庭犬、伴侶や愛玩目的の犬G) |
飼いやすさ・しつけのしやすさ | 初級~中級 |
運動量 | 中程度 |
トリミング | 不要 |
ブラッシング | 2〜3日に1回程度 |
お散歩 | 1日2回×30分〜1時間程度 |
飼育費用 | 月1.5〜2万(医療費別途) |
かかりやすい病気・怪我 | 膝蓋骨脱臼、進行性網膜萎縮、眼瞼内反症、白内障、脱臼、皮膚疾患 |
パピヨンの歴史
パピヨンは、「スパニエル」というスペイン原産の犬種が起源とされています。スパニエルはもともと狩猟犬として飼育されていましたが、イタリアに渡ってから繁殖され、16世紀にフランスへ持ち込まれてからはより小さいサイズに改良されていき、「トイ・スパニエル」または「コンチネンタル・ドワーフ・スパニエル」と呼ばれるようになります。しかし、当時は耳は立っていませんでした。
この頃から、西ヨーロッパのオールド・マスター(18世紀以前に活動していたルーベンス、ティツィアーノなどの画家の巨匠)の絵画に、パピヨンに似た耳垂れのトイ・スパニエルが描かれるようになります。
18世紀バロック時代には、ファッショナブルなワンコとして貴族の間で人気を博しました。これに乗じて多くのトイ・スパニエルがブリードされるなか、1896年に初めて蝶のような立ち耳の「パピヨン」が誕生したといわれています。それは突然変異なのか、それとも単なる自然現象なのかは証明されていませんが、犬種の混血が原因でないことは確かだとされています(一説では、スピッツとの交配により立ち耳になったともいわれています)。その立ち耳タイプが圧倒的に人気が出たため、個体数も増えていきました。
パピヨンはとくに宮廷で愛され、フランス国王ルイ15世の公妾ポンパドゥール夫人の愛犬「イネス」、そしてマリー・アントワネットの愛犬「ココ」の記録があります。フランス革命が起こり、マリー・アントワネットが幽閉されてからもずっと愛犬ココと共にいて、悲劇の最後まで一緒だったといわれています。マリー・アントワネットの死後、ココは「パピヨン・ハウス」と名付けられた安住の地でマリーの侍女によって大切にされ、22歳まで長生きしたそうです。
また、ハプスブルク帝国女帝マリア・テレジアの愛犬(垂れ耳)は、剥製となっていまだにオーストリアのウィーン自然史博物館に展示されています。
そして1902年、ベルギーのドッグ・ショーで正式に「パピヨン」が認められます。パピヨンはベルギーで誕生したという説もあり、公式原産国はベルギーとフランスです。1955年にはこの立ち耳のパピヨンに対して、原種の垂れ耳を「Phalène/ファレーヌ(フランス語で蛾)」と呼ぶようになりました。
パピヨンの性格と特徴・飼いやすさ
可憐なパピヨンは、王侯貴族の膝の上でおとなしくしていただけかというと、そうではありません。祖先はラッター(ネズミ取り)などの使役犬として、またサーカスドッグとしても活躍していたほど運動神経抜群で、頭脳も明晰な犬種です。飼い主さんと一緒にドッグスポーツも楽しめるでしょう。
しかし、基本的には穏やかであまり吠えず、ほかのワンコや初めて会う人ともフレンドリーにでき、頭が良く状況判断が得意なのでトレーニングも容易で飼いやすい犬種です。
飼い主さんには非常に愛情深く、忠実な伴侶となりますが、いつも側にいたい甘えん坊です。毎日一緒に過ごしたり、遊んであげたりできなければ、ストレスから病気につながる可能性もあります。そのため留守番が多いライフスタイルの家庭よりも、かまってあげる時間に余裕のある家庭に向いています。
パピヨンの被毛の種類について
パピヨンの被毛は、シングルコートで、絹のような艶やかな光沢ある長毛です。毛色は、「パーティーカラー(2色)」と「トライカラー(3色)」があります。「パーティーカラー」は、ホワイトをベースにブラック、タン(茶色)、レッド(赤茶色)、レモン(明るい茶色)、セーブル(黒い差毛のある茶色)などがあります。白地であれば全ての色が認められ、ホワイトの割合が重要視されます。おでこに「ブレーズ」と呼ばれる太めの白い模様があり、模様が左右対称になっています。成長により毛色が変化することもあります。
トライカラー
ホワイトにブラック、ブラウン(もしくはタン)の3色で構成されているカラーです。胸やお腹、しっぽなどは白く、顔や耳、腰回りに色が入ることが多いです。
ホワイト×ブラック
ホワイト×ブラウン
ホワイト×レッド
レッドは、赤みのあるブラウン。
ホワイト×セーブル
セーブルは、ベージュを少し濃くしたような色。
ホワイト×レモン
レモンは、セーブルよりも薄くて淡い色。
パピヨンの大きさと体高・体重
パピヨンは全体的に華奢でコンパクトな体型をしており、体長は体高よりもいくぶん長い。大きな立ち耳は体とのバランスがとれています。体高は28cm以下が標準とされていて、体重は2〜3kgくらいから5〜6kgくらいまでと個体差があります。
パピヨンの体重 | パピヨンの体高 |
---|---|
2~6kg程度 | 20~28cm |
パピヨンの平均寿命と人間年齢
パピヨンの平均寿命は13~15歳といわれていますが、最高齢は23歳です。日頃からストレスをためにくい飼育環境を整え、毎日の健康チェックや定期健診を怠らないなどすれば、長生きできるかもしれませんね。
人間に換算した場合の年齢は下記の表をご参照ください。
犬の年齢 | 人間に換算した年齢 | 成長ステージ |
---|---|---|
3か月 | 4歳 | 子犬 |
6か月 | 7歳半 | |
9か月 | 11歳 | |
1歳 | 15歳 | |
1歳半 | 19歳半 | |
2歳 | 23歳 | 成犬 |
3歳 | 28歳 | |
4歳 | 32歳 | |
5歳 | 36歳 | |
6歳 | 40歳 | シニア犬 |
7歳 | 44歳 | |
8歳 | 48歳 | |
9歳 | 52歳 | |
10歳 | 56歳 | |
11歳 | 60歳 | |
12歳 | 64歳 | |
13歳 | 68歳 | |
14歳 | 72歳 | 高齢犬 |
15歳 | 76歳 | |
16歳 | 80歳 | |
17歳 | 84歳 | |
18歳 | 88歳 | |
19歳 | 92歳 | |
20歳 | 96歳 |
パピヨンがかかりやすい病気や怪我
パピヨンが注意しなければならない病気の一例を挙げるので、チェックしておきましょう。
パピヨンがかかりやすい病気や怪我 1 胃腸炎
日常のストレスや誤食など、さまざまな原因で発症する疾患ですが、急性胃腸炎や出血性胃腸炎にも注意が必要です。
パピヨンがかかりやすい病気や怪我 2 皮膚疾患
アトピー性皮膚炎や脂漏性皮膚炎など、アレルギー性のものから寄生虫や細菌の繁殖、高温多湿などが原因で発症する皮膚炎があります。
パピヨンがかかりやすい病気や怪我 3 外耳炎
細菌の侵入や寄生虫により発症することがあります。かゆみや痛みが伴い、耳を後足で引っ掻く様子が見られます。
パピヨンがかかりやすい病気や怪我 4 眼疾患
結膜炎や角膜炎、ドライアイなどで、涙や目やにが増える、充血する、目をこするなどの症状が現れます。
パピヨンがかかりやすい病気や怪我 5 脱臼・骨折
膝蓋骨が正常な位置からずれてしまう「膝蓋骨脱臼」や、股関節、肩関節や肘関節などの脱臼で、生まれつきの形成異常によるものと、落下などで発症する後天性のものがあります。段差やフローリングで骨折することもあるので注意が必要です。
パピヨンの飼い方のコツ・注意点
パピヨンは飼いやすい犬種ですが、飼育には注意するポイントもあるのでチェックしておきましょう。
パピヨンの飼い方のコツ 1 良いこと悪いこと、正しいしつけが重要
わがままに育てると、ワンコ自身の身の危険にもつながります。しかし、叱ってしつける主従関係ではなく、親が子どもに物事を教えるように、ワンコも飼い主さんもお互いに楽しくなるような、優しいトレーニングを行いましょう。
毎回5分程度の短い時間で実施し、良いことをすれば褒め、玩具やおやつを与えるなど、ポジティブな反応を繰り返し示すよう、愛情をもったしつけが大切です。
パピヨンの飼い方のコツ 2 意外にアクティブ!一緒に遊んでコミュニケーションをとる
パピヨンは、元々小型の鳥猟犬を祖先にもつため、大変活発で、運動神経も抜群です。過去にはヨーロッパやロシアで、トイプードルなどと一緒にサーカスドッグとして活躍していたほど、知能も高く、好奇心旺盛です。
コミュニケーション上手なので、一緒にドッグスポーツに挑戦するのもよいでしょう。退屈が大の苦手なので、毎日の散歩に加え、室内でも遊ぶ時間を設けてコミュニケーションをとり、ストレスをためないような配慮が必要です。体は小さいですが、意外にアクティブな犬種です。
パピヨンの飼い方のコツ 3 週に2〜3回のブラッシングや歯磨きでケアする
抜け毛は少なく、ブラッシングは週に2〜3回程度で大丈夫です。トリミングの必要もありません(サマーカットは可能)。被毛以外のケアとして、食後には歯磨きをして、お口の健康を守りましょう!
美しい被毛が自慢のパピヨンですが、その被毛は子犬の頃はとてもモコモコしています。およそ3~4か月頃くらいから、子犬の毛が抜け、新しく生え変わるとき、毛が少なくなって、ボディもちょっぴり細くなったように感じる時期があります。成長とともに徐々に大人の毛が生えてきて、伸びてきますが、産毛が抜けパピヨン特有の大人の被毛に生え揃うまでの期間、そういった変化がみられることがあります。病気ではないか、脱毛してしまったのか、と心配になることもあるようですが、さなぎが蝶に生まれ変わるまでの大切な準備です。
パピヨンの飼い方のコツ 4 滑りにくい床材や仕切りなどを取り入れる
高いところから飛び降りたり走ったり、ジャンプしたりする際、滑りやすい床材の場合は関節疾患の原因になることもあります。カーペットを敷いたり滑りにくい材質の床にしたりと、生活環境に配慮が必要です。
またパピヨンは小さいので、狭い場所に入り込んでしまう危険性もあります。思わぬケガや事故を防ぐためにも、犬用ゲートや仕切りなどを設置しましょう。
パピヨンの値段・価格の相場
パピヨンの子犬の平均価格は約26万円(2023年)です。ドッグショーで優秀な成績を収めた親犬の子は、価格が高くなる傾向にあります。
保護施設などから里親として引き取る場合は、各施設によって定められた譲渡費用がかかります。事前に調べたり問い合わせてみたりするのがおすすめです。
パピヨンをお迎えする方法
パピヨンを家族としてお迎えする際の2つの方法を紹介します。
ブリーダーさんからお迎えする
パピヨン専門の優良ブリーダーをネットなどで検索してみましょう。ブリーダーから子犬をお迎えする場合は両親が明らかなので、毛色や体格、性格などがわかるメリットがあります。
また、お迎え後もブリーダーさんに困った時に相談ができたり、兄弟犬の輪が広がったりとサポートしてもらえる繋がりがもてるのも心強いポイントです。
保護犬のパピヨンを探して里親になる
動物保護施設や動物愛護ボランティア団体などでは、繁殖犬を卒業して保護された子や、飼い主の事情で手放されて保護されているパピヨンを見つけることができるかもしれません。事前にサイトやSNSなどで探してみるのがおすすめです。
まとめ
巨匠画家の絵画のモデルとしても登場していたパピヨンは、ドッグショーでも大変目立つ華麗なスタイルの持ち主です。歩く際にも、踊るような優雅な動きで人目を引きますよね。しかし、パピヨンはほかにも優れた能力をもっています。
明るく、非常にフレンドリーで子どもとも遊べますし、アクティブで遊び心もあり賢いので、高度なトレーニングやドッグスポーツも可能です。パピヨンが走り回れる部屋の広さや庭がある家庭が望ましいですが、ケガをしないような配慮は必ずしましょう。
反面、非常に寂しがりやで、飼い主さんがいないと不安でストレスになり、ひとりの時間が多いと分離不安症に苦しむこともあります。毎日コミュニケーションをとって、十分に愛情を注いであげましょう。可愛い笑顔で癒やしもたくさん与えてくれるパピヨンは、きっと大切な家族になりますよ。