古代中東で生まれたサルーキは、現存する犬種のなかでも最古であるといわれています。小さめの頭に垂れ耳、細い流線型の体躯にスラリと伸びた脚、気品さえ感じる優美さを持つ大型犬種です。
また、サイトハウンド(視覚が優れた狩猟犬)として改良繁殖され、時速77kmの最高速度で走ることができるスプリンターです。走る姿もエレガントで美しく、性格も知的で落ち着きがありフレンドリーなため、古代から人々に愛され続け、現在もなお受け継がれています。今回は、そんなサルーキの生まれた歴史や性格、飼い方、お迎え方法などを紹介します。
サルーキの基本データ
原産国 | 中東 |
---|---|
サイズ | 大型犬 |
犬種グループ | 視覚ハウンド(優れた視覚と走力で獲物を追跡捕獲する犬) |
飼いやすさ・しつけのしやすさ | 中級 |
運動量 | 高 |
トリミング | 不要 |
ブラッシング | 2〜3日に1回程度 |
お散歩 | 1日2回×1時間程度 |
飼育費用 | 月2〜6万(医療費別途) |
かかりやすい病気・怪我 | 癌、胃捻転、進行性網膜萎縮症など |
サルーキの歴史
サルーキは中東原産で、紀元前6000年以上前からその存在が確認されており、おそらく最も古い家畜化された犬種として知られています。シュメール帝国など中東地域の遺跡からは、古代のサルーキの姿が描かれた壁画、彫刻、家庭用品などが、古代エジプトのファラオの墓からはサルーキのミイラも発掘されました。
スピードと持久力に優れ、群れで狩りをする俊敏な狩猟犬として使役されてきた歴史を持ち、名馬「アラブ馬」と同様に大切に飼育されていました。また、「エル・ホル(高貴な者)」とも呼ばれ、エジプトの王侯貴族に寵愛された「エジプトの王室犬」でした。
ファラオがハヤブサと組み合わせて、サルーキで狩猟をしていたという証拠も発見されています。紀元前329年、アレキサンダー大王がインドを侵略したときの資料にもサルーキが登場します。「サルーキ/saluki」という名前は、滅亡した古代アラビアの都市である「サルク/Saluq」が由来です。
また、サルーキはイスラム教徒のなかではユニークな位置を占めています。イスラム教ではワンコは不浄とされ、触れることもできないのですが、サルーキはアッラー神から遣わされた特別な存在とされ、イスラム教徒と一緒にテントの中で生活するほど別格でした。また、名誉の象徴であったためサルーキは売買はしないという伝統もありました。
中東の砂漠の部族は遊牧民であったため、サルーキの生息地はカスピ海からサハラにかけての地域一帯でした。そのため、地域ごとに特徴を持つようになり、大きさや毛並みもさまざまとなっていきますが、現在のスタンダードが確立されたのはずっと後の1923年のことです。
サルーキは12世紀頃にヨーロッパに渡り、ルネサンス期のドイツの画家ルーカス・クラナッハが描いたザクセン公ハインリヒ4世の肖像画にサルーキが登場しています。1840年に初めてイギリスに持ち込まれ『ペルシアン•ハウンド(Persian Hound)』として知られるようになりました。しかし、1895年にアマースト男爵の娘フローレンス・アマースト(Florence Amherst)がトランス・ヨルダンのアブドゥッラー王子の犬舎から最初のサルーキを輸入するまで、その存在はあまり知られていませんでした。
その後、驚異的なスピードを持つサルーキは、猟犬としてイギリス人にも重宝されるようになります。サルーキはイギリスで何年も前から確立された犬種でしたが、アメリカン・ケネル・クラブによって公式に認められたのは、1927年11月のことです。
サルーキの性格と特徴・飼いやすさ
サルーキは大型犬ながら飼いやすい犬種です。控えめで愛情深く、狩猟犬としての歴史があるため飼い主には忠誠心が強く従順で、飼い主のそばに座っているのが大好きです。しかし、知らない人には飄々とした態度で接し、人見知りをする傾向があります。子どもにも優しいですが、遊び相手になることには興味がありません。また、清潔で臭いや抜け毛も少なく、お手入れも簡単です。
人との関係が密接で深い絆を形成してきた犬種のため、長期間放置されると分離不安になりやすいところもあります。そのため、留守番の多いライフスタイルの家庭には向いていないでしょう。
長時間の留守番時にケージに入れることは、サルーキにとって健康的なライフスタイルではありません。1日の大半を安全に過ごせる広い場所で運動や遊びをし、可能であれば庭で十分に走らせることが必要です。
賢く俊足なので、うっかりドアから抜け出しても捕まえることができません。室内飼育が基本ですが、高い柵で囲われた(ジャンプ力も高いため)庭のある家庭におすすめします。
運動能力が高く俊敏なサルーキは、ルアーコーシングやハードルなどのアジリティ、フライボール、ドッグレースなど、さまざまなアクティビティを楽しめる犬種です。また、体脂肪が少ないため、固い床の上で休むと不快感を感じたりたこができたりすることがあります。床の上ではなく、ベッドやソファなどの上で寝たがる傾向があるので、硬いケージを寝床にしないようにしましょう。
サルーキの被毛と種類
被毛はなめらかで柔らかい毛質です。フェザーコートとスムースコートの2種類あり、フェザーコートは「フェザリング」(羽のような飾り毛)が耳や太ももの後方に生えています。
毛色はホワイトまたはクリーム、フォーン(淡い黄色)、ブラック&タンまたはグリズル&タン、ゴールデンなどがあります。
サルーキの大きさと体高・体重
体高は58〜71cm、体重は18~27kgほどで、女の子は比較的小さいです。
サルーキの体重 | サルーキの体高 |
---|---|
約18~27kg | 約58〜71cm |
サルーキの平均寿命と人間年齢
サルーキの平均寿命は12~14歳とされ、大型犬のなかでも平均的な寿命です。しかし、15歳以上まで生きる子も少なくありません。
サルーキの人間に換算した場合の年齢は下記の表をご参照ください。
犬の年齢 | 人間に換算した年齢 | 成長ステージ |
---|---|---|
3か月 | 4歳 | 子犬 |
6か月 | 7歳半 | |
9か月 | 11歳 | |
1歳 | 15歳 | |
1歳半 | 19歳半 | |
2歳 | 23歳 | 成犬 |
3歳 | 28歳 | |
4歳 | 33歳 | |
5歳 | 40歳 | |
6歳 | 47歳 | シニア犬 |
7歳 | 54歳 | |
8歳 | 61歳 | |
9歳 | 68歳 | |
10歳 | 75歳 | 高齢犬 |
11歳 | 82歳 | |
12歳 | 89歳 | |
13歳 | 96歳 | |
14歳 | 113歳 | 超高齢犬 |
こちらの表は、
- 小型犬・中型犬「24+(犬の年齢-2)×4=人間に相当する年齢」
- 大型犬「12+(大型犬の年齢-1)×7=人間に相当する年齢」
の方式に基づいて計算しています。詳しくは、下記の記事をご覧ください。
サルーキのかかりやすい病気
サルーキのかかりやすい病気 1 癌
血管肉腫や骨肉腫などの癌、乳腺癌(生後早期に避妊しなかった場合)、リンパ腫もサルーキ種で確認されています。
サルーキのかかりやすい病気 2 胃捻転
サルーキは活動量が多く活発に走る傾向があるため、常に胃捻転を防ぐための予防をしましょう。食後すぐに走ったり遊んだりすることが原因で起こるこの症状は、生命を脅かす緊急事態であり、直ちに獣医師の治療が必要です。
サルーキのかかりやすい病気 3 進行性網膜萎縮症
サルーキは、この遺伝性疾患にかかりやすい犬種です。痛みはありませんが、視力の低下が起こり、失明することもあります。
サルーキのかかりやすい病気 4 骨折
活発なので、骨折のリスクも高いです。走りたがらない、足を引きずるなどの気になる症状が見られたら、すぐに獣医師を受診しましょう。
サルーキのかかりやすい病気 5 麻酔
サルーキの遺伝的素因として、麻酔に弱い傾向があります。日ごろからの健康チェックや定期検診などで、早期発見できるようにしましょう。
サルーキの飼い方のコツ・注意点
サルーキの飼い方のコツ 1 飽きないよう工夫してしつけする
サルーキは学習能力が高いためトレーニングは容易ですが、飽きやすい性格のため反復練習が苦手です。
繊細なので、無理強いや叱るなどの押さえつけるしつけではなく、褒めて教えるポジティブ・トレーニングが基本です。サルーキが興味を失わないように、褒める際のご褒美を毎回変えるなどの工夫をしましょう。
サルーキの飼い方のコツ 2 並外れた運動能力の持ち主。思う存分運動させる
サルーキは、世界一足が速い犬種「グレイハウンド」(最高時速70km)に次ぐ第2位(最高時速は69km)の地位を持つほど俊足です。しかし、実際は最高時速77kmほどで走ることができる全犬種最速なのではないかとの噂もあります。
狩猟犬としての耐久性、並外れたスピードを持つ身体能力があるため、1日に2時間程度の運動と散歩が必要です。定期的にドッグランなどに連れて行ったり、アクティビティを一緒に楽しんだりしてあげましょう。
適切な運動と刺激(たくさんの遊び、安全なおもちゃや骨をたくさん噛ませる)がないと、サルーキは脱走したり、破壊的になったりすることが知られています。
サルーキの飼い方のコツ 3 寒がりなので、寒い時期の散歩や衣類に配慮する
サルーキは体脂肪が少ないため寒さには弱いです。寒い季節の散歩にはセーターなどの衣類を着せましょう。
サルーキの飼い方のコツ 4 基本的にトリミングは不要だが、定期的にブラッシングする
サルーキはシングルコートで短毛です。トリミングは必要ありませんが、週に1度はブラッシングしましょう。フェザリングは、その部分をていねいにブラッシングしてあげてください。また、食事中は耳を食器につけないようにし、遊んだ後は尻尾の先端に汚れが残っていないか注意してください。
サルーキをお迎えする方法
サルーキを家族としてお迎えする際の2つの方法と、料金の相場を紹介します。
ブリーダーさんからお迎えする
サルーキはペットショップではあまり販売されない希少犬です。専門の優良ブリーダーをネットなどで検索してみましょう。
保護犬のサルーキを探して里親になる
動物保護施設や動物愛護ボランティア団体などでは、繁殖犬を卒業して保護された子や、飼い主の事情で手放されて保護されているサルーキを見つけることができるかもしれません。事前にサイトやSNSなどで探してみるのがおすすめです。
サルーキの値段・価格の相場
価格相場は約53万円です(2023年)。保護施設などから里親として引き取る場合は、各施設によって定められた譲渡費用が必要です。目安として、1頭につき2〜6万円程度と考えておきましょう。
まとめ
サルーキは、DNA鑑定の結果、最も早くオオカミから別れた犬種の一つであると確認されたという報告もあるほど、古代から生き残ってきました。7000年も前から、人と共に生き、人に使え、家族として愛されてきたのですね。それは、サルーキの持つ賢さと従順さ、そして容姿の美しさと俊足も魅力であったからでしょう。
大型犬でも日々のお手入れは簡単ですが、運動量は多く必要なので、時間と体力と、家の広さに余裕のある家庭に向いている犬種です。