本記事は獣医師が執筆・監修を行っております。
犬は本来野生で生活していたオオカミと血縁関係があるとされています。
そのため現在でこそ家庭犬として生活していますが、昔は野生で自身で狩猟をして生活をしていました。
野生動物たちは視力に長けている連想してしまいがちですが、人間の視力と犬の持つ視力は異なります。
ではどのような世界が見えているのでしょうか。
犬の視力はどのくらい?

犬は元々やせいで生活していた生き物であるため、視力が良いイメージがある方も多いかもしれません。
しかし、実際はそんなことはなく視力は0.3程度であると言われています。
視力を人間のように計測することができないため、ぼんやりとしか見えていないと言われています。
人間の視力でとらえると視力は低いと感じるかもしれません。
しかし、犬は人間のような焦点を定める見方をするのではなく、動くものに対する反応性や暗い場所でも少しの光を元にものを見る見方など、犬らしい生活の中では不便のない視覚は持っています。
犬種にもよりますが、顔の中で眼のついている位置が人間とは異なるため、220~250度程度の広い視野を持っていることも特徴的です。
眼のつき方により両方の目を用いて立体的にものを見ることは苦手とされています。
またその分長けている嗅覚、聴覚があるため、視覚だけに頼らず様々な五感を合わせて用いながら小さな獲物を追いかけたり、何かを見つけることができるのです。
視力が低いというと眼が悪いのではと感じてしまいがちです。
人間と見える世界が異なるため、同じ条件での視力という評価が出来るか難しい問題ではありますが、人間のもたない視覚の長けている部分があることで生活するうえで問題のないような視覚は持ち合わせています。
どうして視力が弱いの?

人間の目は水晶体とよばれるレンズの部分の厚さを調整することでピントを合わせ、遠くのものや近くのものを適した状態でピントを定めてみる仕組みになっています。
その機能は犬も一緒ですが、人間と比較すると機能が未熟とされています。
そのため、ピントが合わずぼんやりと視覚になることになり、犬の視界にはぼんやりとした世界が広がっていることになります。
ピントの点のみで見てみると視力が弱いと感じるかもしれませんが、犬種にもよりますが、視界の広さや動体視力の良さなどで視覚を補っています。
人間と見えている世界は異なりますが、動くものに対しての反応の高さや視角が人間では180度程度なのと比較して犬では200度程度まで広がるため、犬らしい日常生活を送るために必要な視覚は持っています。
犬は色を判別できないって本当?

人間は色を赤・緑・青の三原色でとらえています。
人も犬も網膜と呼ばれる眼球の構造に存在する視覚細胞によって光を色に変換し、判別します。
一方で犬は網膜に存在する視覚細胞の違いによって色を青・黄色・グレーでとらえているとされています。
そのため、人間のような色鮮やかな世界が見えているわけではありませんが、以前はモノクロでしか見えないとされていた犬の視覚でしたが、色彩感覚はあるということがわかっています。
犬のような色彩感覚の場合どのようなことが起こるかというと、近くに存在する色の種類によっては境界線がわかりづらかったり、はっきりとわかりやすい色彩が人間と異なるため、同じ感覚で過ごしていると見えにくいのではないかと感じるタイミングもあるかもしれません。
暗い場所でも犬は目が見えている?

人間の視覚と犬の視覚の違いとして他にも挙げられるのが暗い場所での視覚です。
犬は本来野生で生活していた生き物です。
夜の間も獲物を探したり、外敵から逃げる必要があります。
そのため、犬の目は夜や暗い場所でも少ない光でものを見ることができる構造をしているのです。
人間は持っていない目の構造が網膜の裏側に存在する「タペタム層」という細胞層です。
暗闇で犬の目に光を当てた時にきらきらと反射して見えた経験はありませんか?
この反射はタペタム層によって起こり、少ない光を反射させて視神経に届けることで暗闇の中でもものを見ることができます。
また、網膜に存在する光を感じる細胞が人よりも多いとされています。
光を感じる細胞が多いことにより、わずかな光でも敏感に細胞が反応をするため、人間よりも犬の方が暗い場所でもものを見ることができるのです。
視力の良い犬種は?

犬は視覚だけでなく聴覚・嗅覚・触覚などの五感を活かしながら生活します。
しかし中でも視覚が他の犬種よりも長けているとされている犬種も存在します。
それはサイトハウンドと呼ばれる猟犬として使役する犬種たちで、イタリアングレーハウンド、サルーキー、ウィペット、アフガンハウンド、ボルゾイなどの犬種が挙げられます。
嗅覚などを活かして使役する犬種との違いは視覚を活かして獲物を見つけ、人間の狩猟のサポートをすることです。
そのため、様々な犬種の中でも視力が良いとされています。
しかし、人間と比較して犬が苦手としている色彩感覚が長けていて人間と近い視覚を持っているわけではなく、視野の広さやピント調節機能などが他の犬種よりも長けているとされています。
これらの視力の良さにより獲物を探して猟犬として使役します。
視力が低下した時に見られる行動は?

犬は人間と異なり、言葉を話すことができないため「目が見えない」ということを伝えることができません。
飼い主さんが愛犬の行動を観察し、普段からの変化に気づいてあげることが大切です。
視力が低下したときは以下のような行動変化が見られます。
- 壁などの障害物にぶつかる
- ごはんや水が上手に見つけられず、食欲や飲水量が減ったように見える
- 視力が低下したことにより、恐怖心や警戒心が増す
視力の低下により、自身の周りにある障害物を視覚的にとらえることができず、ぶつかるようになります。
高齢になり隅っこに頭を突っ込むなどの変化は認知症により空間の認知能力の低下が起こって見られる行動の可能性が高いですが、歩きながらぶつかるなどは視力の低下による可能性が高いです。
ごはんやお水の場所を以前は視力や嗅覚、触覚などにより認知していたのが、視力が欠けたことでごはんの種類などによっては場所を把握しづらくなるなどの変化が見られる場合があります。
視力の低下により、性格の変化も起こり、警戒心や恐怖心が増し、怒りっぽくなるように感じる飼い主さんもいます。
暗い場所でのみ変化が見られることや特定の条件でのみ視力の変化が現れているように感じる場合もあります。
段差を好まなくなったり、普段よりもお散歩に行くことを嫌がるなど一見運動器の異常に見えることも、視力が関係していることもあるため、変化に気づいたらまずはかかりつけの先生など専門家に相談することをおすすめします。
眼に異常が出た場合、人間のような視力検査を行うことはできず、眼の構造の異常はないかということを特殊な器具で検査をしたり、光に対する反射を確認したりすることが一般的であり、一般の動物病院では眼科専門の器具を持っていない場合もあるため、眼科専門の病院や大学病院などの二次診療施設を紹介してもらう必要があるかもしれません。
行う治療によってはかかる費用も様々であるため、視力の変化が見られた場合、どの程度の治療を望むかということも家庭で相談しておくと安心です。
視力の完全な回復が難しい場合でも、生活環境を目の見えにくい子でも生活しやすいように改善してあげるとよいでしょう。
まとめ
私たち人間にとって、視覚は生活するうえで欠かせない感覚です。
犬たちは人間ほど視覚に頼らず他の五感も上手に使いながら生活していると言えど、今まで見えていたものが見えなくなることで強い不安を感じたり関係性が変わってしまうこともあります。
また、見えないことで周りにぶつかってけがをしたり、上手にごはんや水を摂ることができず、健康面でのトラブルにつながることもあるため注意が必要です。
痛みや出血などの症状と異なり、視力の低下などの変化は行動でしか判断できず、早期に気づくために愛犬の様子を普段からよく観察する必要があります。
出来るだけ早期に受診をして原因を究明することや、痛みや違和感がある場合、早期に除去してあげることで視力の回復は難しくても、愛犬の負担を軽減してあげられるでしょう。
炎症や感染の程度によっては眼球摘出などが必要になってしまう場合もあります。
愛犬のためにも視力の変化が見られた場合は早期の受診をおすすめします。
また、見えている世界が異なることを理解してあげることもとても大切です。
家族の一員ではありますが、犬は人間とは異なる生き物で習性や体の特性も異なります。
人間の生活に合わせることが大きな負担となってしまう場合も考えられるでしょう。
犬の視覚などの特性を理解した上で、犬も生活しやすい環境を作ってあげることで、よりお互いが過ごしやすくなり、関係性も向上する可能性が高いです。
最近では犬の見えている世界が共有できるアプリなども開発されているそうです。
家族で実際に見えている世界をイメージすることで、もっと愛犬との距離が近づけるとよいですね。
Supervisor
葛野 莉奈 かどの りな
麻布大学獣医学部獣医学科を卒業後、横浜市内動物病院や会員制電話相談動物病院、ペットショップ付属動物病院にて小動物臨床に携わらせていただいた後、自身の動物病院を開院させていただきました。
現在、院長として臨床の現場で従事する傍ら、わんちゃんや猫ちゃんに関するコラムを執筆させていただいています。
プライベートでも、病院で一緒に生活する猫たち3匹と家庭でも愛犬たち10頭とともに生活しています。

Writers
ワンコnowa 編集部
愛犬飼育管理士/ペットセーバー/犬の管理栄養士の資格を有し、自らもワンコと暮らすワンコnowa編集部ライターチームが執筆を行なっています。
チワワのような小型犬からゴールデンレトリーバーのような大型犬まで、幅広い犬種と暮らす編集部スタッフたちが、それぞれの得意分野を生かし飼い主視点でわかりやすい記事を目指しています。
