東京農業大学教授の増田先生と一緒にお届けする、ワンコともっと良い関係を築くためのヒント。ワンコから見えるモノゴト、ワンコの考え方、感じ方など、ワンコたちに見えている世界を私たちにも見せてくれる増田先生シリーズ「ワンコno世界」。
今回は柴犬独特の距離感「柴距離」や、ビション独特のダッシュ「ビションブリッツ」など、犬種に関する疑問についてです。犬種によって行動に名前がついているものが多くありますが、どうしてそんなことをするのか?どう対処したらいいのか?を増田先生に伺ってみました。
不思議だと思っていた愛犬の行動の謎が解明されるかもしれません。
Advisor
増田 宏司教授
東京農業大学 農学部 動物科学科 教授。東京大学大学院を修了後、同大学院で学術研究支援員を務め、2006年から東京農業大学で研究と学生への指導を行う。研究だけでなく、飼い主向けのカウンセリングやワンコのしつけに使えるグッズの開発など、ワンコと飼い主が幸せに暮らせる社会を築くため、幅広く取り組んでいる。

柴犬を飼っています。自分から近づいてきたのに、触ろうとすると急に怒ります。気分屋さんの柴犬が多いと感じるのは犬種の特徴ですか?


実は、犬種(大雑把に言うと遺伝子)で説明できる行動特性は全体の9%しかないことが、最近(2~3年前)の研究で示されています。
その研究によると、愛犬の行動の特徴への影響力は、犬種よりもむしろ年齢や性別の方が大きく、犬種による影響は小さいそうです。
この研究、犬種差はとてつもなく大きいと信じて疑わずにこれまでやってきた私にとっては衝撃的でしたが、おそらく皆さんにとっても、信じがたい数値なのではないかと思います。
ただ数値的には9%ですが、トレーニングやしつけに対する反応については犬種による差がそこそこにあるようで、おそらくは私を含め多くの人が、コマンドへの犬の反応という、目立ちやすい特徴の差を見て「犬種差は大きい」と判断していたのでしょう。
おそらくその子の場合、スキンシップを取りたいというより、その時はただ、近くにいたかったのでしょう。柴犬の一筋縄ではいかない感じ、私も分かりますよ。
ビションを飼っています。いわゆるビションブリッツという行動をよくするのですが、これはストレスが溜まっている証拠ですか?


この行動、何の前触れもなく突然勢いよく走り回ることを指します。ビションフリーゼがよく行うことから、ビションフリーゼ特有と言われていますが、突然走り回ること自体は、犬にとって珍しいことではありません。
この行動には、興奮している、運動不足や欲求不満、爪切りやシャンプー後など、ある程度の拘束状態からの解放感など、様々な理由があるようです。
この行動を見せている時の飼い主さんの態度や取るべき行動の鉄則は、飼い主さんが慌てないこと/大騒ぎしないことと、大騒ぎ中にケガをしないように、危険がない状況を迅速に整えることだと思います。
大騒ぎ中に飼い主さんが一緒になって慌てる、はしゃぐなどの大騒ぎをしてしまうと「こうすれば構ってもらえる」といった学習が成立し、さらにこの行動がエスカレートしてしまうことも考えられますので、静かにして、安全を確保しつつ、過ぎ去るのを待つ、くらいの対応でよろしいかと思います。

遊びたいとき、前傾になってお尻を上げる「プレイバウ」の動作をしますが、どうしてどの犬も同じポーズをするのでしょうか?


一言で説明すると、犬が「楽しい」と「愛する」だけで平和を作れる動物だからでしょう。
個人的にはこの説明だけで十分な気もしますが、少し無味乾燥に学術的に説明すると、プレイバウは、ゲノムに組み込まれた固定的な行動パターンだと考えられており、もう少し噛み砕くと、遺伝子にそういった仕組みが設計されているのではないかと考えられています。
この行動を行うことで、犬は相手に誤解されずに相手との関係を良好にでき、パートナーシップやチームワークを基本に生きていけるわけです。
犬の素晴らしいところは、この行動が犬に対してのみならず、私たち人間にも向けられることで、楽しいことや愛することに制限なんて必要ない、と思わせてくれることです。
このように柔軟で開放的な仲間意識を持っているからこそ、そしてそれを人間が喜んで理解できるからこそ、犬と人間は仲良くやっていけるのではないでしょうか。
寝ているとき舌を出しっぱなしにして白目をむいています。そのままで健康に問題はありませんか?


もしかするとそれは寝方のクセかもしれませんが、気になるようであれば動物病院で相談をしていただくことをおススメする、という前提でお話をしますが、そこまで無防備であるなら、安心しきって熟睡できている可能性もあります。犬が安心しきって熟睡しているとき、中に人間(特に、私のような中年男性)が入っているのではないかと思えるぐらいの寝かたをしていることがありますね。
こんな時私は、犬に対して感謝の気持ちでいっぱいになります。
私の目の前で、私たち人間よりもよっぽど警戒心に優れた動物が、脅威や危険を微塵も感じさせない寝相で、この場所が安全であることを教えてくれている、と思えるのです。
もし健康上に何の問題もないならば、私ならそうやって熟睡してくれている愛犬を無理におこさず、そのまま見守ります。熟睡中の犬は、いつまでも見ていられるものです。