この記事はワンコnowa編集部が監修・執筆を行っています。
東京農業大学教授の増田先生と一緒にお届けする、ワンコともっと良い関係を築くためのヒント。ワンコから見えるモノゴト、ワンコの考え方、感じ方など、ワンコたちに見えている世界を私たちにも見せてくれる増田先生シリーズ「ワンコno世界」。
今回は犬の不思議な行動シリーズです。まさにうちの子！と思ったり、こんな子見たことある！と思う方も多いはず。なんでなんだろうと感じている愛犬の不思議行動について、その理由を増田先生に伺ってみました。不思議に思っていたあの行動の謎が解明されるかもしれません。
Advisor
増田 宏司教授
東京農業大学 農学部 動物科学科 教授。東京大学大学院を修了後、同大学院で学術研究支援員を務め、2006年から東京農業大学で研究と学生への指導を行う。研究だけでなく、飼い主向けのカウンセリングやワンコのしつけに使えるグッズの開発など、ワンコと飼い主が幸せに暮らせる社会を築くため、幅広く取り組んでいる。
お散歩中やドッグランでミミズを見ると身体全体で潰して擦りつけたり、食べようとします。犬はどうしてミミズが好きなのでしょうか？
犬がミミズに体を擦り付ける理由は諸説あります。ミミズの匂いを自分の体につけて仲間の元に帰り、獲物があることを知らせるためとか、逆に自分の匂いをミミズにつけて、自分の匂いでコーティングし、テリトリーを主張するため、などがありますが、私はこの現象を「（犬にとっては）たまらなく好きな匂いに包まれたいから」だと思っています。
若いころ、私はこの実験に夢中になっていたことがあって、犬は道路の上などで干からびた状態のミミズに対してこの擦り付けること、だいたい2～3割の犬が擦り付けること、このミミズの匂い分析から特定された物質のみを穴の開いた透明容器に入れて犬に嗅がせたら、夢中で擦り付けること、擦り付けている間、犬のしっぽは右寄りに振ることを突き止めました。
つまり私の仮説では、たまらなく好きな腐敗臭（≒実物のミミズはいない）に、喜んで（≒しっぽは右振り）体を擦り付ける犬がいる（≒2～3割）となります。
叱っているとき、目を逸らしたり、細めてきます。やはり怒られているときは飼い主のことが怖いのでしょうか？
かろうじて大学の教員をさせてもらっている私なら、その解答（＝怒られるときに飼い主が怖い）に95点をつけます。
飼い主さんが犬を叱っているとき、シュンとしている犬を見て「反省している」と考える方がいらっしゃいますが、そうではなく、いつもと違う様子の飼い主さんを見てうろたえている、というのが専門的な見解です。
犬は普段の平和的な生活を愛してやまない生き物です。いつもと違う状況には少なからず動揺してしまいます。
もっとも、いつもと違う状況を作るきっかけは、たいていの場合犬のイタズラなのですが、さすがに犬も、ちょっと気になった、あるいは何かに夢中になった顛末がイタズラになってしまっただけで、ご主人を怒らせようと思ってやったわけではないでしょう。
ところで残りの5点分ですが、目を逸らしたり細めたりするのはこの場合、「いつものあなたに戻ってください」といった意味のカーミングシグナルでしょう。それで100点です。
1日に1回、スイッチが入ったように家の中を走り回ります。お散歩に行ったり、十分に遊んでいるつもりなのですが、ストレスがたまっているのでしょうか？
突然走り出す犬の気持ちとしては、遊びたい気持ちの表れ、ストレスがかかっている、逆にストレスから解放された、何かに驚いた、トイレハイ、興奮しているなど、様々なものがありますが、私が思うこの場合の理由は「1日に1回は走り回ることにしている」という、ルーティーンの可能性もあるのではないかと思います。
その背景には、例えば「こうすれば飼い主さんに構ってもらえる」とか、「こうすれば飼い主さんとの楽しい時間が始まる」など、楽しい・うれしい出来事を期待して行っていることもあるでしょう。
家の外へ出かけていく散歩も、家の中で飼い主さんに見守られながら走り回ることも、その子にとってはそれぞれ大好きな遊びになっているのかもしれません。
一緒にいられることへの喜びを爆発させている可能性だってあります。いずれにせよ、犬が突然走り出すときは、犬の安全に気を付け、周囲に迷惑をかけないようにしてあげてくださいね。
話しかけると首を傾げて聞いているような素振りを見せます。話の内容を理解しているということでしょうか？
「人間の理解の仕方とは完全に同じではないだろうけれど、結果的に、案外理解できているのかもしれない」というのが、私が心の中で密かに抱いている見解ですが、公に解説してしまうにはまだまだ科学的な検証が必要というところでしょう。
どういうことかというと、人間と犬の関係の場合は特に、犬側からの、相手（飼い主さん）を理解したいというモチベーションがそうとうに高いはずで、今までに覚えてきた単語と飼い主さんの様子からその状況を理解するためのピースをあつめ、何となくではあるものの、その時の状況を理解しているのではないかと思います。
もちろんその理解が見当はずれなこともあるでしょうが、歳を重ね、飼い主さんとの歴史が紡がれていくうちにトライアンドエラーが繰り返され、理解の完成度が高くなっていくのではないでしょうか。
ちなみに耳を傾げて聞いているような態度、とは、犬が注目している時に見せる仕草です。
明けましておめでとうございます。新しい年になりました。ここ数年の私はなぜか色んな本の執筆やら監修やら、立場就任などのご依頼をいただきます。
だんだん実験や検証など、研究に費やす時間が少なくなってきて、逆に、伝えるお仕事（執筆）や責任を背負うお仕事の時間が圧倒的に増えてきているわけですが、歳を重ねるとはこういうものなのかもしれませんね笑。
大好きな犬の研究はその主体を学生さんたち（＝発想力のかたまり）に託して、私はそのサポート役（＝どうすればいいかは分かっている、いざというときの指示役）に徹していく必要があるようです。
これからも何の役に立つかは分からないけれど、犬好きの人にクスっと笑っていただけるようなほほえましい発見をしていきたいと願っています。
この積み重ねこそが犬を理解することに大きく役立つと信じています。犬を「愛する」ことにいざなう、犬の中にあるその気持ちの形と強さを、私は何とかして科学の力で解き明かしたい。その夢に向かって今年も頑張ります。
皆さんも愛犬からたくさんの愛をもらって、愛犬をたくさん愛する、幸せな1年にしてくださいね。2025年も、どうぞよろしくお願いいたします。
Writers
ワンコnowa 編集部
愛犬飼育管理士／ペットセーバー／犬の管理栄養士の資格を有し、自らもワンコと暮らすワンコnowa編集部ライターチームが執筆を行なっています。
チワワのような小型犬からゴールデンレトリーバーのような大型犬まで、幅広い犬種と暮らす編集部スタッフたちが、それぞれの得意分野を生かし飼い主視点でわかりやすい記事を目指しています。
