本記事は獣医師が執筆・監修を行っております。
ルーツをたどると犬とオオカミは祖先が同じだったとされ、犬も昔は野生での生活をしていました。
家庭で一緒に生活している犬たちも消防車や救急車のサイレンなどに合わせて遠吠えをするのを聞いたことのある飼い主さんもいるのではないでしょうか。
遠吠えをする時間帯や環境によってはご近所との問題もあって困ってしまうことも。
なぜ犬は遠吠えをするのでしょうか。そしてやめさせる方法はあるのでしょうか。
犬が遠吠えをする理由
理由 1仲間への伝達
犬は本来群れで生活する生き物です。遠くにいる群れの仲間たちに何かを伝えようとするときに遠吠えをすることがあります。
現代社会では、家族という群れの中の一員として家庭犬たちは過ごしています。
野生で群れで生活していたころの習性は本能的に残っていて、何かの際にその本能が呼び起こされ、遠く離れた仲間たちに何かを伝達しようと遠吠えをすることがあります。
それは家族という群れの仲間への何らかのサインなのかもしれません。
理由 2不安によるもの
犬が不安を感じたりストレスを感じたりしたときに、そのことを伝えようとするコミュニケーションの一つとして遠吠えをする場合があります。
普段の日常生活の中では見られなくても、環境変化があった場合に見られるケースです。
家庭では遠吠えをしないのに、ペットホテルでの預かりや動物病院での入院の際にしていたということをスタッフの方から伝えられるなどはこの理由である可能性が高いです。
理由 3サイレンなどへの共鳴
遠吠えは音を通したコミュニケーション方法の一つであると言われています。
野生での生活の中では、遠くで仲間が遠吠えをしている声が聞こえたら、自分自身も反応をしてコミュニケーションをとります。
サイレンなどの音が犬の遠吠えに聞こえて同じように共鳴をして遠吠えをすることがあります。
パトカーや消防車、救急車のサイレンに遠吠えをする犬は多く、他にも町内放送の音に反応するという犬も見られます。
理由 4自分の縄張りの主張
他の犬に対して、「自分はここにいるよ」「ここは自分の縄張りだよ」と主張する目的もあります。
犬の祖先であるオオカミたちは群れごとに縄張りを作り、群れの仲間たちと他の群れから縄張りを守ってきました。
群れの仲間に対しての伝達の意味もあることをお話しましたが、仲間以外に対して、個々は自分の縄張りでもあるから入ってくるなという警告の目的もあるのです。
近所の犬の遠吠えの声に反応しているのは、コミュニケーションとしてだけでなくお互いに自分の縄張りはここだと主張し合っているのかもしれません。
特に未去勢のオスなどは縄張り意識が強いとされていますが、他にも恐怖心や警戒心が強い性格の個体は縄張り意識が強くなってしまっている可能性もあります。
理由 5認知症によるもの
加齢とともに脳の機能が低下し、認知能力が低下することを認知症と呼びます。
認知症になると性格の変化や位置の把握能力が低下したり、昼夜逆転の変化が見られます。
夜になると理由もなく遠吠えをしたり、不安感を強く感じて遠吠えをすることがあります。
夜の遠吠えなどは近所とのトラブルの原因になったり、飼い主さんが眠れずに困る場合もあるでしょう。
体の痛みや不安感などが原因となる高齢犬の遠吠えの場合、原因によって対策をとることができますが、理由もない遠吠えなどの場合、鎮静剤などの薬を投与することもあります。
遠吠えしやすい犬種は?
どんな犬種も、性格や環境によって遠吠えする可能性があります。また、自分の置かれた環境で、普段は遠吠えを聞かなかった子が突然するようになる場合もあります。
犬種の中にはその土地にもともと存在していた犬種を交配して、家庭で一緒に生活できるように改良した犬種もいます。
その場合、本能的に存在する野生犬らしさが強く残り、何かをきっかけに本能的な行動をしやすいこともあります。
また、自然が多く野生での生活に近い環境で生活している犬たちは、残された本能が日々の生活の中で強く現れる場合もあり、遠吠えをする様子をよく見かける可能性も高いでしょう。
遠吠えしている時の対処方法
理由 1認知症などによる不安
認知症による遠吠えの場合、理由がわからないこともありますが、昼夜逆転で眠れない、不安感があるなどの原因があることもあります。
不安などが原因となるのであれば、寝る場所の明かりを明るくしておく、飼い主さんが一緒に寝るような環境への見直しをするなども対策の一つになるでしょう。
もし体力の発散が不充分で眠れないなどであれば、ごはんや散歩の時間など生活サイクルの見直しをしてみることも有意義かもしれません。
どうしても夜の遠吠えなどで飼い主さんが困ってしまう場合であれば、かかりつけの先生に相談して精神薬などを処方してみることも選択肢の一つになり得ます。
理由 2慣れない環境にいるための不安
留守番や普段いない場所で、飼い主さんもいないなどの環境の変化で、不安から遠吠えをする場合があります。
見知らぬ人や犬などのにおいや声が感じられることで、より不安になったり、警戒心を強めてしまう可能性もあります。
引っ越しをして新しい家になった、ペットホテルなど飼い主さんのいない環境下におかれている、ペットショップから新しくお迎えした場合などが挙げられます。その場合、周りの環境を気にせず落ち着ける空間を作ってあげましょう。
サークルに目隠しをしてあげることや、壁があるタイプのクッションハウスなどをサークル内においてあげるなどの対策が有意義な場合があります。
見知らぬ人や犬の気配が苦手なのであれば、別の部屋に移してあげるのも良いかもしれません。
理由 3共鳴しているから
何かの音に対して共鳴しやすい犬もいます。
サイレンの音や放送の音、近所の犬の声などはどうしてもやめさせることはできません。しかし、気にならないようにほかの音でごまかすことは可能です。
例えば愛犬のいる部屋のテレビやオーディオなどをつけたり生活音を何かさせておくことで、外の環境の音に注意が向きづらくなることもあります。
サークルの配置を、共鳴する音が聞こえづらい部屋などに考慮するということも対策の一つになり得るでしょう。
他の犬の声に反応してしまう場合、普段からほかの犬の鳴き声に慣らしておくなども、愛犬が反応しにくくなるかもしれません。
理由 4何かを訴えようとしているから
飼い主さんを群れの一員として、自分の要求などを訴えようとしている場合もあります。
サークルから出してほしい、散歩へ連れて行ってほしい、おいしいおやつが食べたいなど個体によって要求は様々でしょう。
確かに遠吠えは犬同士のコミュニケーション方法の一つなのですが、要求がある都度遠吠えをしてしまうと、夜間などは近所のトラブルにもなりかねません。
要求による遠吠えを習慣化させないために、遠吠えをしておとなしくさせるために要求にこたえるなど犬にとってメリットになることをしないことはとても大切です。
遠吠えをしたことによって、自分にとって良いことが起こったと結び付けてしまうと、繰り返すようになる可能性が高いです。
犬の遠吠えによる要求には応えないこと、反応をせずに無視をすることが要求の遠吠えを減らす対策となるでしょう。
理由 5体調不良によるもの
飼い主さんに訴える手段として遠吠えをしている場合、愛犬が自身の体調不良を訴えているのかもしれません。
食欲不振や元気消失、下痢や嘔吐などの目に見えやすい変化であれば飼い主さんも気づきやすいですが、見えづらい違和感に愛犬が気付いていて訴えている場合もあります。
体の痛みや息苦しさ、倦怠感など小さな違和感や負担に気づいて愛犬がサインを発しているのかもしれません。
今まで遠吠えをしなかったのに急に遠吠えをするようになった場合は疑わしい可能性があります。
気付いたら出来るだけ早めにかかりつけの動物病院を受診しましょう。
早期発見をすることで早期治療につながり、愛犬の負担をいち早く軽減してあげられることや健康的に長生きすることにつながります。
まとめ
遠吠えをする愛犬を見て、狼などの祖先からのルーツを垣間見えるため感慨深く感じる飼い主さんも多いでしょう。しかし、時間帯や環境、頻度によってはトラブルのきっかけになってしまうこともあります。
遠吠えは古くからの犬のコミュニケーションツールの一つです。
愛犬が何を訴えようとしているのか、遠吠えをする背景に何があるのかを考えることで、解決の糸口が見つかる場合もあり、有意義な愛犬の発するサインとして飼い主さんも愛犬の状態を把握することができるでしょう。
遠吠えに気づいたら、まずはどんな遠吠えなのかを読み取り、対策を考えましょう。特に夜の遠吠えなどは飼い主さんも眠れず、途方に暮れてしまうケースもあると思います。
そんな時はかかりつけの動物病院の先生など専門家に相談してみてください。たかが遠吠えと考えず、困ったときは専門家と協力しながら遠吠えの背景や対策を考えられると良いでしょう。
Supervisor
葛野 莉奈 かどの りな
麻布大学獣医学部獣医学科を卒業後、横浜市内動物病院や会員制電話相談動物病院、ペットショップ付属動物病院にて小動物臨床に携わらせていただいた後、自身の動物病院を開院させていただきました。
現在、院長として臨床の現場で従事する傍ら、わんちゃんや猫ちゃんに関するコラムを執筆させていただいています。
プライベートでも、病院で一緒に生活する猫たち3匹と家庭でも愛犬たち10頭とともに生活しています。