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三浦 健太さん
日本で初めてどんな犬でも参加できるドッグイベント『ワンワンパーティ』を開催し、1994年NPO法人ワンワンパーティクラブを設立。飼い主さんの身近な相談相手であるドッグライフカウンセラーの生みの親でもある。現在も全国各地でイベントや教室・セミナーを多数開催する一方、毎年秋に国営昭和記念公園で開催される『シッポフェスタ』の制作総責任者も務める。著書の『犬が教えてくれたこと』は10万部のベストセラー。
愛犬家から支持される、三浦先生の著書はこちら
10犬10色。愛犬との絆結びは、「知ること」から。
その褒め方愛犬は本当に喜ぶ褒め方ですか?
愛犬のことをどのくらい知っていますか?
愛犬を褒めてくださいと言われた時、皆さんはどのようにしていますか?とにかくいっぱい撫でるという方も多いと思います。では、どうしてそこを撫でることにしたのですか?と、聞くとほとんどの方は、『えっ?ただなんとなく』と答えます。犬にも個性があり、10犬10色。個性は犬によってまちまちです。愛犬にとっては、飼い主さんのいつもの何気ない褒め方かもしれないのですが、強すぎたり、反対に弱すぎたりしていないでしょうか?また、撫でる場所も本当に触って欲しい場所なのでしょうか?飼い主さんが一生懸命、愛犬を褒めているつもりでも、犬にとって実はそこは触って欲しくない場所なのかも知れません。
犬に気持ちを伝えるのであれば、犬の反応からどこを触ると喜び、どこに触れると興奮し、うっとりする場所や触り方はどれなのか?まずはいろんな場所を触って、愛犬の表情や動作を観察すべきなのです。そのようにして自分の犬について、その個性や特徴を知れば、犬との暮らしはより楽しくなり、心の絆も深まります。その上で飼い主さんに時間の余裕があれば、犬と向き合い遊びながら、犬の気持ちを大事にして、しつけなどに活かせば、より快適に、より素早く効果がでるでしょう。
最近では、報酬としておやつを使う方もいらっしゃいますが、美味しいオヤツを絶えず貰い続けている犬は、心の関心の多くがオヤツに捕らわれ、飼い主さんの喜ぶ表情や心のつながりが薄くなります。中には飼い主さんが手に何も持っていなければ、言うことを聞かなくなる犬もいます。オヤツをあげること自体は悪いことではないのですが、動作のすべてに物的な報酬を与えることは、お駄賃なしには何もお手伝いしない子供を育ててしまうことと同様の結果になることもあります。また、オヤツにしか関心のなくなった犬は、外出時に飼い主さんの持っている物より更に美味しい物を持っている人がいれば、その人の言うことを聞くようになってしまいます。
基本的なしつけの「おすわり」や「おいで」を覚えさせたいという飼い主さんは多いのですが、熱心になるあまり、出来なければうまくいかない自分を責めたり、時には愛犬がバカな犬だとけなしたりしてしまう方もたまにみかけます。
もし、オスワリやオイデがうまく出来なくても、しっかりとリードを持ち、危険に注意していれば事故にはあわずに済みます。犬と暮らす上で大切なのは犯罪を犯させないこと(他人に迷惑をかけない)、犬を危険に晒さないこと(命をまもる)、そして家族の負担にならないこと(ライフスタイルに合わせてもらう)です。
愛犬のお悩み解決の糸口は「観察」。
しっかり愛犬を見つめてみよう。
飼い主さんが愛犬にしつけをしたい、お悩みを解消したいと、考えた時、最初にすべきは、アクションではなく観察です。犬の習性や個性に合わない方法では、いくら努力しても効果は出にくくなります。反対に愛犬の個性を知り、心を感じ取れる方にとっては、しつけや問題の解決はそう難しいものではなくなります。飼い主側の要望をただ伝え続けるのではなく、観察力を高めて目の前にいる犬をしっかり見ることが大事なのです。人間の子育てでも、文学や音楽の好きなお子さんをプロのスポーツ選手にしたいと一生懸命に育ててもなかなかその通りにはなりません。子育てでは親が一方的にこうしたい、こうさせたいではなく、その子の得意なことや性格を見極めることが最も大切です。その個性をどう伸ばしてあげるのかが子育てではないでしょうか。犬との付き合い方も同じです。
しつけが上手くいかないと悩んでいる飼い主さんの多くは「うちの犬はバカなんです」と言う方もたまにいますが、生まれつき『バカな犬』は一頭もいません。飼い主さんが「バカな犬」というラベルを張ってしまっていることが成長を止めてしまうのです。愛犬の将来の可能性を信じてあげてください。必ず、どんな犬にも良いところがたくさんあります。よく見て発見してあげてください。
噛む犬、吠える犬には理由があります。叱ってやめさせれば問題が解決するわけではありません。いずれも犬にとって楽しいこと、楽なことではないので、原因を取り除いてあげることが大切です。まずはよく観察し、何に吠えているのか、なにに怒っているのかなど原因を探すことからはじめてください。
生まれつき臆病な子もいます。外へ出ることを怖がった場合、どうしますか?人間の場合は、なんとか学校へ通わせ、社会生活にも慣れさせるでしょう。犬も同じではないでしょうか。オートバイが通らない道もなければ、大きな犬がいない世の中はあり得ません。毎日の散歩でも避け続けられるわけでもありません。誰もいない山の中で暮らしているのでなければ人間社会のルールを、日常を覚えてもらい、慣れてもらう必要があります。例えば「うちの子は大きな犬が苦手」という話を聞きますが、ひとつには飼い主さんが大きな犬に対して警戒しすぎていることが原因の時もあります。飼い主さんが『あっ、大型犬だ』と心の中で警戒した瞬間に、隣の愛犬は飼い主さんの心の動揺を体臭の変化や心臓の音から知ってしまいます。そして、より怖くなってしまっているケースもあります。できれば「大丈夫だよ」と静かに語りかけることだけで犬が安心することもあるのです。
「マテ」「おすわり」より、愛犬に話しかけよう。
愛犬の個性を知り、心の絆を育てよう。
人と犬の歴史を振り返ると、犬を使ってきた時代は長いのですが、パートナーとして暮らすようになってからの時間はまだ短いのが現実です。ですから犬を家族の一員として育てる能力が未だ人間側に備わっていないことを認識する必要があります。本来、犬は本能的に観察力が強い生き物です。全神経で飼い主さんを観察して、考えていることを感じようとしています。犬は言葉をしゃべれませんが、声に込めた感情を受け取る感受性は高いので、テレビのこと、推しのこと、家族の一員としてなんでも話しかけましょう。そうすることで犬との絆はより深まります。
今まで何万人もの飼い主さんと犬を見てきた結論として、「すわれ」「まて」「静かに」「イケナイ」など要望ばかり押し付ける飼い主さんが意外と多いのです。真の家庭犬とは、飼い主さんとその家族に対して、思いやりがあり、一緒に暮らしていることに幸せを感じている犬だと思います。愛犬の個性を知り、心を感じ、共に生きる喜びを持つ飼い主さんには、いつか言葉が話せなくても、考えていることや、して欲しい事が正確に伝わる心の絆が生まれます。日々の暮らしの中で、指示やテクニックを駆使しなくても、普通に周囲に迷惑をかけず、家族の負担にならずに愛し、愛され続ける犬こそが理想の『家庭犬』なのではないでしょうか。
まずは あなたの愛犬はどこをどう触ると喜び、どこをどう触るとうっとりするかを探してください。
そして、もうひとつは家族みんなで話し合い、愛犬の良いところをいくつか見つけてください。
そこから真の愛情の第一歩が始まります。