東京農業大学教授の増田先生と一緒にお届けする、ワンコともっと良い関係を築くためのヒント。ワンコから見えるモノゴト、ワンコの考え方、感じ方など、ワンコたちに見えている世界を私たちにも見せてくれる増田先生シリーズ「ワンコno世界」。
愛犬がうんちをする時の姿勢や表情を見るのが好きな飼い主さんも多いのではないでしょうか?愛犬は何をしていてもやっぱり愛おしいですよね。
今回は、とても多い愛犬のうんちをする時の不思議行動についてです。犬によってもうんちスタイルには個性があると思いますが、その中でも共通して多い声を取り上げ、増田先生に伺ってみました。犬は一体どんな気持ちなのでしょうか?みていきましょう。
Advisor
増田 宏司教授
東京農業大学 農学部 動物科学科 教授。東京大学大学院を修了後、同大学院で学術研究支援員を務め、2006年から東京農業大学で研究と学生への指導を行う。研究だけでなく、飼い主向けのカウンセリングやワンコのしつけに使えるグッズの開発など、ワンコと飼い主が幸せに暮らせる社会を築くため、幅広く取り組んでいる。
愛犬がうんちをする際、決まってこちらを振り返りじーっと見つめてきます。これは一体どんな気持ちなのでしょうか?
うんちの時に、ジーっとこちらを見つめてくる姿は、私にとって愛犬を最も愛おしく感じる瞬間です(今回はうんちがテーマなだけに、主語をはっきり書いておかないと、大変な誤解を生みそうですね笑)。
この行動の理由ですが、これだ、という結論を得るには至っていません。結論が得られない理由はおそらく「個々の犬によって、その時の心理が(わりと)異なるから」だと思います。
今のところ、うんちがうまくできたら褒めてほしい、逆に叱られないか気にしている、見ないで欲しい気持ちから、ちゃんと「見ていないか」を確認する、この場所でうんちをしていいかどうかを確認するために、飼い主さんに視線を送っているなどの理由があるようですが、個人的に最も信頼している理由は、代わりに見張っていてほしい(無防備な状態ですから)、というものです。
また、実は飼い主さんの方が先に犬を見つめ、結果、見つめ合いになっていることもあるようです。
愛犬がうんちをする際に毎回、ウロウロとする場所を吟味するように行ったり来たり。何を吟味して場所を決めているのでしょうか?
これは、安全の吟味(すなわち安全確認)だと言われています。野生のなごりとも言われるこの行動、排泄の際に無防備になってしまい、この時に攻撃を受けると致命的ですので、念入りに安全を確認していた行動が、現代の犬に受け継がれているものとされています。
ただほとんどの場合、現代の犬の安全は飼い主さんによって確保されていますから、安全を確認する必要性は昔よりも薄れてきていると思われます。
私の考えでは、現代の犬におけるこの行動は「非意図的な安全確認(≒ただのなごり)」と「ガマンの限界(≒切実)」のタイミング合わせだと思っています。
屋外飼育、神経質である、同居動物が多い犬などにとっては、安全な排泄場所の確保がそれなりに重要かもしれませんので、この行動を入念に行うことがあるかもしれませんが、この場合も、安全確保というより、落ち着いて排泄できる「状況」を探す意味合いが強いのではないかと思います。
「うちの愛犬はうんちをする前にダッシュをします。」「うちの愛犬はうんちをした後猛ダッシュします。」この行動はどんな気持ちからきているのでしょうか?
これらの行動、巷では「トイレハイ」と呼ばれているそうです(初めて知りました笑)。行動の意味ははっきりとは分かっていませんが、うんち前のダッシュは便意からの興奮、うんち後のダッシュは排泄後の興奮、あるいはうんちが残っている違和感からの逃避(逃げる)ではないかと予測されています。
人間の子どもが、トイレ前後にやたらとうろうろすることがありますが(少なくとも私はそうでした)、その時の行動のみならず、排泄欲に支配され、まったく落ち着けない、どこか切ない気持ちと、排泄後の解放感(少なくとも私はそうでした)といった点では、犬も人間(子ども)も、気持ちはほぼ同じと考えられるのではないかと思います。
またもしかすると、排泄後のダッシュは、排泄中の無防備な状態や姿勢からの迅速な脱却、という意味があるかもしれませんが、落ち着かない排泄前の気持ちを犬に聞いても、「もう!こんな時に!」と返ってくるだけかもしれません笑
うんちをした後に、お尻や自分のうんちの匂いをクンクンしています。これはなぜなのでしょうか?
これは簡単に言うと、健康チェックです。人間でも、うんちの状態は健康を測るバロメーターの一つですが、犬についても同じと言っていいでしょう。人間がうんちの形や色、柔らかさなどを目で見て確認するように、犬はうんちの匂いを嗅いで、いつもと同じかどうかを嗅ぎ定めているのでしょう。
匂いの種類によっては人間の1億倍の精度を誇るとも言われる犬の嗅覚ですから、もしかするとこれほど確かな確認方法は、他にないかもしれませんね。
ちなみに、特にオスが排泄後、匂いを嗅いだあと自分のうんちに後ろ足で砂や土をかぶせているように見えるあの行動は、うんちを隠しているのではなく、むしろ逆で、自分の匂いを拡散させている、マーキング(むしろ挨拶)だと言われています。足の裏の汗腺や被毛についている自分の匂いを砂や土に混ぜて、遠くに飛ばしているのです。それほど犬にとって、匂い(嗅覚)を使ったコミュニケーションは重要なのでしょう。