【獣医師対談】
獣医師としてワンコの幸せを守る|後編

Vol. 02 Doctor’s Cross Talk - 獣医師さんが教えてくれるかかりつけ病院の選び方、上手な診察を受けるコツ

前編では不妊去勢手術の必要性や麻酔の安全性、飼い主さんとワンコの健康を守る責任についてお話しいただいた獣医師の藤間友樹先生と藤澤俊吾先生による対談の後編です。
今回は、かかりつけの動物病院を選ぶ方法や上手に診察を受けるためのコツなどお話しいただきました。1人でも多くの飼い主さんに知っていただきたいお話ばかりですので、前編と合わせてお読みください!

01

かかりつけ医に
求められること

かかりつけの動物病院を選ぶ基準は色々あると思いますが、藤澤先生は何がポイントだと思われますか?

藤澤先生(以下、澤) 僕は地域のいわゆる一次診療の動物病院に求められるのは診断能力がほぼ全てだと思っているんです。それは全ての獣医師に求められていることだと考えていますし、自分ももっと診断技術を高めたいと思っています。
エコーやレントゲンなどの画像診断や、血液検査などを組み合わせることで、処置に対して想定されるリスクもある程度までは検出できるようになります。もちろん求められればどんなに難しい手術でもやりますけれど、動物を危険に晒してまで自分が全ての処置をしようとは思わないですね。
専門外の治療については然るべき専門の獣医師がいる動物病院を紹介することがかかりつけ医には求められていると考えています。

藤間先生(以下、間) 目が痛そうと連れて来られた犬でも、体温を測ってお腹やリンパを触って・・・まずは全体を診るよね。普段の様子を聞いてみると、実は足が痛くてよろけてしまって目をぶつけていたという事もあったし。
主訴を聞いて原因を突き止めることが基本だよね。診断時には口腔内の様子を診るんだけど「動物病院へ連れて行くたびに歯のことを言われる!」とネガティブに書き込まれたりもするんだけど(笑)

でも実際に歯石が溜まっていたり、放置するとワンコの健康に良くないから仰っているんですよね?

間 はい、でも皆さん麻酔に対する抵抗が大きいですね。
「うちの子はもう10歳を超えているのに麻酔なんて!」と言われてしまいます。だからシニアになる前に早めに除去しておこう!と折を見て言っているんですけどね。

澤 残念なことだけれど、お金儲けのために治療を提案していると受け取られているなと感じることもあるよね。面と向かって言われることはほとんど無いけれど。

間 あるね。結果的に14,5歳になって歯を全部抜くような大手術が必要になってしまう事例もあるからね。犬への負担も大きいし、費用も高額になってしまう。
自分では一から伝えているつもりでも、限られた時間の中で納得してもらえなくて、勘違いや思い込みのまま進んでしまう事もあるからなぁ。

02

動物病院に行けば
病気は治る?

澤 気をつけているのは「様子を見てください」という言葉が『大丈夫』と受け取られないようにしているかな。「経過を見てください」も『治った』ではないんですよって。
今は大丈夫でも、明日には危険になる可能性もあるから経過を見て欲しい、それを勘違いされないように伝えているかな。

間 病院に連れて行くとすぐ治して貰える思っている方も多いんですよね。注射した、薬を飲ませたから病気が治るはずだと。
以前、夜間救急で働いていた時のことなんだけど、昼間に別の動物病院で診てもらっている犬たちが連れて来られるのね。状態を聞くと「病名は聞いていない」「何の薬を飲んでいるか分からない」「でも治らないから何とかして欲しい!」という飼い主さんが少なくないんですよ。詳しく聞くと、それは薬や注射ですぐには治らない症状の犬たちが多くて。
かかりつけ医の先生が「すぐには良くならないよ」と言っておいてくれれば飼い主さんも救急に来なくても済むのになと思ったので、自分が開院してからは気をつけています。

03

動物病院との
上手な付き合い方

多くの飼い主さんは、ワンコを健康で長生きさせるために、動物病院と良い関係を築いておきたいと考えていると思います。獣医師として、どういう風に動物病院を『使う』ことをお勧めしますか?

間 治療したけれど効果が出ないという事実も診断するためには貴重な情報だということは知っておいて欲しいです。

澤 後医は名医って言うよね。

間 そう。皮膚病の犬に、これを食べさせれば治る!と言い切れるフードなんて無いんです。試してみて効果が出れば続けるし、出なければ別のを試すしかない。
他の病気についても同じ事が言えるんですよ。飼い主さんが愛犬の日々の様子を見守ってくれて、その変化を獣医師に伝えて初めて良い治療が出来るんだという事は理解してもらいたいですね。

人のお医者さんでもインフォームドコンセントと言われて久しいですが、1頭にかけられる診療時間を考えると、そこまで徹底するのは難しいのでしょうか?

間 インフォームをきちんとしたいけれど、愛犬の具合が悪いと焦ってしまうのか、最後まで説明が終わらないうちに「そう言えば〜」って別の話が出てくる飼い主さんも少なく無いんです。
治療の参考にとたくさん情報を伝えようとする気持ちはわかるんですが。

澤 僕たちは今診察している病気に関連する話が聞きたいんだけれど、飼い主さんからは不安に思っていることがどんどん出てくるんですよね。僕は「今日はこの具合が悪い件に集中しましょう」と伝えています。
一方で、病気に絞ったYes 、Noで答える質問だけじゃなくて、「最近の様子はどうですか?」といった質問もしますね。それである程度は飼い主さんに話してもらうようにしています。

間 自分が具合悪い時に病院に行って、ほとんど症状も聞かれないで「風邪ですね」と言われると・・・ってなるもんね。

澤 雑談にヒントがある場合もあるからね。だから待合室いっぱいに飼い主さんが待っていても、忙しいオーラを出さないように気を付けているかなぁ。

間 最後に何か心配なことはないですか?と聞くと、そういえば〜と病気のきっかけになるような話が出てくることもあるからね。散々聞いたのに〜、それを先に言ってよ〜ってなる事もあるよね。

04

診察を受ける際に
心掛けること

犬の具合が悪そうで動物病院へ連れて行きました。まず飼い主が伝えるべきことはなんでしょうか?

間 基本ですが、5W1H(Who(だれが)When(いつ)Where(どこで)What(なにを)Why(なぜ)How(どのように))ですね。
獣医師は神様じゃないから、触れば全てわかるなんて事は無いんです。ヒントをいっぱい集めて、答えを導き出す専門家なんですよね。
でも飼い主さんって愛犬がどんなフードを食べているのか詳しく答えられない人も多いんですよ、それも重要なヒントになるんだけれど。

澤 普段世話をしていない人が連れてこられると、日常の様子が分からないので診断し難いんですよね。よくあるのが、忙しい奥さんに言われて、お休みだった旦那さんが犬を病院まで連れてくるんだけど、ほとんど犬のことを知らないケース。見るからに具合が悪い場合は、情報がなくても何を治療すべきか分かりますけれど。
普段世話をしていない人が犬を動物病院へ連れてくる際は、お世話している方に5W1Hのメモを書いてもらって、それを持ってきてもらいたいです!

間 例えば、下痢は病名じゃなくて、症状なんですよね。なぜ下痢になったのかは検査をしないと分からないんです。

澤 そうだよね。下痢に対しても、いつから?頻度は?フードを変えたなどのきっかけは?初めての場所へお出かけしたなどストレスは?ということを聞かないとね。
あと出来れば症状が出た時の写真があれば診断は付きやすいかなと思います。

05

かかりつけ医の見つけ方

澤 まずは自分に合う獣医師を見つける事が大切かな。家から近いというのはかなり重要な要素ですが、この先生とは合わない!と思ったら、別の動物病院を選ぶことも検討されれば良いと思います。
とにかく治療費を安くしたいという飼い主さんと、しっかり検査したい獣医師はミスマッチですから。
今のかかりつけの獣医師さんと今ひとつ合わないなと感じている飼い主さんは、犬が健康な時に、健康診断を受けに他の病院へ行ってみて、病院の雰囲気とか獣医師との相性を見極めてみることをお勧めします。

間 そうだね、悪くなる前に一度来てもらえるといいよね。
電話で、うちの子が今こういう状態なんですが病院に連れて行った方が良いでしょうか?と聞かれる事もあるよね。どうしてる?

澤 以前は、ご心配でしたら連れてきてくださいと言っていたんだけど、これは間違った対応だと何かで読んで。ご心配でしょうから連れてきてあげてください、と答えるようにしているかな。

間 なるほど、勉強になるなぁ。
電話で相談してくる飼い主さんは獣医師からのお墨付きが欲しいんだよね。病院に来なくていいよと言って欲しいんだなって感じる。

澤 みんな心配だからね、大丈夫と言って欲しい気持ちは分かるけれど、これまで自分が診たことのない犬のことを、電話で大丈夫とは言えないよね。

間 飼い主さんからすると毎日忙しいし、犬も嫌がるから病院に連れて行くのが可哀想だし、お金もかかるし、行かずに済むなら・・・ってことだよね。
ただ検査をしても何も悪いところが無い事もあるんだけど。それはそれで「何もなくて良かったね」としか言えないし。

かかりつけ医を幾つか持っておくと、一つの病院がお休みでも診てもらえるなど安心という話も聞きますが。

間 個人的にはお勧めしません。犬の変化が時系列で見難くなるんですよ。
『この前他の病院で検査した時は・・・肝臓か腎臓が悪いと言われて』という飼い主さんの話だと、結局のところ何の診断できませんから。
また、腎臓はA病院、心臓はB病院みたいに分けていると、結局体の中は繋がってますから影響し合っているのに、それも見え難くなります。他の病院ではこう診断されたと聞くと、それを否定する事もできませんし。
うちの病院じゃなくても良いから、信頼できる病院を見つけて!って思っちゃいます。

澤 次々と医療機関を渡り歩く「ドクターショッピング」になっちゃうよね。
セカンドオピニオンも、なかなか本来の意味で行われる事は少ないよね。診断が気に入らないから他の動物病院へ行くというのは全然違うので。
そもそもは検査データや獣医師の所見を持って、その診断が正しいのかを別の専門家に聞くのが本来なんだけど、結局かかりつけ病院への愚痴とか不信感みたいな話になってしまうから。
本当の意味でのセカンドオピニオンは推奨はしているんですけどね。

間 でも、別の診断のまま進めてたら・・・という事もあるよね。うちに来てくれて命拾いしたねという犬もいるから。

澤 獣医師の診断能力や技術力が、残念ながら一律に高いとは言い切れない状況はあるよね。ちゃんと勉強していかないと、世代に関わらず置いていかれるよと思います。

間 獣医師には、人間のお医者さんのようなインターンの制度もないし、誰でも一度資格を取れば動物病院で診察を始められちゃうから。飼い主さんが動物病院ジプシーになる背景は、その辺りも原因かなと思うけれど。
前に通ってくれていた犬の話なんだけど2つ病気を持っていて、片方が良くなると片方が悪くなってしまうという状態で。絶妙なコントロールでバランスを保っていたのに、うちの病院が休みの日に別の動物病院へ行ったら『そんなにたくさん薬を飲むなんて体に悪い!』と言われてしまって。飼い主さんが薬を飲ませるのをやめたら、3日で亡くなってしまったんです。
そのアドバイスをした獣医師に教科書を見せながら、どうすればその状態を保てましたか?と聞きに行きたかったくらい。

澤 普通はそんなこと言えないよね。時々、ちょっと薬が多過ぎる犬もいるけれど、そのお陰で状態をキープしてるのかな?とも思うから。そういう場合は、一番影響が少なそうな薬から1つずつやめて、様子を見ていくのが普通だよね。

間 別の犬だけど、これから生検をしましょうという話になっていた時に、他の病院では触っただけで癌だと診断されたと電話があって。お腹触っただけで、それって本当なの?って思うよね。
もちろんその可能性は高いから生検をしようと話していたんだけれど、言い切れるの?って。飼い主さんからすればスーパードクターかもしれないけれど、非科学的だよねって。

06

今後取り組みたいこと

澤 うちの病院には保護活動に熱心なスタッフがいて、病院にも保護犬の等身大パネルを設置して、犬を家族に迎え入れる際には保護犬という選択肢があることを広めているんだけれど、一方で保護動物やボランティアさんだけのために動物病院が存在している訳ではないので、その距離感は常に悩みますね。

間 うちの病院にも動物ボランティアさんが飼い主のいない猫を連れて来ることがあるけれど、僕はきちんと一般的な検査を勧めるかな。
簡単に手術をしてとか、薬だけ出してと言われても、それは出来ませんって対応するしかないよね、責任があるし。

澤 地域猫の活動をしている方にはできる限りの協力をしているし、理解も出来るんだけれど・・・難しいよね。

間 僕は動物病院が中心にあって、その隣にあるドッグランではしつけ教室が行われているような複合施設をいつか作れたらなと考えています。
そこに自分がアウトドアブランドとコラボして作った犬の洋服やグッズが販売されているような。そこまで大きな規模じゃなくても良いけれど、その中に保護施設があるみたいなイメージですかね。

澤 やっぱり健康に関する発信が一番得意で、獣医師としてやらなくちゃいけないことだから、今後もワンコnowaでいろんな発信をしていきたいですね。

間 正しい情報っていうのは常に変わっていくし、こうやって獣医師同士で意見交換できると安心して飼い主さんにも伝えていけるよね。

日々、ワンコたちの健康を守る最前線でお忙しいと思いますが、またこのような機会を設けさせていただきたいと思います!今後とも、よろしくお願いします!!

Profile

藤間 友樹 院長

バンブーペットクリニック院長。大学卒業後、都内の動物病院などで経験を積み、2014年にバンブーペットクリニックを開院。飼い主に病状や治療計画、投薬などを丁寧に説明することをモットーとしている。飼い主の間では「手術の痕がきれい」と評判。

藤澤 俊吾 院長

坂の上の動物病院院長。大学卒業後、茨城県および東京都の動物病院などで経験を積み、2017年に坂の上の動物病院を開院。“あなたの愛しい動物にとっての専門医”を目指し、丁寧でわかりやすい説明、適切な診断、最良の治療の提供を心がけている。

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