【獣医師対談】
獣医師としてワンコの幸せを守る|前編

Vol. 01 Doctor’s Cross Talk - 獣医師さん視点から見る「ワンコの幸せ」。その中に新しい「気づき」がたくさんありました。

大学時代は同級生として共に獣医学を学び、
現在はそれぞれに動物病院の院長として多くの犬たちの健康を守りつつ、
nowaチームのメンバーとして様々な情報を発信くださっている藤間友樹先生、
藤澤俊吾先生のお二人に獣医療について、飼い主さんとの関係について語っていただき、
ワンコを幸せにするためのアドバイスもいただきました。

01

どうして健康な犬に
手術をするの?

編集部(以下、編) 先日、藤間先生から不妊去勢手術をした後に、エリザベスカラーを付ける必要が無い手術法があると伺って、とっても驚いたんです!私たちが知らない情報をもっと教えていただきたくて、獣医師のお二人にお集まりいただきました。

藤間先生(以下、間) それは皮内縫合のことですね。一般的な単結紮とは違い、縫合糸が皮膚の外に出ないんです。犬が糸を引っ張って傷口が開いてしまう危険がありませんから基本的にはエリザベスカラーを使う必要がないんです。
僕が開院するまで働いていた動物病院では皮内縫合が基本だったのと、単結紮の方が縫っては糸を切るを繰り返して、手間が掛かるように感じるんですよ、僕の場合は。どうしてみんな皮内縫合にしないのかな?って思ってます。
最近は、皮内縫合で手術をして欲しいとわざわざ遠くから通ってくれる方も増えてきました。

藤澤先生(以下、澤) 僕も開院した当時は不妊去勢手術でも皮内縫合をしていたんですが、オスの柴犬が傷跡をしつこく舐めて、真っ赤にただれてしまったことがあるんです。それ以来うちの病院では基本に戻って皮膚縫合です。オスにはエリザベスカラーを付けていますね。抜糸するまでの、一生のうちたった7日間ですから我慢してもらっています(笑)メスにはエリザベスウェアを動物病院から無料でレンタルしています。ちなみに、暴れる大型犬とか地域猫に不妊去勢手術を行う場合は、抜糸が出来ないので皮内縫合にしています。

編 なるほど。そもそも愛犬に不妊去勢手術を受けさせるメリットを改めてお聞かせください。

澤 メスの場合は乳腺腫瘍、子宮・卵巣疾患を防ぐなど不妊去勢手術は疾患予防の意味合いも大きいんです。つまり不妊手術をしないでシニアになると、大きな手術が必要になる可能性が高くなってしまいます。

編 ワンコに手術を受けさせることが心配な方もいるかと思うのですが・・・

澤 不妊去勢手術をした後に、飼い主さんから「傷跡が小さいんですね」と驚かれることもあります。切る範囲が小さい分だけ身体への負担も小さくて済むんですよ。

間 それに手術をしたら当分は安静にさせなきゃいけないと思い込んでいる方も多いんですよ。退院したらいつも通りの生活を普通にさせて良いと伝えると「本当に!?」と驚かれます。

澤 うちの動物病院では退院時に緊急連絡先の電話番号をお渡ししています。何か心配なことがあったらいつでも電話くださいと。それで安心して不妊去勢手術を受けて貰えるなら、犬たちのためになりますから。

02

不妊去勢手術…
麻酔の安全性は?

編 どのくらいの飼い主さんが、不妊去勢手術の必要性やメリットをご存知ですか?

間 7割くらいかなぁ。。。ペット情報サイトで知ったという人も多いですよ。知らないとか、考えたことがないという飼い主さんでも、メスの4頭に1頭が不妊手術をしないと乳腺腫瘍になるというデータについて話すと、うちの動物病院ではメスの場合、9割以上の飼い主さんが手術を選ばれますね。

澤 地域差が大きいでしょうね、飼い主さんの知識や意識については。藤間先生の病院がある東京23区と、以前僕が働いていた地方では、そもそも犬に対する扱い方が違うので。長毛種を外飼いしていて、具合が悪そうだと動物病院に連れて来るのだけれど、皮毛が鱗のように固まっているような事も珍しくなくて。その飼い方が犬にとって良くない事だとも思っていないんですよ、残念ながら。
今の病院がある横浜でも「これまで他の動物病院で不妊去勢手術を勧められたことがない」という7、8歳の犬の飼い主さんも多いんですよ。あと近所の人から「昔、犬に手術をしたら麻酔の事故で死んでしまった」という話を聞いて、敬遠する人もまだまだ多いですね。

間 稀なケースが一般化される事はよくあるよね。ネットの情報でも多いし・・・。麻酔による事故が起こる危険性は1万分の1なんですけどね、0では無いけれど。そういう場合は、飛行機が絶対に落ちない!とは言いきれないのと同じだと僕は説明しています。

澤 うちでは子犬が連れてこられると、次のワクチンがいつ頃で、永久歯が生えてくるのは・・・と今後のスケジュールを説明するんですが、その時に「不妊去勢手術はこのくらいの時期ですね。手術しようと思っていますか?」と聞いています。悩んでいる人にはメリットを説明していますね。

間 うんうん、うちもそういう話し方するなぁ。
ただ、手術自体を可哀想と思う方や、どうしても手術はしない!という方もいますから無理強いはしませんよ。それで動物病院に通うことを止められると犬の健康のために良くありませんから。

03

ワンコの幸せを守ることは
飼い主さんの責任

編 動物病院へ通って予防をする飼い主さんは、全体の4分の1くらいだと聞いたことがありますが・・・

間 犬に毎年ワクチンを打つのは獣医師の金儲けなんでしょ、って言われることもありますが・・・ワクチンは先人たちが研究開発して犬の寿命を伸ばすことに大きく貢献しているんですよ。なのに悪者扱いされるとやり切れない気持ちになりますね。このコロナ禍で世の中がこんなにワクチンを待ち望んでいるのに、って思います。
もちろん安全性は100%ではないのは事実だし、個体だけを考えれば必要無い場合もあるのも事実ですが、地域を守るという観点で考えるとやっぱりワクチンは必要なんです。
フィラリア症予防なんて1度もした事がないけれど陽性になっていないという方もいらっしゃいますが、それは周りの他の犬たちがきちんと予防しているから、フィラリア症を持った蚊が居なかったという事なんです。
狂犬病予防注射については、災害が起きた時にきちんと接種していないと同行避難できても避難所では犬は隔離しなくてはいけません。災害時でも愛犬と一緒に居たいと考えるなら狂犬病予防注射はマストです。もし日本に狂犬病が入ってきたら、予防接種していない犬はどうなるのか・・・在庫が十分にあるのか?と考えたらパニックになりますよね。
それに変な言い方になるけれど、予防しないで重病になった犬の処置の方が動物病院にとってはお金になるんです。不妊去勢手術よりも乳腺ガンの手術の方が費用が高いんです。でも犬のことを思うから予防できる事はしっかりやってもらいたいんです。

澤 何もしなくても、安らかな最期を迎えられると思っている人が多いんですよね。
呼吸器系の病気の場合、診断がついた時点でまだ元気だけれど、家族で安楽死のことも考えておくように伝えています。近い将来、その選択を迫られるようになるので・・・
と言っても、そういう告知をするのは年に1回くらいかな。

間 そうだね、酸素室にずっと入っていないと生きられない犬の苦しい様子を見るとね・・・。みんなで頑張って手を尽くしているけれど、この状態を改善することが難しい時は医療としての安楽死も選択肢に入れるべきだよね。
「かかりつけの動物病院で断られたので安楽死をして欲しい」という相談を受けることもあるけれど、自分がこれまで関わっていないのに、それを受け入れることは難しいよね。どうしても安楽死をしないという主義の獣医師もいるから、そういう事が起こるんだけど・・・。

澤 安楽死をするのは経緯を把握しているかかりつけ医じゃないと出来ないよね。それまでの飼い主さんとの信頼関係や、決断に至るまでの会話があって初めて選択肢として安楽死が出て来るものだと思うから。

Profile

藤間 友樹 院長

バンブーペットクリニック院長。大学卒業後、都内の動物病院などで経験を積み、2014年にバンブーペットクリニックを開院。飼い主に病状や治療計画、投薬などを丁寧に説明することをモットーとしている。飼い主の間では「手術の痕がきれい」と評判。

藤澤 俊吾 院長

坂の上の動物病院院長。大学卒業後、茨城県および東京都の動物病院などで経験を積み、2017年に坂の上の動物病院を開院。“あなたの愛しい動物にとっての専門医”を目指し、丁寧でわかりやすい説明、適切な診断、最良の治療の提供を心がけている。

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