1989年4月12日に国際盲導犬学校連盟が発足したことを記念して、毎年4月の最終水曜日は「国際盲導犬の日」に制定されています。そのタイミングで、「盲導犬」について知ってみませんか? NPO法人日本補助犬情報センターの橋爪智子さんに、教えてもらいましょう。
Profile
橋爪智子さん
NPO法人日本補助犬情報センター専務理事兼事務局長。1997年にAAT(Animal Assisted Therapy)に出会い、ボランティア活動を開始。2000年からは京都大学経済研究所勤務しながらボランティア活動を続け、身体障害者補助犬法が成立した2002年より現職。
INDEX
補助犬について
「補助犬」ってなに?補助犬にも種類がある?
日本補助犬情報センターにも入っている「補助犬」とは、2002年5月に公布された「身体障害者補助犬法」の公的認定を受けた盲導犬・介助犬・聴導犬の総称です。
盲導犬
視覚に障害のある人の歩行をサポートするワンコ。全国で861頭が実働しています(2021年3月31日現在)。
介助犬
手足に障害がある人をサポートするワンコ。全国で57頭が実働しています(2021年10月1日現在)。介助犬のお仕事は、落としたものを拾う、指示したものを持ってくる、ドアの開閉、衣服の脱衣補助、車いすの牽引、部屋の電気やエレベーターのスイッチ操作など、多岐にわたります。
「1人暮らしの家で転んでしまったら助けを呼べない」「外出して物を落としたら拾えない」といった不安を抱える肢体不自由者の方はたくさんいます。ものを拾ってくれたり、携帯電話を持ってきてくれたりする介助犬がいれば、不安が解消され、障害者の方が次のステップに進む大きな支えになるのです。
聴導犬
聴覚に障害がある人をサポートするワンコ。全国で61頭が実働しています(2021年10月1日現在)。聴導犬のお仕事は、チャイムの音や電子レンジの終了音、お湯の沸いたやかんの音、携帯メールやLINEの着信音を教え、音源に誘導すること。外出時は、後ろから走ってくる自転車や車の音も教えます。
聴導犬のもう1つのお仕事は、聴覚障害を“見える障害”に変えることです。聴覚障害者の方は、周囲から障害があると気付かれにくいため、非常時にサポートを受けられないことがあります。しかし、「聴導犬」と書かれたケープを着たワンコがそばにいれば、耳が聞こえないことがわかりますよね。例えば、電車内で緊急アナウンスが流れた時、聴導犬と一緒にいる人に対して、周りの人はアナウンスの内容をメモして伝えるというサポートができます。
「身体障害者補助犬法」ってなに?
「身体障害者補助犬法」とは、身体障害者の自立と社会参加をサポートする補助犬の訓練や認定制度をルール化するために制定された法律です。2022年5月で、成立20周年を迎えます。
補助犬になるための特別な訓練を受け、法律で定められた条件をクリアしたワンコは、パートナーとなる障害者の方と一定期間の共同訓練を受けた後、認定試験に合格してやっと補助犬として活躍できます。
また、補助犬ユーザーとなる障害者の方にも、ワンコの衛生・健康管理の義務が生じます。障害があるからといって、ワンコの世話をしなくていいわけではないのです。ワンコを飼っている家庭と同じように、ごはんの準備をして、排泄の処理もしています。
世界的に見ると、日本の「身体障害者補助犬法」はハードルの高い法律となっています。その分、現在活躍している補助犬たちは街中で走り回ったり排泄をしてしまったりすることはほとんどなく、どこでも安心して受け入れられる子たちだといえます。
「ほじょ犬マーク」ってなに?
「Welcome!」と書かれた「ほじょ犬マーク」。街中で見かけたことがある人もいるでしょう。「補助犬の同伴を許可するマーク」と思われていることが多いのですが、許可を意味しているわけではありません。
そもそも「身体障害者補助犬法」では、「不特定多数の人が利用する施設等では、使用者が補助犬を同伴することを拒むことはできません」と定められています。つまり、あらゆる交通機関や公共施設で、補助犬の同伴は受け入れられるものなのです。
しかし、「身体障害者補助犬法」の認知が低いという現実があり、全国の補助犬ユーザーの6割超が公共施設などで補助犬の同伴を断られたという経験をしています。
このような実態を受けて、補助犬の存在を知ってもらうために厚生労働省が作成したのが「ほじょ犬マーク」です。このマークを掲示しているお店があったら、同伴許可ではなく補助犬フレンドリーなお店と捉えるといいでしょう。
街で補助犬と出会ったらどうすればいい?
専用のケープを着ている補助犬は、補助犬ユーザーに寄り添って休んでいるように見えても、お仕事中です。そのため、いきなりワンコに話しかけたり、触ったりするのはやめましょう。じーっと見つめるとワンコも気になってしまうので、そっと見守るくらいにしてあげてください。
補助犬は特別な訓練を受けているとはいっても、ロボットのように仕事に専念できるわけではありません。むしろ、トレーナーからたくさん褒められて育った補助犬は、人が大好きなので、誰かが遊んでくれると思うと集中が途切れてしまうことがあるのです。そうなると、補助犬にサポートしてもらっている障害者の方が危険です。
そのため、お仕事中のワンコの気を反らすようなことはせずに、そっと見守ってあげましょう。
盲導犬について
盲導犬のお仕事
「盲導犬は、視覚障害者の方を目的地に送り届けてくれる」と思っている方がいるかもしれませんが、道案内をできるわけではありません。盲導犬のお仕事は、パートナーである視覚障害者の方に3つのものを教えることなんです。
盲導犬がパートナーに教えるもの
視覚障害者の方は、職場や近所のスーパーなどの目的地までの道のりを、メンタルマップという脳内の地図上に思い描いて、歩いています。初めて行く場所は、誰かに教えてもらいながら、「玄関を右折」「2個目の曲がり角を左折」というように覚えていくのです。
そして、盲導犬は、メンタルマップに描いた道を歩くサポート役になります。曲がり角、段差、障害物がある場所を、盲導犬が立ち止まって教えてくれるので、視覚障害者の方は「2個目の曲がり角だから左折だな」「障害物があったのだな」と、判断ができるのです。
「信号は盲導犬が判断している」と思われていることもありますが、ワンコは人間ほど色を識別できません。視覚障害者の多くは、耳をすませて車の走行音や人の足音を聞き分け、進行方向の信号の色を判断しています。
音だけでの判断は危険を伴うので、盲導犬を連れている方や白杖をお持ちの方が信号待ちをしていたら、「まだ赤ですよ」「青になりましたよ」と声をかけてあげましょう。周囲の人のサポートも、障害者の方にとっては大きな支えです。
盲導犬になるステップ
盲導犬になるワンコは、盲導犬の繁殖を専門に行うボランティアさんのもとで誕生します。盲導犬は多くの人がいる場所、大きな音のする場所に行くこともあるので、何かあってもパートナーが「大丈夫」と言えば落ち着いていられる性格が重要になります。科学的なエビデンスに基づいて、そのような特性を持つ健康な子の繁殖が行われているのです。
産まれた子犬は、1歳になるまでの間、パピーウォーカーと呼ばれるボランティアさんの家庭で育てられます。幼いうちからいろいろな場所に出かけて、車や電車の音、人混みなどに慣れ、社会性を身に付けていくのです。
1歳からの半年~1年間は訓練センターに入所し、トレーナーと一緒に盲導犬になるための訓練を行います。ここで改めてワンコの性格をしっかり見極めていくのですが、盲導犬の資質があると認められるのは10頭中3~4頭といわれています。
大らかな性格であっても、大きい音が苦手な子やボールがあると遊びたくなってしまう子にとって、盲導犬のお仕事はストレスになりかねません。だから、適性を見極める必要があり、お仕事が苦にならない子だけが盲導犬になります。盲導犬にならなかったワンコは、キャリアチェンジをしてボランティアさんに引き取られ、家庭犬としての生活をスタートします。
10歳前後で引退の時期を迎えた盲導犬は、盲導犬ユーザーと別れ、リタイア犬ボランティアさんのおうちで過ごします。このように、盲導犬の一生にはユーザーやトレーナーだけでなく、たくさんのボランティアさんも携わっているのです。一生の間にたくさんの人から愛情を注がれ、ハッピーに暮らしている子ばかりなんですよ。
ちなみに、盲導犬のほとんどは、ラブラドールレトリーバーやゴールデンレトリーバーなどのレトリーバー種です。狩猟犬というルーツを持つレトリーバー種は人間と一緒に作業することが大好きで、指示を出されることに喜びを感じる犬種なので、盲導犬にぴったりだといわれています。
ボランティア参加が社会貢献のきっかけに
盲導犬に関するボランティアは、各訓練事業者が常に募集しています。盲導犬や視覚障害について詳しくなくても、ワンコが好きだから、キャリアチェンジ犬やリタイア犬を家族に迎える。そんなきっかけで、盲導犬について知っていくのもいいと思います。
盲導犬を育てていくためには、ボランティアさんの存在は不可欠で、ワンコを迎えることが社会貢献につながります。そして、盲導犬を知る人が増え、支援の輪、理解の輪が広がっていくことを願います。
「障害のこと」「ワンコのこと」を知る重要性
補助犬のことを知ると同時に、障害についても知ることが大切です。身体障害者は特別な存在と思われがちですが、事故に遭って目が見えなくなる、歩けなくなるといった状況は、全員に等しく想定されます。そのため、他人の問題ではなく、自分や家族の問題として考えた方がいいことなのです。
そして、障害者の皆さんも「映画が好き」「料理が趣味」「おいしいものが食べたい」と、それぞれに好きなものがあり、皆さんと同じように生活しています。その生活を、より良いものにするパートナーが補助犬なのです。
補助犬ユーザーの皆さんは、一般の飼い主さんと同じかそれ以上に、ワンコの行動・衛生管理を徹底しています。排泄の処理もお手のものです。ワンコの飼い主同士としてともにマナー向上に努めていくことができれば、どの公共施設でも補助犬が受け入れられる世界が訪れるのではないかと信じています。
橋爪さんが「盲導犬ユーザーさんとお話することが、一番の理解につながりますよ」とのことで、盲導犬ユーザーの鈴木加奈子さんをご紹介してくれお話を伺うことができました。これまでの盲導犬のイメージとは異なる一面を教えてくれた鈴木加奈子さんと盲導犬のアリエルちゃんのお話、是非ご一読ください。