【神奈川|キャリアチェンジ犬の里親さんレポート】キャリアチェンジ犬を通して学ぶ、盲導犬とそれを支える人たちのこと

盲導犬の存在自体は多くの方がご存知のことと思いますが、キャリアチェンジ犬についてはご存知でしょうか?
今回、神奈川県相模原市で2頭のキャリアチェンジ犬と暮らしている佐藤さんご夫妻に、キャリアチェンジ犬と盲導犬、そしてそれを支える方達のことについてお伺いしてきました。
なんとなくわかったつもりでいた盲導犬のこと。しかしお話をお伺いしてみて、初めて知ることがたくさんありました。今回、私たちがキャリアチェンジ犬を通して学んだことを、みなさんに少しでもわかりやすくお伝えできたらと思います。

今回お話を聞かせてくれた
佐藤さんご家族

左:甘え下手でパパが大好き
Jinくん(お兄ちゃん)
右:甘え上手でママの抱っこ大好きWalterくん(弟くん)

キャリアチェンジ犬と
セカンドライフについて

はじめに

インタビューを読んでいただく前に、キャリアチェンジ犬について少しご説明をさせてください。

身体的に懸念がある犬や、訓練を行ったが稟性的(性格)に盲導犬に向かないと判断した盲導犬の候補犬は、進路を変更する事からキャリアチェンジ犬と呼びます。

公益財団法人 日本盲導犬協会HPより抜粋

盲導犬協会のサイトに記載があるように、盲導犬の候補犬の中で、足などの身体的不安や精神的負担など、あるいは性格的に盲導犬に向かないと判断され進路を変更する候補犬を「キャリアチェンジ犬」と呼びます。
キャリアチェンジ犬のセカンドキャリアとしては、協会のPR犬や、キャリアチェンジ犬飼育ボランティアさんのおうちで家族としてセカンドライフを過ごす子もいます。
このキャリアチェンジ犬飼育ボランティアは、安定的な盲導犬育成のためには欠かせない存在のボランティアです。今回の記事は、そんなキャリアチェンジ犬飼育ボランティアとしてラブラドールレトリーバーを2頭迎えた佐藤さんご夫妻のインタビューになります。

キャリアチェンジ犬と出会うきっかけ

キャリアチェンジ犬飼育ボランティアをされようと思ったきっかけについて教えてください。

もともと、ダグとモカという2頭のラブラドールと暮らしていたんです。ある日、最寄駅の近くを当時6歳のモカとお散歩をしていると、とってもお利口で落ち着いたラブラドールに出会ったんです。お話をしたらまだ2歳とのことで本当に驚いて!それがキャリアチェンジ犬との出会いで、そこで初めて「キャリアチェンジ犬飼育ボランティア」の存在を知りました。
当時はダグがもう亡くなりモカだけだったので、すぐに調べて「日本盲導犬協会」にボランティア登録をしてみたんです。

先住犬のDougちゃんとMochaちゃん

キャリアチェンジ犬飼育ボランティアに登録しても1〜5年待ちとよく耳にしますが、登録には何か資格などが必要なのでしょうか?

登録時には、家の周辺地図と間取り、家族の写真1枚と生活環境やスタイルについての質問表に答えますが、特に資格などは必要ありませんでした。
私たちはこれまでにラブラドールを2頭すでに飼っていましたので、おそらくその辺を見ていただけたのか、登録から3ヶ月くらいでJinを紹介してもらえました。待っている方も多いと聞きますが、単純に登録順というわけではなく、協会の職員の方が生活環境やご家族の生活スタイル、これまでの飼育経験を細かく見ながら、その子にマッチするご家庭を選んでくれているので、こればかりはご縁ですかね。
でも、やはり職員の方々がしっかりとその子の資質を見極めてセカンドキャリアを考えてくれているので、盲導犬になった子も、PR犬になった子も、もちろん、新しい家族を見つけた子も、本当にどの子も幸せになっています。

そうなんですね。盲導犬ばかりに目が行きがちですが、盲導犬にならなかった子たちも含めた幸せを考えていく必要があるんですね。

キャリアチェンジ犬のJinくん&Walterくんを迎えての暮らし

実際に家族として迎えたJinくんとWalterくんのことをお伺いできますでしょうか?

Jinは訓練が嫌いだったのでキャリアチェンジした子なんです。最初にJinに会いに行った時は、少し噛み癖があり「もしかしたら問題行動があるかもしれません。」とのことで、通常2週間のトライアルを1ヶ月半で設定していただいたんです。でも、実際家に来てみたら、先住犬の黒ラブが優しく迎えてくれたのもあって安心できたのか、なんの問題行動もありませんでした。
今はこんなに穏やかな顔をしていますが、最初きた頃は目がつり上がって緊張した顔をしていたんです。今はこんな感じですが。(笑)

Jinはパパっ子で、パパが会社に行くとリビングの扉の前でしばらく放心しています。パパの帰る時間が近づいたり音がすると、ずっと玄関のドアを見て待っているんです。甘えるのは上手じゃないんですけどね。足元にぴったりくっついて座って、これがJinの最高に甘えている状態なんです。

今は本当に優しいお兄ちゃんの顔をしているJinくん

反対に甘え上手なのがWalterですね。Walterは、訓練もきちんとこなして盲導犬としてマッチングするところまでいったんですが、トレーナーさんが言うには訓練から戻るととってもつまらなそうな顔をするんですって。それでキャリアチェンジ犬に。

ママに抱っこしてもらい、うっとり顔のWalterくん

訓練がうまくいっても、そんな細かいところまでトレーナーさんは見られているんですね。驚きました。

候補犬の中で盲導犬になれるのは約4割程度なんです。トレーナーさんがそういう細かいところまで一頭一頭の資質や性格を見て、キャリアを見極めているんです。

トレーナーさんは盲導犬を育成するだけでなく、そのような見極めも大切なお仕事なんですね。

そうなんです。驚くくらい犬のことを見ているなと思います。
実は、2頭目のキャリアチェンジ犬を迎えようと登録した時には「黒ラブの女の子が欲しい」とリクエスト項目に書いていたんです。
ところがある日トレーナーさんからお電話があって「会わせたい子がいるからきてくれますか?」って。「黒ラブの女の子ですか?」ってきいたら、「白ラブの男の子ですって。全く逆の。(笑)」。でも、Jinの時からお世話になっていて本当に信頼している方だったので、会いにいきました。

僕の話?と、Walterくん

会いに行って早々にWalterがJinにマウンティングしたんです。それで、だめかなと思ったんですが、もしうちにこなかったらこの子はこの盲導犬センターの訓練所の中で過ごすんだなと思った時に、こんなに天真爛漫で活発な子なんだから、いろんなとこに連れて行って遊ばせてあげたいなと思って、それで、その日に連れて帰りましたね。Jinは「え。こいつも来るの?」という顔をしてましたけどね。(笑)

でもやっぱり、トレーナーさんもJinのことを知った上で、Walterとの相性も良いと感じてうちを選んでいたんでしょうね。きてから二匹はすぐに仲良くなりましたね。

今は常にくっついて仲良しの二人

Jinくん&Walterくんが広げてくれたワンコの輪

Jinくん&Walterくんを迎えて大変だったことはありますか?

うちは元々ラブを2頭飼っていたので、大変だったことと言われるとなかなか思い付かないんですが、強いて言えば、やはりご飯代や医療費ですかね。やっぱりよく食べるし、それが2倍なので。あとは健康には気を遣っているので、1年に一度はドッグドック(犬の健康診断)をして、食事も正直、私たちより良いもの食べてるんじゃないかなあ?(笑)なので、費用面は大変ですね。
あとは体力ですかね。ラブラドールは活発なので、散歩は二匹とも1時間くらい歩きますし、今後老犬になった介護のことも考えると、常に体力をつけておかなくては、とは思いますね。

たくさんあると思いますが、迎えて良かったこともお伺いできますか?

迎えて良かったことはたくさんありますよ。毎日助けられてばっかりですし。でも「キャリアチェンジ犬」という意味で言うと、いろんな方との絆ができたことですかね。
子犬の時に大切に育ててくれたパピーウォーカーさん、候補生の時に指導してくれたトレーナーさん、一緒に生まれた兄弟たち。JinとWalterを家族に迎えてから、そんな皆さんとの繋がりができて、何か不安なことがあったら相談したり、集まって誕生会をしたりできるのはとても嬉しいです。
パピーウォーカーさんともたまに会っているんですが、子犬の頃から知ってくれているので、あ〜昔からそうなんだ、と納得できるパピー期のエピソードが聞けたりして。自分たち以外にこの子達のことを知ってくれている人たちがいるのは、本当に心強いですね。
ブリーダーさん、パピーウォーカーさん、トレーナーさん、たくさんの人の支えがあって、今、うちの子の幸せがあるんだなと思います。

キャリアチェンジ犬には、飼育ボランティアさんの家族になるまでに、たくさんの方の愛情リレーがあるんですね。初めて知りました。

キャリアチェンジ犬を通じて知って欲しいこと

Jinくん&Walterくんは、コロナ前は盲導犬PRイベントもお手伝いしていたとのことですが、何か盲導犬について知って欲しいことはありますか?

やはりイベントをしていると、盲導犬に対して「かわいそうな子達ね。」と声をかけられることが多くあります。でも、そんなことはなくて。先ほどお話したように、候補生の段階でその子の資質をプロのトレーナーさんがしっかりと判断して、仕事に喜びを感じる子だけが盲導犬になっているんです。だから、本人たちは楽しくやってるんですよ。

そうですね。Walterくんのように仕事はできるけど「あんまり好きじゃない」というような細かい機微の部分まで見て、その子のキャリアを決めているということは、知らない方の方が多いと思います。

そうやってトレーナーさんや職員さんたちが細かく見てキャリア決定やボランティアさんとのマッチングをしているので、実際に知っている盲導犬もキャリアチェンジ犬の子も、みんな幸せそうにしています。
私たちのようなキャリアチェンジ犬飼育ボランティアの他に、パピーウォーカーさん、引退犬飼育ボランティアさん、老犬ホームボランティアさん、トレーナーさんなど、盲導犬を支えるたくさんの方がいます。
こんなにたくさんの人たちが、その子たちの幸せを考えてくれているから、盲導犬もキャリアチェンジ犬も引退犬もみんな幸せになれるんだなといつも思うんですけど、そのことを少しで知っていただけると嬉しいなと思いますね。

盲導犬のことをなんとなくはわかっているような気がしていましたが、今回初めて知ることがたくさんありました。多くの方にこの記事を通して知っていただくきっかけになればと思います。

取材を終えて

盲導犬について考える時、「盲導犬」という「点」でばかり捉えていたことに気付かされました。実は、盲導犬の活動を支えるコミュニティ全体を一つとして把握することが、盲導犬理解への近道なのかもしれません。
実際に、キャリアチェンジ犬という「盲導犬にならなかった子たち」のことを知ることで、これまでに見えていなかった盲導犬活動の新しい一面が見え、少し理解が深められたように思います。
今後も機会があれば、また別の角度から盲導犬のことを見つめてみたいと思います。
盲導犬を知るきっかけをくれたJinくん&Walterくん、ありがとうございました!

尻尾ふりふり。スキップで、ご機嫌お散歩のJiんくん&Walterくん

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