保護犬、野犬、被災地犬。様々な過去を背負うワンコたちと共に、新しい「犬生」を紡いでいく暮らし

「ぽちずかんぱにぃ」の藤井妙子さんとの出会いは、愛犬家さんがつくるワンコクリエイティブ作品をご紹介する「DOG CREATIVE CAMP」の取材でした。
インスタで投稿されている作品はどれもポップで可愛く、欲しくなるものばかり。取材に伺うと藤井さんは9頭の愛犬と一緒に出迎えてくれ、作品づくり以外に、大家族になるまでのワンコたちとのお話を聞かせてくれました。
ぽちずかんぱにぃさんの作品を語る上で、藤井さんとワンコたちとの歴史とは切り離せないと思い、DCCとセットで今回の記事を作成することに決めました。
取材を通じ編集部としても、「今後伝えていきたいこと」など新しい気づきをたくさんいただきました。波乱万丈で、でもあったかい、ぽちずかんぱにぃ藤井さんとワンコたちのお話を是非ご覧ください。

ぽちずかんぱにぃさんの作品をご紹介するDCCの記事はこちらです。

難病に苦しんだ、ワンコたちと出会う前の日々

ネギの直売所などが脇道にある下仁田ののどかな農村風景の中に、三角屋根で窓枠などが赤く塗られたカフェのような木造の建物が現れました。それが、カナダのカルガリーから「犬小屋」をイメージして輸入したという、ぽちずかんぱにぃの藤井さんのおうちでした。
柵や門扉、ウェルカムボードなどが手作りされた可愛いおうちから、たくさんのワンコたちに囲まれて出てきた藤井さんは、とても穏やかで朗らかな印象でした。

東京の大学卒業後は千葉で暮らしていた藤井さんは、ちょうど娘さんを出産されてすぐ、国が指定する難病を発症。1年の3分の2以上を病院で過ごす、長期の入院生活を強いられることに。大きな手術もあり危篤状態になったことも2〜3度あったとか。入院のため、娘さんと全く会うことができず、娘さんのために何か残してあげたいと病院でクレヨンで猫やウサギを描いて過ごしました。藤井さんは退院後、病気などの状況もあり離婚。実家の群馬に戻り、娘さんと暮らしていくために、教員免許をいかして、役場で福祉の指導員として働き始めたそうです。
しかしその後に癌なども発症。現在はすべての仕事をやめて「どうせ時間があまりないなら、好きなことをしよう!と今の暮らしをしています。」と明るく話してくれた藤井さん。
藤井さんが作られる作品からは想像もつかなかった「これまで」のお話。そんな経験も作品作りに少なからず影響してるのかもしれません。

転機になった捨て犬「ゴンちゃん」との出会い

難病で大変な経験をされた藤井さんはその後、建築関係のお仕事をされている現在の旦那さんと再婚。当時は借家でワンコはNGの物件に住まれていたそうですが、子供の頃からワンコが大好きで「いつか狼みたいなシェパードと暮らしたい」という夢を持っていた藤井さんは、ワンコと暮らすために家をたてることを決意します。それが冒頭でご紹介した三角屋根の素敵なおうちです。

家を建てたらシェパードを飼おう!と犬種まで決めていた藤井さんでしたが、引っ越しの1ヶ月前に、たまたま虐待を受けて捨てられたハスキーのゴンちゃんと出会います。
当時ゴンちゃんを預かってくれている人はいたのですが、とても凶暴なため保健所に出そうという話が進んでいました。
「その時は、保健所って犬を助けてくれるところだと思っていたんです。それが引き取り手がないと殺処分されるという事実を、そこで初めて知って衝撃を受けました。私は難病でしたが、高額な治療費も国からの補助でとても助けられたのですが、犬は何も悪いことをしていないのに、犬ってだけでどうして助けてもらえないんだろう、と。」
ゴンちゃんを家族に迎えることにした藤井さん、この出会いがその後の転機となります。

犬はおとなしいものと思っていた藤井さんでしたが、ゴンちゃんはこれまで人に薪で殴られるなどの虐待を受けていたそうで、とても凶暴で家にも入ってくれないため、デッキで飼育していましたが、旦那さんや宅配業者さん、近所の方を噛んでしまい『この犬殺処分してください』と言われたことも。
「時間をください。私が躾ますから。だめだったら責任をもって自分の手で処分します!って言って、そこから愛玩動物飼養管理士の資格をとったり、ドッグトレーナーさんや獣医師さんを回って相談したり、とにかく必死に勉強しました。その甲斐あって、家族にはだんだん打ち解けてくれて、最後の時も私の腕に抱っこされたまま穏やかに息を引き取ったんです。」
夢だった大型犬との暮らしは、想像とはことなる波乱に満ちた日々だった藤井さん。このゴンちゃんとの暮らしがきっかけで、群馬県の愛護推進委員になり、レスキューの方との繋がりができたりしたことで、ご自身も多くの保護犬を家族に迎えながら、保護犬認知活動をするようになったそうです。

捨て犬、野犬、震災犬、繁殖犬など、様々な過去を抱えるワンコたちとの暮らし

「悪質な繁殖屋のところで10歳近くまで子供を産まされていて、ゲージから出たことがなかった子。山の木に繋がれて捨てられていた子。捨てられた親犬から生まれて野犬になった子。震災で家族がいなくなってしまった子。いろんな重いものを背負った子たちを迎えてきました。」

藤井さんが家族としてお迎えしてきた子達は、それぞれに過去を抱えたワンコたち。
取材中も、お話を聞いている私たちに撫でてとすり寄ってきてくれる子や、遠くから静かに観察する子、藤井さんから離れない子など、個性も様々。
ワンコたちの歴史を聞いていると、ワンコが抱える様々な課題が見えてきました。

バーニーズの5兄弟の天ちゃんと讃ちゃんは、一般家庭の飼い主さんがご自身で繁殖をしたものの、貰い手が見つからず藤井さんの家族に。
「大型犬は食費・医療費もかかるし、大きいので世話やしつけなど扱いも大変です。特にバーニーズは短命で3〜4歳で癌などになる子も。バーニーズだと、医療費に月100万ほどかかってくる場合も。飼いきれなく手放す方もいます。大型犬は犬種の勉強した上で、一緒に生きていく覚悟を持って迎えないと難しいです。流行りなどで、手を出して欲しくないですね。」

警戒しながらも、遠くからこちらをそーっと伺う夏生くんは、去年の夏、三匹くらい子犬がウロウロしているところを保護されたうちの一匹で、親が野犬だったのか、捨てられた犬だったのかはわからないそうです。
「野犬が怖いってみなさん言いますが、野犬の方が人が怖いんですよ。もう一匹、保護された野犬がうちにもいますが、その子は怖いから夜になるまで隠れて動かないんです。」
野犬の方が人が怖い、という言葉が、耳に残りました。
「上信越道が開いた頃から捨て犬が増えたんです。またこの辺りだと長野との県境にある和美峠があるんですが、そこに捨てていく方も多いです。都心では野犬の殺処分は聞かないかと思いますが、田舎はまだまだ野犬で殺処分される子もたくさんいるんです。」

すり寄って挨拶をしにきてくれた保護犬の福慈郎くんは、最近藤井さん家族に加わったばかり。
「飼い主さんからの虐待から保護された子です。口輪の傷跡が口周りにあって、犬歯も抜かれています。こんなに性格も穏やかで、吠えたりもしないのに、どうして虐待されていたのか理由はわかりません。福ちゃんは少し預かるつもりでしたが、一緒にいたらもう可愛くて可愛くて。手放せなくて最近家族に迎えちゃいました!」

これ以外にも、藤井さんは一緒に過ごしたワンコたち、一頭一頭の歴史をひとつひとつ丁寧に、本当に細かなエピソードまで語ってくれました。家族になるということは、その子がこれまで背負ってきた犬生、その歴史をまるごと受け止めることなのだと、教えていただいた気がします。

「陳腐な言い方ですけど、できる限り幸せにしたいんです。特にこの子達はこれまで辛い歴史を背負ってきちゃってるので、その分を取り消してあげたいんです。」
様々な過去を背負っているワンコたちですが、今は全員穏やかなお顔をしていて、藤井さんの旦那さんが帰宅するとみんなで喜んでいる光景を見て、今は幸せな表情をしていてくれることが嬉しくなりました。

保護犬を迎えたいと考えている方へ

「なかなか言いづらいんですが、『かわいそう』『助けたい』という気持ちからだと、保護犬を迎えるのは難しいと思います。かわいそうの先にはリアルな暮らしが待っていて、それは楽しいや可愛いだけじゃないことが多いので。」
たくさんの保護犬と暮らし、保護犬の認知活動もされている藤井さんに、保護犬を迎えたいと考えている方へのアドバイスをお伺いすると、そんな意外な言葉が返ってきました。
「保護犬にはこれまでの歴史もあるし、なかなかこちらの思った通りにはいきません。医療費もかかるし、ずる賢い面もあれば、過去の経験から苦手なことや癖を持っていたり。私はこの暮らしを始めてから、外食や旅行にはほとんど行きません。ワンコによっては、なんでも食べる癖を持っていて30分も目を離せないという子もいたりするので、一緒に生きるって、そういう大変なところもあります。まずは少し立ちどまって、勉強して欲しいです。そして家族として迎えていく大変さを理解した上で、覚悟を持って迎えて欲しいですね。」

ワンコのために生きて、生かされて

9頭のワンコたちのお世話のほか、ワンコたちの食費や医療費にするためのワンコ作品作り。最初にお伺いしたお体のことがまるで無かったかのように、パワフルに活動されている藤井さん。その秘訣はどこにあるのでしょうか。
「4年前に一度入院したのを最後に、今はとりあえず体は大丈夫です。臓器もいくつかとっているのに、介護もなしで普通に暮らしてるというと、お医者さんにも驚かれるんですよね。
自分が死んでもおかしくない病気で、危篤も3度経験したのに生かされたので、少しでも何かの役に立てたらなって。人を助けたりなんて、自分には重くてできないですけど、ワンコを一匹だけでも助けられたらいいかなと思っているんですけど。
でも、今、こうやって元気でいられるのは、みんな犬のおかげだと思います。『今死ねない』といつも思っているから。犬がいるから死ねないし、倒れられないんです。
私、乳がんの手術もしていて、右側の脇のリンパのところも切除したんですが、犬が心配で5日で退院させてもらって散歩に行ってたんです。そしたら案の定、犬にひっぱられて皮膚が破けたんですよ。でも、みなさん、リンパ節をとると痛くて腕があげられなくなると聞くんですが、犬のお散歩してたら1ヶ月で腕があがるようになって、犬に治してもらっちゃいました。
だから、全部犬のおかげだし。死ねない。この子達を全員見送ったら死んでもいいかな、と思います。」
そんな風に明るく笑う藤井さんからは、揺るがない強さを感じました。それはこれまでの病気の経験と、だからこそ「ワンコと生きる」という覚悟から生まれているのかもしれません。
取材を終えて、藤井さんの人生を通じた最も大きな創作活動は、ワンコとの関係性作り、そしてワンコたちの新しい犬生づくりなのかもしれないと思いました。

ぽちずかんぱにぃさんの作品をご紹介するDCCの記事はこちらです。

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