東京都江戸川区にあるペットケアサービスLet’sは、2007年に設立された犬のがっこう・老犬の介護・リハビリ支援の施設。まだ犬の介護やデイケアという発想がなかった時代にオープンしました。
代表の三浦裕子さんに、設立のきっかけや老犬介護のこと、いつかやってくるシニア期にむけて飼い主さんが今からできることなど、お話をうかがってきました。
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老犬ホームではなく介護・リハビリケアをサポートする理由「愛犬とずっと一緒にいたい」と思っているはず
三浦さんは当時、ペットシッターをされていたんですよね。どうしてデイケアをつくろうと思ったんですか?
当時は、生涯お預かりする老犬ホームができつつある時代でした。でも、飼い主さんは本当は『愛犬に家に帰って来て欲しい』と思っているんじゃないかと考えたんです。仕事中はムリでも、帰宅した時や休日は自分で面倒をみてあげたいんじゃないかって。
その頃、ふと見たテレビのニュースで、幼稚園児が地元の高齢者と触れ合う活動をしているお寺の様子が映し出されていました。
「これ、犬でもいいんじゃない?」と思ったんです。そこで、犬のしつけ教室とデイケアを一緒にはじめちゃおう!と考えました。
子犬と老犬を同じ場所で預かることで、メリットはありますか?
たとえば、高齢犬はやんちゃな子犬に『挨拶するんだぞ』って教えるんです。それで新しい子犬が入ってくると、それまで教えてもらってた立場の子犬が『おじいちゃんには挨拶するんだぞ』って新入りの子に教え出すんですよ。これは人間が教えるのは難しいことで、本当に面白いって思いましたね。
あとはやはり、若い犬と一緒にいると高齢犬に覇気がでるというか。赤ちゃんを産んだことのないおばあちゃん犬も、母性がでて子犬の面倒をみたりするんです。
当初からリハビリも行っていたんですか?
今のように前面に押し出してはいなかったですね。当初はまだ、老犬介護も犬のリハビリも情報が全くなく手探り状態で、試行錯誤しながらやっていたというのもあります。そんな中、寝たきりだった子が立ち上がったり、それを聞いた別の飼い主さんが来てくれたり。
まさに飼い主さんのニーズから生まれて発展してきたということですね。それでもはじめのうちは「獣医師でもないのに」と、なかなか理解を得られないこともあったそうです。
人間の世界でも手術して退院したら、その後はリハビリでしょう?治療と福祉の領域の違いだということを、時間をかけて理解してもらった感じですね。今では『手術の後はLet’sでリハビリを』と、うちを紹介してくれる動物病院もあります。
老犬のリハビリの役割と今日から取り組めること老化は止められないけれどゆるやかにはできる
これからシニアに向かう犬も、現在シニアライフを過ごしている犬も、今日が一番若い日。どんなワンコにも必ずやってくる老化だからこそ、1日1日を楽しく元気に過ごさせてあげたいですよね。
犬は老化してくると、前足荷重になりやすいんです。後足は杖をつくようにバランスをとるだけ、筋力を使わないから後足が弱っていきます。寝たきりになった子たちって、前足は動くんだけど後足が動きづらくなるんです。もともと犬は前足荷重が6〜7割なんですけど、歳をとると7割から9割の子になっちゃう子もいます。そのため、高齢の子に対しては、後足を使わせる運動をして、前足と後足のバランスを戻すようにします。
後足を使った運動というとプロにお願いする特別なトレーニングというイメージを持ってしまうんですが、飼い主さんにできることってありますか?
たくさんありますよ!まずは、コンクリートの上ばかりを歩かないこと。土や草の上、砂浜などを歩くようにしてください。柔らかい場所はしっかりと地面を掴まないと歩けないので、肉球も動くし、すべての筋肉が使われます。都心部だと難しいかもしれませんが、公園や街路樹の植え込みの所を歩くだけでもOKです。
あとは、散歩の時に平らな道だけでなく、段差や斜面を歩くようにするといいです。後足が弱った犬を散歩する時、段差のない道を選ぶ飼い主さんが多いんです。でも、あえて段差を歩けば、膝を曲げなくてはならないため、関節や筋肉が鍛えられます。
斜面の場合は、上りは筋力アップになるし、下りは前足荷重のままだと転がっちゃうので、自然に後ろ足を意識するようになります。斜面はかけ登ったりせず、ゆっくりと歩かせるのがポイントです。
家で柔らかいマットや布団の上を歩かせるのも効果があります。スクワットもおすすめですね。おすわりと立ってを交互に続けるだけなんですけど、これを1日5回やるのとやらないのでは、長期的にみると全く違います。いつか4回になる日はあるかもしれないけど、いきなりゼロにはならないんです。
特別なトレーニングが必要だと思い込んでいましたが、むしろ日常のちょっとした工夫が大切なんですね。
愛犬が歳をとったらと考えた時、介護をすることを前提にして心配する人が多いんです。でも本当は、介護しないで過ごせる方がずっといいですよね?何歳からでも早すぎるということはありません。たとえば、若い時からキレイな姿勢で歩けば体に負荷がかからないので、怪我やヘルニアなどの病気のリスクも減ります。
若い犬は好奇心旺盛なので前のめりになりやすいんです。引っ張り癖のある犬もそう。それって、後足が弱くなる要素を持っているということなんです。ある程度の年齢になっていても、気づいたその日から取り組めば、正しい状態に近づいていけるでしょう。犬のリカバリー力ってすごいんですよ!
老犬介護に大切なこと老犬介護は大変だからこそ笑顔が必要
どんなに気をつけて過ごしていても、年齢を重ねるとできないことが増えてきます。そんな時、飼い主である私たちには、なにができるのでしょう。
「老犬介護って大変なんですよ。ほんとに大変!だからこそ、笑顔になるポイントを見つけて取り組むといいよねって思います。」
でも、介護の時って心配なことの方が多くて、楽しい気持ちでいるのは難しくないですか?
たとえばLet’sでは、ヨロヨロっとしてベッドを踏み外しちゃっても、それは笑顔ポイントです。後足が1本引っかかって失敗したらマイナス1点。でもちょっと手伝ってあげて、残りの3本の足で乗れたらプラス3点です。4対3だから、これもう勝ちじゃん!って(笑)3本で乗れると、次はまた4本で乗れたりもするんですよ。でも逆に、手伝いすぎると残りの3本でも乗れなくなってきちゃったりする。
犬って自信をなくすんです。自分ができると思って失敗したことを、全部やってもらっちゃうと『やっぱりできないんだ』ってなります。それで今度は、手を貸してもらえるまで待つようになるんです。それを見て飼い主さんは『やっぱりもうできないんだ』って手伝っちゃうので、どんどんできることが少なくなってしまいます。
飼い主さんが不安になって手伝いすぎないこと、犬が自信を持っていられるように楽しく手助けすることが大切なんです。
飼い主さんがポジティブになることで、犬たちのできることが多くなるんですね。
老犬介護って、笑顔ポイントだらけなんです。探さなくても、なんでもおもしろく考えることに変えられます。ごはんが上手に食べられなくなっても、今日は5mも飛ばしたねー。新記録!とか(笑)
きれいに食べられて30cmしか飛ばさなければ、それもまた新記録なんですよ。どちらの場合でも新記録達成です。
老犬介護と向き合っている方へ飼い主さんは休息を
どんなにポジティブに取り組んでいても、愛犬の介護は肉体的にも精神的にも負担が大きいものです。限界がきているのに、自分では気づかないことも。
状況によっては、眠れない日々を過ごすことになっている飼い主さんも多いと思うんです。でも、どうにかして眠る時間をつくってほしい。
人間って、眠らないと判断力がなくなるんです。そうなると、犬に変化があった時もちゃんとした判断ができなくなっちゃう。病院に連れて行った方がいいのか、様子をみる方がいいのかとかね。
頑張って介護しているからこそ、飼い主さんは休息の時間をつくることが必要なんです。
家族で協力してもいいし、動物病院や施設に預けてもいい。そして、体も心も無理しすぎないように、わからないことや不安なことがあったら、プロに頼ってほしいと思います。
リハビリの役割生涯・アクティブシニア犬を目指そう
動ける人がオムツをつけることって、人間でもありますよね。でも犬の場合、オムツをつけるようになっただけで『介護がはじまった』って思っちゃう。
フードを柔らかくしないと食べられなくなったら『介護食』って呼んじゃう。でも人間だって、歯がなくなればやわらかいものを食べるでしょう。それと一緒なんです。
オムツをしていても、自分の足で立って歩けたり、ごはんが食べられる、それってまだまだ元気じゃないですか。心の持ちようかもしれませんが、そう思うと気持ちが楽になるでしょう?
ペットケアサービスLet’sさんが目指す老犬介護そこ抜けに明るい老犬介護
ペットケアサービスLet’sの介護現場は、仕事のパートナーから「そこ抜けに明るい老犬介護」と言われたことがあるのだとか。
スタッフさんたちは、老犬が立ち上がっただけでも、他の仕事の手を止めてみんな集まってくるのだそうです。そして笑って「すごい、すごい!」って絶賛しながら動画とったり、拍手をしたり。まさに笑顔の介護を実践中です。
取材中はちょうど飼い主さんが迎えにくるタイミングでしたが、どの飼い主さんも犬たちも、とにかく楽しそうな様子だったことが印象的でした。
ペットケアサービスLet’sのリハビリで復活したという16歳のワンコさんは、軽々と段差をまたいで飼い主さんのもとへ。その得意そうな顔!
「去年は大変だったんですよ」とおっしゃる飼い主さんも、満面の笑みです。人だけでなく犬にとっても、笑顔はポジティブな力をつれてくるのだと、あらためて感じる光景でした。
どのワンコにも訪れるシニア時代。
ワンコも飼い主さんも笑顔で過ごす時間こそが、健康寿命を伸ばす秘訣なのかもしれません。
ペットケアサービスLet’s
Information
楽笑!犬の介護ZERO教室
ペットケアサービスLet’sでは、介護がいらない一生を目指す『犬の介護ZERO教室』を定期的に開催しています。JAPANペットケアマネージャー協会認定の老犬介護士が講師。
介護のノウハウだけでなく、飼い主が自分にできることを知ることで、愛犬が歳を重ねることへの不安を吹き飛ばしてくれる、まさに楽笑(らくしょう)のセミナーです。詳細はペットケアサービスLet’sのHPをご覧ください。
nowa writer
村田 幸音 Sachine Murata
ワンコとニャンコ、ハムスターに金魚や鳥たち、ウサギと亀の大家族と育ったフリーライター。現在は、超絶マイペースな柴犬との暮らしを満喫中です。ワンコ愛が高じて、ペット災害危機管理士と犬の管理栄養士の資格を取得。ワンコも飼い主さんも、みんながHAPPYになる情報をお伝えしていきます!