犬の行動心理学|増田先生の犬の行動心理学。犬の見え方・考え方を知る

犬の行動心理学|増田先生の犬の行動心理学。犬の見え方・考え方を知る

東京農業大学教授の増田先生と一緒にお届けする、ワンコともっと良い関係を築くためのヒント。
ワンコから見えるモノゴト、ワンコの考え方、感じ方など、
ワンコたちに見えている世界を私たちにも見せてくれる増田先生シリーズ「ワンコno世界」、
第二回はワンコと私たちの考え方や感じ方の違いについてです!
今回も、心がほっこりする挿絵イラストを増田先生が描いてくださいましたので、
こちらも是非お楽しみください。

Introduction

今世紀に入るあたりから、動物行動学の研究は飛躍的な進化を遂げました。特に犬については、「どうやら犬は、私たち研究者が思っていた以上に、人のことを理解しているのではないか?」と考えざるを得ない結果がたくさん公表されています。ここ数十年に行われた膨大な数の研究結果を大まかにまとめると、犬は、人間の言葉をある程度理解でき、人社会の中でも、その時々の状況を把握でき、そして、それなりに複雑な感情をもって、積極的に人との関係を築こうとする動物である、と言えるでしょう。

ただし、人を理解しているからと言って、気持ちの表現方法などの特徴まで、人と同じではありません。ここでは、犬の体や思考の特徴を紹介し、それらが犬とは全く異なる私たちが、犬に対してどのような考え方で接すれば、犬と仲良く生活を送ることができるかを紹介したいと思います。

Advisor

増田 宏司 教授

東京農業大学 農学部 動物科学科 教授。東京大学大学院を修了後、同大学院で学術研究支援員を務め、2006年から東京農業大学で研究と学生への指導を行う。研究だけでなく、飼い主向けのカウンセリングやワンコのしつけに使えるグッズの開発など、ワンコと飼い主が幸せに暮らせる社会を築くため、幅広く取り組んでいる。

犬の行動心理 01

犬は食べ物の味はわかるのでしょうか?

Answer

犬は塩味、甘味、酸味、苦味などを感じることができますが、残念ながら、犬は味オンチです。

舌には、味蕾という、味を感じるための細胞がありますが、犬はこの細胞の数が、人の5分の1程度しかありません。

犬といえば嗅覚ですが、美味しさを感じることには、味そのものよりも匂いの影響が大きいと言えるでしょう。ところで、犬にはまとめ食い・早食いの習性があります。
はるか昔、集団で狩りをしていたため、めったに捕らえることができなかった獲物をようやく捕まえることができても、分け前が減らないように、急いで食べていたことなどの名残だと考えられています。現在の犬用フードは栄養バランスが整えられていますから、食べさせすぎないように注意をしてあげてください。

犬の行動心理 02

犬には世界がどう見えていますか?

Answer

犬の視覚の特徴は、視野が広く、暗がりでも目がきき、動くものに反応しやすい反面、見える色が少なく、近くのものはぼやけて見えることです。

視野そのものは広いものの、両眼視野は人の約半分しかないため、ものを立体的に見るのがあまり得意ではありません。

また、さまざまな犬種が作られるにつれ、犬の頭の形、目の位置や構造に違いが出来てきたことから、犬の視覚能力は犬種によって異なります。

犬の視覚を私たち人の基準で考えると、多少不便に思えるかもしれませんが、犬だって、これまで人のように見えていたのが、突然、犬の見え方になっているわけではありませんから、不便と感じているはずはありません。優れた嗅覚や聴覚の助けも借りれば、モノを見分けることなど、お手の物でしょう。大好きな飼い主さんならなおさら、見間違えるはずもありません。

犬の行動心理 03

犬は思い出などをどう記憶しているんですか?

Answer

犬は、物事を好きか嫌いかで判断し、断片的に覚えていきます。

私たち人は、もし朝、嫌なことが起きても、夜良いことが起きたら、その日を「良い一日だった」と振り返ることができるでしょう。人は、物事をストーリーとして記憶するのが得意ですが、犬ではそうはいきません。物事を好きか嫌いかで判断し、断片的に覚えていきます。好きなものは好き、嫌いなものは嫌いなのです。

このように、犬は経験したそれぞれのものやことが別個に記憶されがちですので、出来る限りたくさんの楽しい・嬉しい経験を記憶に残してあげることが、犬との生活を快適に送るためのコツです。すなわち、彼らの生涯に「嫌い・苦手」が入る余地をなくし、大好き!でぎゅうぎゅう詰めにする気持ちで、愛犬に向き合っていただきたいと思います。

犬の行動心理 04

犬はしつけトレーニングのことを
どう思っているんですか?

Answer

犬は、飼い主さんのもつしつけの義務感を理解しているとは限りません。

この20年ほどで、飼い主さんのしつけに対する意識は高まったように思います。その理由はおそらく、家の中で犬を飼うことが常識化したこと、犬と一緒に出掛けられる場所が増えたことなどにより、犬を飼うことへの認識や、飼い主さんに求められるマナーの質が変化したからだと思います。他人様にご迷惑をかけられない、というある種の義務感によって、飼い主さんをしつけの実行に掻き立てている側面もあるのでしょう。

しつけを行うことはとても良いことですが、実行する前に、覚えておいてほしいことがあります。それは、飼い主さんが抱えている義務感を、犬が理解しているとは限らない、ということです。さあ!今日からしつけだ!周りに迷惑をかけないように、ご主人と一緒に頑張んなきゃ!と犬が思ってくれているはずも(おそらく)ないので、その代わりに、しつけを楽しませる/自分も楽しむ、というソフトな義務感をもって、臨んでいただきたいと思います。

犬の行動心理 05

犬にとっての人生の楽しみはなんですか?

Answer

張り切って生きている愛犬にとって、何よりも大切なのは、飼い主さんだけなのです。

私たち人には、旅行や恋愛、映画鑑賞など、人生において多くの楽しみがあります。その楽しみの一つとして、犬との暮らしを選んだ方もいらっしゃるかもしれません。
だからこそ、今一度考えてみてください。あなたの目の前でうれし気にしっぽを振って、張り切って生きている愛犬にとって、何よりも大切なのは、飼い主さん、あなただけなのです。

あなたに褒められ、あなたと出かけ、あなたからご飯をもらい、あなたに寄り添う。どんな経験も、飼い主さん、あなたと一緒だから、犬は楽しくてうれしいのです。私たち人を唯一無二の存在として認め、懸命に付き合ってくれている奇跡の存在。その子がまさに、あなたの目の前にいることを、どうか忘れないでください。

Photo by @shiba.kuchan

Message for dog owners

研究者、獣医師、愛犬家として、長年犬を見てきましたが、最近気付いたことがあります。犬は、私たち人を含め、色んな生き物と仲良くできる動物です。私たち人にとって、仲良しのお手本とも言える犬は、なぜこんなに、その場を平和な雰囲気に出来るのでしょう?

犬は懸命に、他者とコミュニケーションを取ります。誤解されないように、分かりやすいしぐさや姿勢で自分の気持ちを表現し、その場の雰囲気を和らげます。いつもの平和な状況を愛しているからこその行動であることは推察できますが、おそらくその根底には、犬に人のそれとは質が異なる「一生懸命な気持ち≒物事に対する思いの強さ」があるのかもしれません。

味にうるさくないことも、動きを見逃さない動体視力も、好き・嫌いのわかりやすい判断でモノを覚えることも、ブレることなく大切な存在を見つめ続ける能力も、こんな風に工夫すれば、迷うことはないよ!という、犬が私たちに教えてくれている、平和のヒントに見えてきます。人が犬と暮らし始めて長い時間が経過しましたが、もしかすると、犬に付き合ってもらっているのは、私たち人なのかもしれません。最近、そんな風に思えてならないのです。

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