愛するワンコがどのように生まれ、育ってきたのかを知る「ワンコの繁殖」シリーズ。
前編では繁殖の基本について、これまでにグレートピレネーズを100頭以上繁殖させてきたホワイトスプレンダー代表の細田信幸さんに話していただきましたが、今回は実際に犬を繁殖する現場でブリーダーさんがどのように犬たちと関わっているのか、10の質問に教えていただきます。
大きく3つに分けられます。
まずは「繁殖」です。ここで大切なのは犬質の向上を忘れてはいけないということです。自分の手元にいる犬よりも良い犬(犬種のスタンダードに近い犬)を後世に残す事が私たちの仕事の一番の目的なので、闇雲に犬を繁殖させるのはブリーダーではなく「増殖屋」です。
次に「飼育」です。繁殖させる犬たちの健康管理はもちろん、生まれた子犬に社会性を身に付けさせることも重要な仕事だと考えています。
最後に「販売」です。私が繁殖した犬を気に入ってくれて、その犬と一緒に暮らしたいという方にお譲りするということですね。
まずは繁殖させるメスを決めます。自分が飼育している中で状態が良いなど、前編でお話しした繁殖に適した状態である事が条件になります。
犬の繁殖はメスが発情し、排卵するタイミングに合わせる必要がありますので、「そろそろかな?」と思ったら出血をしているか観察するのですが、その犬によって発情の間隔は違うので、飼育しているメスの周期を把握しておく必要がありますね。一般的に出血した日から12日〜14日が交配適期です。
自分の犬舎にいるオスと掛け合わせる場合もありますが、交配はより良い犬を生ませるために行うのものなので、このメスの足りない部分を補い、良い部分を伸ばすために必要な犬質は?と考えるので、他の犬舎にいるオスとの交配を行うことも珍しくありません。
そのためにはどの犬舎にどんなオスがいるのかを把握する必要がありますからドッグショーへ行き、参加しているオスをチェックしたりもします。
犬の場合はオスとメスを一緒の空間に置いておけば、勝手に交配してくれるというものではありません。私たちプロの仕事としては、決めた日時に確実に交配してくれないといけませんから、メスが動かないように抱き抱え(保定して)オスをマウンティングさせます。
一見、可哀想と思われるかもしれませんが、足が短い犬同士を想像してみていただきたいのですが、自然には交配できないんです。そうやって私たちは命をコントロールしているからこそ、犬たちに責任を持つ覚悟が必要なんです。
犬の妊娠期間は約63日です。出産予定日の5日前になったら、いつも過ごしている犬舎から産室に移動させ、その場所に慣れさせます。お産の前には体温が1度くらい下がるので(犬の体温は平均38.3度)交配してから60日経ったら日に2、3回体温を測ります。体温が下がったら24時間以内に分娩が始まるので、私たちもそれに備えます。体温以外にも食事量が減少したり、落ち着きが無くなるなどの変化からも、そろそろ出産かな?分かるようになりますね。
犬がどんどん小型化していますし、メスが運動不足だったり高齢だったりすると、難産になる場合も増えているんです。ただ人間と胎盤の構造が違って、犬は帯状胎盤なので流産しにくいとは言えますね。
ただ出産時に放っておいても大丈夫!とは言えません。
ご存知の方も多いかと思いますが、子犬は羊膜に包まれた状態で、へその緒で母犬の胎盤と繋がって出てくるので、羊膜を破って、へその緒を切ってあげなくてはいけません。
母犬に任せていると、出臍になってしまう可能性もあるんです。
私の場合は大型犬を繁殖させているので、一番は子犬を圧死させないことです。グレートピレニーズの場合だと生まれてくる子犬は大体700gに対して、母犬は54kgあるので、母犬が寝返りを打つだけで大事故になってしまいます。ですから出産後は必ず誰かが寝ずの番をします。犬たちがいるサークルの横に布団を引いて、そこで横になりますが、常に母犬の動きには注意を払っていないといけませんから、一晩の睡眠時間は合計しても3時間くらいですね。
社会化です。まずは目が開く(生後2週間くらい)より前から人の手で全身くまなく触るハンドリングを行います。生後13週までが社会化期になりますので、それまでに知らない人、知らない犬、車や自転車、大きな音など様々な刺激に触れさせるようにしています。世界の基準では、この期間に100人と触れ合うことが大切と言われています。
もちろん犬同士の社会化も大切ですから、生後2ヶ月になるまで親兄弟と一緒に過ごさせます。この時期に口を使って遊びながら噛む力加減、甘噛みを覚えさせます。自分が強く噛むと相手から攻撃されたり、遊んでくれなくなると学んでいくんですね。
私はブリーダーが生後2ヶ月までにどれだけ手を掛けたかによって、その犬の幸せが決まると思っていますから、新しいお家へ行くまでにトイレトレーニングやハウストレーニング、甘噛みの抑制を済ませておきます。大体80%の成功率には仕上げますね。
飼い主さんが「この子はなんてオリコウなんだろう!」と思ってもらえるように育てると、飼い主さんが手を掛けてくれるようになりますし、一緒に過ごす時間も増えますよね。それが犬にとって幸せなことだと思っています。
飼い主さんがしっかり勉強して、色々と質問してください。ご自身が学んだ事にどう答えるのかで、ブリーダーのレベルが分かりますよね。聞いた事に答えてくれない、答えられないようではダメです。
また、同じ犬種でも生まれた犬舎によって顔が違うので、幾つか見て比べるのも良いと思いますよ。「他のブリーダーさんも見に行くつもり」と伝えて、それで難色を示すようなら自分の犬に自信がないんでしょうね。
是非皆さんには犬との出会い、フィーリングを大切にしていただきたいです。ちょっとでも?と思ったら、その犬やブリーダーさんにこだわる必要はないと思います。
見学時のマナーとして、見学の日に、他のブリーダーさんの犬舎の見学やペットショップなどには決していかないようにしましょう。
ワクチン接種前の子犬は、まだ感染症のリスクが非常に高い状態です。他の犬に触れた手で子犬に触ることは感染症のリスクがありますので、衛生面には十分に注意が必要です。
子犬たちのために、見学のマナーとして見学は1日1犬舎のマナーを必ず守るようにしましょう。