【保護犬の里親レポート】
vol.04 保護犬を迎えるということ。|ワンコのご家族インタビュー山ノ上ゆき子さん(保護犬の里親さんの暮らし)

飼い主のいないワンコ「保護犬」を家族に迎え入れた飼い主さんに、そのきっかけや愛犬に対する思いをお聞きする『保護犬を迎えるということ。』
今回は、元保護犬2頭と暮らしている山ノ上ゆき子さん。現在は行動分析学をもとにワンコの心理を研究している山ノ上さんですが、幼い頃はワンコが苦手だったといいます。その恐怖心を払しょくできたのは、1頭の保護犬との出会いがあったからでした。

思わず抱きかかえた
産まれたての小さな命

小学生の頃、庭で放し飼いにされていたワンコに飛びつかれて、着ていた体操服を嚙み千切られたことがきっかけで、ワンコに恐怖心を抱くようになったんです。大人になっても、夕方に散歩しているワンコを見かけたら、避けて歩くくらい苦手でした。

今から約20年前、趣味のウィンドサーフィンで通っていた琵琶湖のビーチクラブの敷地で、野良犬の子どもが産まれたんです。更衣室から出ると、目の前に手のひらに乗る大きさの毛玉みたいな子犬がよちよち歩いてて、思わず抱きかかえてしまったのが、最初の愛犬との出会いでした。

当時10月くらいで、ビーチクラブのオーナーさんが「冬になって雪が降ったら、子犬は生きられないだろうね」って話しているのを聞いて、小さな命を救いたいと思い、飼うことを決めたんです。でも、私はワンコが苦手。だから、ワンコとの接し方やしつけに関する本をたくさん読みました。そこには「吠えない、噛まない、飛びつかない犬にできる」って書いてあったので、それを信じてみようって。

保護した子犬は、ウィンドサーフィンにちなんで風(ふう)と名付けました。飼うにあたって、「嚙まれそう」「吠えられると怖い」「不潔」といったワンコが苦手な理由を整理して、そうならない育て方を決意したんです。後に知り合った譲渡ボランティアの方から「和犬は3週間くらい心を開かないのが当たり前」だと教えてもらったんですが、本当に3週間くらい経ってから表情がやわらかくなった気がします。

しつけを通じて知った
ワンちゃんの気持ち

初めてのワンコとの生活は、留守番させるのも動物病院に行くのも初めてで、わからないことだらけでした。私はライターをしていたので、自分が知りたいことを企画にしてペット雑誌に持ち込めば、仕事を通じてワンコについて学べるんじゃないかと考えたんです。

無事にペット雑誌の仕事につながって、取材で学んだ接し方やしつけ方を実践していったら、風ちゃんはかなり賢い子に育ちました。もともと頭がいい子だったんだと思います。散歩中、信号で風ちゃんをお座りさせて待っているだけで、知らない人から「賢いね」と声をかけてもらえて、うれしかったですね。当時は、風ちゃんを忍者に見立てた動画『忍者犬 風』を撮影するのが楽しみでした(笑)。

風ちゃんと一緒に暮らす中で、「噛む」「吠える」といった行動には理由があることがわかっていきました。どのような心理でその行動を取るかがわかってくると、「今は触られたくないのね」と納得がいって、徐々に恐怖心が薄れていったんです。

仕事を通じてJAHA(日本動物病院協会)と出会い、それをきっかけに、アニマルセラピーのボランティアを始めました。また取材の中で、合格すると犬の訓練のプロとして仕事ができる優良家庭犬という資格があることも知りました。「風ちゃんは賢いから取れるかも」って親バカを発動して、風ちゃんが5歳の時に初挑戦。6歳の時に無事に合格したんです。

2頭目の我が子は
トラウマを抱えた元野犬

風ちゃんと一緒にさまざまな活動をする中で、保護犬の預かりボランティアを知って、一度だけ預かったんです。その時のsunちゃんは保護犬だけどとても人懐こくて、多少クセはあるけれど、あまり手のかからない子でしたね。

sunちゃんに飼い主さん候補が現れた頃、1頭のワンコの写真が保護主さんから送られてきました。その子は生後数カ月の子犬にもかかわらず、収容所の殺処分ブースにいたそうです。保護主さんは「なんとか交渉して引き取った」と、話していました。私の夫が「その子が気になる」と言うので、風ちゃんを連れて会いに行ったんです。

人間がいると隠れてしまう子だと聞いていたんですが、私の膝の上に乗せておやつをあげたら、食べてくれたんですよね。この子は私を選んでくれたんだと思って、うちに迎えることを決めました。その子が、今も我が家で元気にしている鈴(りん)ちゃんです。

ただ、鈴ちゃんとの生活は難しかった。もともと野犬だった鈴ちゃんは数々のトラウマを抱えていて、特に車の音を怖がったんです。家の外は戦場だと感じているくらいの怖がり方だったので、散歩が特に大変でしたね。車を見たらお座りさせるようにして、車が過ぎ去ったら「良かったよ」と声をかける。その繰り返しで、散歩に慣れさせていきました。

救いだったのは、家の中の鈴ちゃんは普通の子犬だったこと。おもちゃで遊びまくって、幸せそうだったんですよ。我が家には、風ちゃんと私たち夫婦の幸せフェロモンがあふれてたからかなって思います。

人生を変えた子との別れ
そして、新たな出会い

風ちゃんが10歳の頃に水腎症の手術をし、切除部分から腎細胞がんが見つかって、病院に通う日々が始まりました。13歳頃からナックリングがひどくなり、14歳で寝たきりに。その頃は仕事より、介護を優先しましたね。風ちゃんがいなかったら私の人生は今のようにはならなかったので、恩返しができるのは今しかないかなって。8カ月くらい介護したんですが、私の心の準備にそれだけの時間がかかったということでしょうね。

風ちゃんが旅立った後、夫がふと「風ちゃんがいないと寂しい」って言ったんです。そのひと言で、新たに1頭迎えることを検討し始めました。同じ頃に保護主さんが里親を募集していたのが、我が家のもう1頭の風愛(ふあ)ちゃんです。

天才犬だった風ちゃん、特別犬の鈴ちゃんと比べると、風愛ちゃんは普通の子。しつけの本に書いてあるような一般的なワンコに近い子で、散歩も大好きです。ただ、パテラ(膝蓋骨脱臼)なんですよ。ハンディキャップを持った子との接し方を、風愛ちゃんが教えてくれています。

ワンコと子どもの笑顔が
私にとっての喜び

鈴ちゃんも風愛ちゃんも、JAHAのボランティアチームでセラピー犬としての活動をしています。風愛ちゃんは子どもが苦手なので、老人ホームが中心ですね。

鈴ちゃんは子どもも好きなので、小学校に一緒に行くことも多いです。子どもたちと鈴ちゃんが一緒にいるところを見られることが、私の喜び。子どもが鈴ちゃんをブラッシングしたり撫でたりして、「気持ちいい」って笑顔を見せてくれると、幸せを感じるんです。

小学生の中には、ワンコが苦手な子もいます。ワンコから近づくと、怖がって遠ざかっちゃうんですよね。私もワンコが恐かったから、その気持ちがわかるんです。だから、鈴ちゃんにゴロンと伏せてもらって、子どもから近づいてもらうようにしています。ワンコが、子どもたちの笑顔のきっかけになってくれたら、うれしいですね。コロナ禍で直接人と会う場は少なくなりましたが、子どもたちとの交流は、オンラインも活用しながら継続中。そこでは鈴ちゃんだけでなく風愛ちゃんも活躍しています。

今後は、ワンコにかかわる仕事を約20年続けて培った知識やスキルを活かして、ワンコと人がともにハッピーになるために役立つこと、求められることをしていきたい。仕事でもボランティアでも、私ができることで応えていきたいという思いも強いです。

保護犬を迎えようと
思われている方へ

自分で保護した風ちゃん、元保護犬の鈴ちゃん、風愛ちゃんのおかげで、私と夫は毎日笑顔になれています。私たちのように、あなたと一緒に暮らす運命のワンコは、保護犬の子かもしれません。

保護犬の中には、sunちゃんのように人懐こい子もいれば、鈴ちゃんのようにトラウマを抱えた子もいます。保護犬だから人との生活が困難なわけではなく、それぞれに個性や性質があるんです。だから、保護主さんと入念にやり取りをした上で、自分のライフスタイルと合う子を迎えてあげてください。

そして、家族として迎えた子に何があったとしても、全部まとめて愛してあげてほしいです。人ができる一番の動物愛護は、一緒に暮らすワンコの面倒を一生見ることだと思うから。世の中の人全員が愛犬を大事にしていけば、不幸なワンコは減るはずです。保護犬に限らず多くのワンコが、飼い主さんと一緒に幸せに暮らしていくことが、私の願いです。

Writer

山ノ上 ゆき子さん

風鈴犬のこころ研究室代表。行動分析学、学習心理学、動物心理学などを学び、ワンコと飼い主の心理や行動を研究。学会発表や、“犬のこころ”に着目した飼い主さんへの指導やアドバイス、執筆活動を行い、ヒトとワンコが共にハッピーに暮らせる社会づくりを目指す。元保護犬2頭と暮らし、アニマルセラピー活動も行う。JAHA CAPP活動チームリーダー。千葉県動物愛護推進員。

山ノ上ゆき子さん

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