Introduction はじめに
あなたはかつて、どんな犬との暮らしを夢見たのでしょうか。
その夢の暮らしのなかで、あなたの犬はどんなふうに振る舞い、どんな笑顔をあなたに向けてくれていたのでしょうか。そして、あなたはどんな態度をイヌに対して取っていたのでしょうか？
犬との生活を始めたばかりの飼い主さんは、今の生活を振り返りながら、ベテラン飼い主さんは、今一度かつての懐かしい夢を思い出しながら、この第三回の記事を読んでいただきたいと思います。
Advisor
増田 宏司 教授
東京農業大学 農学部 動物科学科 教授。東京大学大学院を修了後、同大学院で学術研究支援員を務め、2006年から東京農業大学で研究と学生への指導を行う。研究だけでなく、飼い主向けのカウンセリングやワンコのしつけに使えるグッズの開発など、ワンコと飼い主が幸せに暮らせる社会を築くため、幅広く取り組んでいる。
01 ワンコの良い状態を見つけられる飼い主さんでいよう
考えてみれば人間とは勝手な生き物で、犬が問題のある状態になって初めて「困った」と訴え、問題が無くなると途端にその状況に慣れ、犬に感謝することがあまりありません。人間は平穏な状況よりも、困った物・事に目が行きやすいのかもしれませんが、実はここが注意点です。
問題のない状況とは、その場に問題がなく、一見特徴がないようで見過ごしてしまいがちですが、その状況を「良い状態か、悪い状態か」で判断してみてください。それらは少なくとも悪い状態ではありませんから、良い状態と判断できるのです。そう考えると、犬が走っていようが、くつろいでいようが、何もしていなくとも良い状態です。それら一つ一つを認識できることが、犬に気づいてあげられる飼い主になるためには重要です。その際、優しく声をかける、笑顔で頷くなど、犬を興奮させすぎない程度に褒めてあげることも忘れずに。
02 ワンコ目線で考えられる飼い主さんでいよう
飼い主さんが抱えるしつけへの義務感を、犬は理解していないであろうこと、しつけの時には飼い主さんも一緒に楽しんでほしいことは、前回述べました。犬は人との関係を強く求め、そして人社会をある程度以上に理解できる動物です。前述の「良い状態」を褒められる経験をしているイヌの中には、飼い主さんへの安心感やワクワク感が定着しているはず。それらを味方にしつつ、飼い主さん、あなたが楽しそうにしつけをしてほしいのです。
飼い主さんが楽しそうなら、犬もきっと、その「楽しそうな何か」に参加したいとワクワクするはず。わけのわからないままに、飼い主さんが自分に向かって何か（しつけ）をしようとしている、という状況と比べれば、いかに普段の生活で褒められて、飼い主さんへの安心とワクワクを犬の中に定着させておくことが重要か、わかると思います。「しつけの時だけの笑顔」より、「普段通りの笑顔」で、しつけに臨んでいただきたいと思います。
03 気なが〜に、気楽〜に、続けられる飼い主さんでいよう
しつけがうまくいかない、と訴える飼い主さんには、焦っている、という共通点があります。そんな時こそ、いったん立ち止まって考えてみましょう。その子は、覚えないのではなく、これから覚える段階にあるだけです。
飼い主さん、愛犬がぎこちなくも、初めて物事を覚えようとしているこの時期を経験できるのは、今だけです。どんなに焦っても、のちに「しつけられた犬世界選手権」が待ち構えているわけではないのです。お互いの生活を楽しむために、そしてあなたの愛犬の安全を守るために、しつけがあるのです。どうか焦らず、とにかくこの愛おしい時期を楽しんでください。楽しい時は早く過ぎ去ると言います。数年後に振り返ってみると、きっと楽しい思い出になっているはず。キーワードは、「この方法を、あと少しだけ続けてみよう。」です。
04 大切なことを忘れない飼い主さんでいよう
冒頭に「思い出しながら読んでください」とお願いした、あなたがかつて描いた犬との生活は、どんなものでしょうか？それはおそらく、犬が楽しそうで、その犬を見ているあなたも満足げで、幸せな雰囲気に満ち溢れている、ただただ、そんな風景のはずです。
飼い主さん、忘れないでください。あなたがどんな状態でも、あなたの愛犬は、一番大好きなあなただけを見て、張り切ってあなたに付き合ってくれていることを。どんなに忙しくても、どんなにうまくいかない日々が続いても、あなたをうれしげに見つめる愛犬の目。それだけは、決して変わることはありません。あなたの目の前には、何よりもあなただけを愛する、奇跡の動物がいるのです。そのことだけは、忘れないでください。あなたには、その子がいるのです。
Message for dog owners これからしつけをしようと思っている飼い主さんへ
第三回は、しつけ前の特に心の準備の重要性について紹介しました。私がここで紹介したことは、読まれた方によってはごくごく当たり前のことかもしれません。でも、当たり前のことほど忘れてしまいがちですし、何かの問題が起きた時に、いちど原点に立ち戻って考えるのが重要なことは、多くの方が経験していらっしゃるはず。
最初は犬と何がしたかったのか、犬に何を求めていたのか、それを認識することが、案外問題の解決につながるものです。また、犬に対してその認識を持ち続けることで、犬自身を混乱させずに済むでしょう。
あなたがかつて夢に描いた犬との生活の中でそうだったように、あなたの愛犬が安心して楽しげに、そしてうれし気に生活を送るために、ゆったりとした構えで、しつけに臨んでいただきたいと思います。しつけがうまくいかないと思っても、あと少しだけ、その方法を続けてみてください。万が一、その方法でうまくいかなかったとしても、他にもいろんな方法があります。飼い主さんと愛犬の数だけ答えはある。正解はたくさんあったほうが楽しいじゃないですか。失敗しても落ち込まず、あなたの相棒と一緒に、新しい方法にチャレンジしてください。
